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ドレスの下には短剣を  作者: こじまき
騎士から妃へ

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王宮の幽霊

「リリナ、どうかしたの?」

「お嬢様…私…」


リリナの顔が青い。明らかに寝不足だ。それにビクビクしている。普段なら「妃殿下」と呼ぶのに、動揺しているのか「お嬢様…」と呼び方が昔に戻っている。


「私、ついにあの”王宮の白い幽霊”を見てしまったんです」


何かと思えば。私は思わず笑ってしまう。最近、王宮内に幽霊が出ると噂になっているのだ。侍女や騎士たちの何人かが、廊下を歩いている白い服を着た女の幽霊を見たという。


「幽霊なんているわけないじゃない。子どもじゃないのよ」

「でも!でもでもでもお嬢様!私は確かに見たんです。私だけじゃありません。カロライナ殿下付きのヘデラも、厨房のルビアも、それに…」


幽霊を見たという人の名前を列挙するリリナを落ち着かせる。幽霊なんているはずないけれど、これだけ「見た」と言う人が多いのだから、実際に白い服を着た誰かしらが夜な夜な廊下を歩いているのだろう。


「幽霊はどこを歩いていたの?」

「北の廊下です。西塔のほうへ向かって歩いていました」

「夜よね?」

「真夜中です。幽霊を見た人はみんな真夜中に、北廊下で、西塔に向かうのを見たと」


西塔は昔貴人を幽閉するために使っていた塔で、今は古くなって使われていない。幽霊が西塔に歩いていくというのがまた、「無実の罪で幽閉されたまま亡くなった王女が幽霊になって歩いている」みたいな噂を作り出しているらしい。


「ふーん…」


少し興味を持った私は、その「幽霊」に会いに行くことにした。真夜中、レオが穏やかな寝息を立てているのを確認してから、そっとベッドを抜け出す。寝着の下に短刀と警棒を装着し、灯りを持ち、ケープを羽織って出発だ。レオが寝返りを打ったのにドキリとしたが、ちゃんと寝てる。大丈夫。


北廊下のすぐそばにある植え込みに隠れて、廊下を凝視する。しばらく待っていると、来た。灯りを持った白い服の女。ショールみたいな布を深くかぶっているので顔は良く見えないけれど、灯りを持つあの左手。手の甲に三つ並んだ特徴的なほくろは…リヒトール殿下の妃、クレオメ様だ。いつも甲斐甲斐しくリヒトール殿下のお世話をして、前任の王太子妃として私を優しくサポートしてくださるクレオメ様。彼女は暗い西塔に入っていく。


「クレオメ様がこんな真夜中にこんなところで何してるんだろ?」

「そこまでにしておけ」

「ひっ…」


暗闇の中、真後ろから声がかかって叫びそうになる。後ろから身体を抱えられ、口を手で塞がれる。


短刀に手を伸ばそうとして、慣れ親しんだ匂いだと気づく。


「レオ…!もう、心臓止まるかと思ったよ」

「俺も、真夜中に起きてメグがベッドにいなくて驚いたぞ。武器もなくなってて」

「ごめん。幽霊探しをするなんて馬鹿みたいなこと言えなくて」


私を抱きしめたままピンクの髪の匂いを嗅いでいるレオに、「そろそろ離していただけますか、殿下」と頼む。


「行くのか」

「ここまで来たら行くよ」


「後悔するからやめておけ」と言いながら、レオも渋々ついてくる。西塔のジメジメした階段を登り、三階の部屋の前を通ると、古い木の扉の向こうから音が聞こえる。


そっと扉に耳をつけてみる。中を見なくても、()()が何をしているかわかる。くぐもった声と木が軋む音。なんてこと。あの、いつも優しくリヒトール様に尽くしておられるクレオメ様が。ああ、なんてこと。


息をするのを忘れたままそーっと階段を降り、生きた心地がしないまま寝室まで戻る。


「それで…どうする?」

「何もしない」

「どうして!?だってリヒトール様は裏切られて…」


レオはちらりと私を見る。


「兄上を見くびるな。このことに気づかないほど鈍感な方ではない」

「じゃあリヒトール様はクレオメ様の不義を知っておられるっていうの?」

「単なる不義かどうかも疑問だ」

「単なる不義じゃないって、どういうこと?」


それ以上何を聞いてもレオは答えてくれない。こうなったら自分で調べるしかない。また次の夜、私は西塔の前に潜んだ。せめて相手の顔を確かめてやる。


クレオメ様がそそくさと西塔から出てくる。顔は見えないけれど、息遣いと声からすすり泣いているようだ。何かひどいことをされたのかもしれない。そのあとで男が出てきた。


彼の顔はよく知っている。イルコーン公爵家の三男、ダニエル様だ。王弟の息子であり、レオ達の従兄弟にあたる方。彼がクレオメ様の相手なんて信じられない。誠実で、真面目で、リヒトール様ともとても仲がいいのに、どうして…?恋の力なの?


寝室に戻ると、レオがベッドに座って待っていた。やっぱり起きてたか。


「見に行ったのか、相手の顔」

「うん」

「知った顔だったか」

「ダニエル様だった」

「そうか」

「驚かないの!?従兄でしょ?リヒトール様ともあんなに仲がいい…」

「だからだよ。言っただろ、ただの不義じゃないって。今相手になれるのはダニエルくらいしかいないんだよ」


レオは話し出した。負傷して王宮に戻ってきてすぐ、リヒトール様に「クレオメ様との間に子どもを作ってほしい」と頼まれたこと。リヒトール様は病気のせいで能力を失ってしまったが、後継を残すためにも、子ども好きのクレオメ様のためにも、王家の血を引く子どもが欲しいのだと。


「俺は断ったが、王太子夫妻でなくなっても子どもは諦めなかったということだな。それでダニエルに頼んだんだろう。あいつはまだ独身で婚約者もいないから」

「そういうことだったの…」

「義姉上も納得しているなら、あの夫婦の問題だから、深入りするな」

「違うよ、レオ。クレオメ様は納得してない」


クレオメ様がすすり泣いていたことを告げる。きっと、リヒトール様の意向を受けて、納得しないままにダニエル様と関係を持っているのだ。


「あんなに辛そうな顔をして…そこまでして子どもを授かろうなんて」

「王族は子孫を残すのも仕事だとされてるからな。あの二人なりの責任感もあるんだろう」


でも、このままではクレオメ様はもっと傷つく。心をズタズタにしてまで、責任を果たさないといけないの?


「やめるかどうかは二人が決めることだ」

「やめるきっかけをあげなきゃ!それに、これだけ噂が広まってれば、私たち以外の誰かがクレオメ様とダニエル様のことに気づくのも時間の問題だし。そうなったら、ご本人たちの思いとは関係無く、悪い噂が立つよ」

「そうだな…噂の方は確かに問題だ」

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