恋する近衛騎士
「妃殿下、おはようございます」
「ベロニカ、今日の護衛よろしくね」
今日はカロライナ様、ネリネ様、リヒトール殿下の妃のクレオメ様とともに、この一年間で活躍した女性を表彰する式典に出席する。一番近くについてくれる護衛も、いつもは男性のアサファだが、今日は女性近衛隊員のベロニカが務めてくれる。妹殿下たちにもクレオメ様にも女性の護衛がついているので、何とも華やかだ。
「メグお義姉様、今日もお美しい」といつもの通りカロライナ様が褒めてくれる。今日の私は比較的シンプルな深い青のドレス。主役は表彰される女性たちなので、プレゼンターの私があまり目立ってはいけないと、このドレスを選んだ。ただ、生地に地紋が織り込まれているので、シンプルだが地味になりすぎるわけではない。
「この髪型も素敵。やっぱりリリナはいい仕事をいたしますわね。お義姉様のピンクの髪、とっても好き」と、ハーフアップにした髪の後ろに流した部分を撫でるカロライナ様。その撫で方が妙に艶かしくて、「ありがとうございます」といいながらの笑顔が引きつってしまう私だ。
「カロライナお姉様、メグお義姉様がちょっと引いてますわよ。嫌われたくなければほどほどに」とネリネ様。ネリネ様はもうすぐ同盟国サヘルの王太弟に嫁がれるので、これが最後の大きな公務となる。
そういえば、カロライナ様には婚約者がいない。レオのように、昔はいたけれど何かの事情で婚約が破談になったのかもしれない。聞きたいけれど、カロライナ様の恋愛対象が私…というか女性なのだろうと薄々感じていることもあって、なんだか聞きにくい。カロライナ様はサバサバした方だけれど、やはりこれはデリケートな問題だから。同性愛が原因で殺されてしまったライル軍曹のことを思い出す。
式典中、ちらりとカロライナ様に目をやる。王女だけあって、気品があって美しい。レオと同じ金髪に紫の瞳。今日は薄い紫のドレスを着ていて、とても似合って…
「カロライナ殿下、心からお慕いしています!」と声がして、私たちが並んで座っているステージに男があがってくる。殿下に一番近いのは私。ドレスの下の左脚から警棒を引き抜いて、テニスでバックハンドを打つように、男の脚に一撃をくれる。カロライナ様付きの護衛が、這いつくばった男を慌てて取り押さえる。
「メグお義姉様、ありがとうございます!本当に素敵…」
「いえ、これくらいのこと」
「私も警棒の使い方を習おうかしら」
「あ、杖術ならベロニカがとても得意ですよ。ベロニカ、カロライナ様に教えて差し上げたら?」
そういってベロニカを見ると顔を赤くしてアワアワしている。そんなに緊張するようなことを言ったかな。近衛隊員が護身術を指導するなんて、珍しくもないと思うけれど…
「そうですの?ベロニカ、指導してくださる?」
「よっ…喜んで」
やっぱりベロニカの態度はどこかおかしい。顔は赤くて目はキラキラして。
え、これって…ちょっと待って。
もしかして、ベロニカはカロライナ様のことが好きなの?おいそれとは聞けないけれど、一度その考えが頭に浮かんでしまうと、なかなか消せない。私はこっそりとベロニカとカロライナ様を観察することにした。
が、ほんの数日後にベロニカが退職すると挨拶にやってきた。
「ベロニカ、どうしてなの?」
「申し訳ありません、妃殿下」
それっきり彼女は何も答えない。女性で近衛隊なんてなかなかなれるものではないし、彼女はやりがいを持って楽しそうに仕事していたように見えた。結婚するわけでもないらしいし、異動ではなく騎士を辞めるなんて、急にどうして。
「あなたは優秀だし、辞めてしまうのは本当に残念よ。せめて理由を聞かせてもらえない?納得して送り出したいわ」
彼女は何か言おうとして口を開いて閉じて、また開いてを繰り返す。「言いたいけれど、なんと言っていいか」という様子だ。そんな彼女に私は躊躇いながら問いかける。
「違ったらごめんなさいね。もしかして、あなたの恋愛に関係あるのかしら」
ベロニカは大きく目を見開いた。息をしているか心配になる。
「そうです。カロライナ殿下をお慕いしています」
「カロライナ様はベロニカが自分を慕っていると知っても、怒ったり邪険にしたりはしない」と言ったが、ベロニカは首を振る。
「カロライナ様をお慕いしていること以前に、私が女性を恋愛対象にしていること自体が問題なのです」
「それは何も問題ないわ。だって、禁止されていたのは昔のことよ。そんなことで辞める必要はないでしょう」
ベロニカはまた首を振った。
「無言の圧力があるのです。妃殿下も騎士の世界のことはご存知でございましょう。このことが上司…隊長に知られてから、私の人事評価は下がる一方です」
「なんてことなの」
私は額に手を当てる。頭痛がする。ライル軍曹のことがあってから、レオは陸軍、海軍、近衛隊、治安部隊などでの彼らへの不当な扱いや評価、いじめを厳しく罰するルールを作った。差別は許さないという意思表示だ。そのレオに一番近くで仕える近衛隊で、こんなことが起こっているなんて。
「ベロニカ、辞表はまだ出してないわよね?」
「え?ええ、妃殿下にご挨拶してからと思いまして、今ここに…」
そう言ってベロニカは自分の胸に手を当てる。
「それ、預からせてちょうだい」
「どうして…」
「あなたを辞めさせたくない。女性で近衛隊に入ることがどれだけ難しいか、私は知ってる。あなたがどれだけ努力してきたか、想像するに余りある。そうやってようやく近衛に入ったのに、こんな不当なことで辞めてしまうなんて、許せないわ」
隊長を更迭して、能力を正当に評価する組織に変えてみせると私はベロニカに約束した。
「大丈夫だから。見てて。私はあなたのために闘う」
そう言って私はベロニカを抱きしめた。




