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ドレスの下には短剣を  作者: こじまき
騎士から妃へ

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38/62

夫婦

次の日の夜、月明かりの下、白い服を着た私は北廊下で幽霊を待つ。やって来たクレオメ様は、私に気付いて足を止めた。


「クレオメ様。望んでおられないのなら、もうこれ以上、無理に西塔には行かれなくても」


クレオメ様が息をのむ気配がする。そしてため息。


「マーガレット様はご存知なのですね」

「ええ。好奇心が過ぎて…申し訳ございません」


クレオメ様は話し出した。夫婦で何度も話し合い、最初はクレオメ様も「子どもを得るため」と納得していたこと。けれど実際にダニエル様と夜を過ごすと、どうしても辛くて、もう耐えられそうにないこと。


「ダニエル様がどう、ということではないのです。とても良い方です。そもそも私たちが無理を言ってお願いしたのですし。けれど…」

「クレオメ様がリヒトール様を愛しておられるから…」

「ええ。愛のない行為はただただ虚しくて悲しいだけ。王家の血を引く子どもを授かるという目的があったとしても、私にはもう…」


暗がりから「クレオメ…」と声がする。レオに車椅子を押されたリヒトール様が廊下に姿を現した。


「クレオメ、すまない。私はこれがクレオメの…そして私たちのためだと信じて…そんなに辛い思いをさせてしまったなんて」

「殿下…」


「私は殿下の子ども以外は欲しくありません。それがわかったのです。痛いほど」と車椅子の上の膝に縋って泣くクレオメ様を、リヒトール様も「すまない」と泣きながら抱きしめ続けた。


「兄上、人が来ます。寝室へお戻りください。あとはお任せを」


クレオメ様に寝室から持って来た柄物のストールを被せ、二人を寝室へ戻らせる。私とレオはここでひと芝居。


「いたぞ!幽霊だ!」


振り返ると、近衛隊の隊員たち。「幽霊なんていない」「確かめに行こう」と肝試し感覚でやってきたのだろう。私はひらひらと指を動かし、彼らに手を振って見せる。


「ん?ええっ!マーガレット妃殿下!?が幽霊っ!?」

「あら、バレてしまいましたわね」

「妃殿下、なぜこんな時間にこのようなところに…」


「お転婆な妃殿下がまたなにか企んでいるのか」という顔でみんなが私を見つめる中、「俺と待ち合わせだ」と暗がりからレオが現れて私の肩を抱く。


「ヴァレオ殿下!」


隊員たちはみんな直立不動になる。さすがレオの信者たちだ。「殿下。”待ち合わせ”とは…」と誰かが意を決したように聞き、レオはコホンと咳払いして答える。


「まあ…あれだ。いつもとは違うシチュエーションで、と思ってな」

「ああ…そういうことでしたか…」


隊員たちの顔にニヤニヤが広がっていく。リヒトール様とクレオメ様、そしてダニエル様を守るためとはいえ、こんな嘘は恥ずかしすぎる。何か他に適当な作り話はなかったのか。彼らの視線が痛い。痛いよ。


「騒がせて悪かった」

「いいえ、とんでもありません!私どもこそ、お邪魔して申し訳ございませんでした。私たちは引き上げますし、誰もここには近づかないようにします。どうぞ、心ゆくまでお楽しみください」


「するか!ニヤけるのをやめろ!一切想像もするな!」と心の中で叫びながら彼らを見送ってひと息つくと、レオが後ろから私を抱きしめてくる。


「今日は本当に西塔に泊まるか?」

「泊まりません!」

「じゃあここで?」

「はい!?もっとあり得ない!何考えて…」

「たまには場所を変えてみるのもいいだろ」

「いや、そもそももう真夜中だから、普通に帰って寝る!」


寝室に戻って、レオに抱きしめられながら眠る。きっとクレオメ様もリヒトール様と抱き合いながら眠っているだろう。そう考えたらふっと笑みが溢れる。


「どうした?」

「クレオメ様もこうやって抱きしめてもらっているかなって思って」

「そうだな」

「子どもは諦めなきゃだけど、お二人にはこれで良かったんだと思う」

「ああ」


夫婦や家族の形はそれぞれ。誰がなんと言おうと、世間体がどうだろうと、本人たちが幸せな形が一番だ。


と、ふと、最初はレオにクレオメ様の相手の依頼が来ていたことを思い出す。もしレオが承知していたら…とレオとクレオメ様の姿を想像してしまい、「ああああああ」と叫びながら頭を振って、浮かび上がってきたイメージを振り払う。


「今度はなんだ。忙しいな」

「何でもない!」

「何でもなくはないだろ。すごい声だったぞ」

「聞かないで、見ないで、忘れて、もう寝て」


悟られたくなくて、顔を見られまいとレオに背中を向けるけれど、簡単に向きを変えられて顔を覗き込まれる。この紫の瞳は、私のことはなんでもお見通し。


「メグ以外の女性とはしない。これから先、一生」

「でも、例えば、私が子どもを産まずに早死にしたら…」

「早死になんてさせないが、もしそうだとしても、メグ以外とはしない」


「愛がなければ快楽も虚しいだけ。でもメグとは違う。喜びに満ちてる」と耳元で囁かれる。ああ、そういってもらえて嬉しい。


「嬉しい」

「何が。メグ以外とはしないことが?」

「違う。私とは喜びに満ちてるって感じてくれてること。私も同じように思ってるから」


そういって私はレオに口づける。


「愛してる、レオ」

「…あんまり煽るな。もう夜中の三時なのに」

「いや、そういうつもりじゃないって…キスしただけ…ちょっと!」

「もう遅い。メグのキスがどれだけ俺を煽るのかわかってないのか」


翌朝、赤い目をした私とレオは、リヒトール様とクレオメ様が申し訳なさそうにする目の前で、「噂の幽霊がメグだったと!?人騒がせが過ぎる」と国王陛下にたっぷり叱られた。部屋に帰ってから「父上に叱られるなど、久しぶりだ」と楽しそうにするレオに、恨み言のひとつも言いたくなる。


「もっといい嘘はなかったの?」

「ああいう噂ほど広まるものはないからな。他の噂が入り込む隙もない」

「まったく。私たちがどんな目で見られてるか」

「務めに熱心だと思われてるよ」

「もう!」

「実際そうだろ」

「…レオはもっと硬派な人かと思ってた」

「メグにだけ見せる顔があるんだよ。メグも俺にしか見せない顔があるだろ」

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