結婚
結婚式の日がやってきた。
実家には、リロイや班長など、結婚式や披露宴に参加できない人たちが朝から見送りにきてくれた。王太子成婚による恩赦で罪刑消滅となったシュミール様もいる。ロナルド様は披露宴に来てくれる予定だ。
「シュミール様にも見送っていただけるなんて」と言いながら、目に涙が溜まっていく。
「こんなことで泣かないで。メグのおかげだよ、ありがとうね。あ、いけない。妃殿下のおかげでございます」
「やめてください、敬語なんて」
「そういうわけにはいかないよねぇ」と、シュミール様、班長、リロイの三人は顔を見合わせる。
「リロイも…見送りに来てくれてありがとう」
「幸せを心から祈ってる。何か困ったことがあって、僕で力になれることがあればいつでも連絡くれ。幼馴染の親友として、助けに行く」
「うん」
実家から王宮に向かう馬車が通る道の両脇にはたくさんの人がお祝いに駆けつけてくれていた。地震のときにリロイと私がホールから助け出した子どもたちが演奏をしているのも見かけた。彼らの奏でる音楽やお祝いの言葉が馬車の中までビリビリと響いて、祝福されていることを文字通り肌で感じる。
ああ、それに。王宮には国民からたくさんのお祝いの品が届いているらしい。全て見ることはできていないけれど、ローズ様を捕らえた時の武勇伝が広まっているらしく、一生かかっても使いきれないくらいの短刀が届いているそうだ。「こんな物騒なものが王宮宛に大量に届くとは」と、レオが呆れ気味に教えてくれた。品物が物騒だが、それもお祝いの気持ち。そんなに祝福してもらえていること、そして騎士としての私のこれまでを認めてもらえているようで嬉しい。
さて、控え室では王太子妃付きの侍女たちがテキパキと支度を進めてくれる。その中には、私と一緒に王宮に来てくれることになったリリナもいる。すでに支度を終えたカロライナ殿下とネリネ殿下も、私の控え室で支度が進んでいくのを見学している。
私のウェディングドレスは、カロライナ殿下が「絶対にこのデザインで」とゴリ押し…いや、推薦したものだ。オフショルダーに、極端すぎないマーメイドラインのドレス。普段よりもかなり大人っぽい雰囲気のドレスだ。ネリネ殿下は「カロライナお姉様の好みではなくて、メグお義姉様が希望されるドレスを着るべきだわ」と主張してくれたが、カロライナ殿下が頑として折れなかった。
結局、ドレス選びに同席していたエビネ様も「よくお似合いになると思いますわ」と言ってくださったので、「よくわかっておられる方々が推薦するのだから」とこのドレスに決めた。腕がしっかり露出してしまい、筋肉が見えるのが心配なのだが、「髪を下ろしておけば緩和されます。絶対に大丈夫ですから」とカロライナ殿下。普段こんなに腕を出すことがないので、新鮮…というか違和感があるのだが…
髪はハーフアップに、そしていつもよりメイクは大人っぽく。支度が終わった私を眺めまわしたネリネ殿下が、カロライナ殿下に向き直る。
「カロライナお姉様、脱帽でございます。メグお義姉様の健康的な色気が引き立っておりますわ」
カロライナ殿下は私から目を逸らさないまま、ゴクリと生唾を呑んだ。
「そうでしょう、ネリネ。清楚な雰囲気でありながらセクシー。まさにメグお義姉様そのもの。私は本当は制服の方が好きですけれど…けれどこのドレスは…想像以上にいい…」
「ふふ、お兄様の反応が楽しみで仕方ありませんわね」
妹殿下も侍女たちも口々に褒めてくれる。リリナの声がしないと思ったら、彼女は感極まって号泣していて、喋れる状態ではなさそうだ。
扉の向こうで「メグ、準備出来たか?」とレオの声がする。私が答えるより早く、カロライナ殿下が「お兄様、メグお義姉様は本当に素敵ですわ!このまま剥製にしてしまいたいくらい」と物騒な答えを返す。「カロライナ、せめて彫刻とか絵とか…」と笑いながら入ってきたレオが私を見て言葉を止め、ポカンと口を開ける。妹殿下たちはその顔が面白くてたまらないようだ。「お兄様がこんな表情をするなんて」とお腹を抱えて涙を流して笑っている。確かにいつも冷静でキリっとした顔のレオには珍しい表情だ。
「あの、レオ?似合ってるか…」
質問を最後まで言い終わらないうちに、キスで口を塞がれる。「もっと見ていたいけど、お邪魔な私たちは外に出ましょう」とカロライナ殿下に促され、ネリネ殿下、リリナや侍女たちはこちらを見ながら渋々と言った様子で控室を出ていく。
「んん…レオ、だめだって。そんなにキスしたらお化粧が崩れる。せっかくきれいにしてもらったのに」
「結婚式に出ずに、このままここで二人で過ごしたい」
「何言ってんの。無理に決まってるでしょ」
「メグのこんな姿を、他の男たちに見せたくない。独り占めしたい」
「こんなって…」
「最高に綺麗で、そそる。男たちが夢中になってしまうだろう」
その言葉に真っ赤になってしまう。私の顎をつまむレオの指が熱い。
「ね、本当にもうだめだって。行かないと」
「あと五分だけ」
「んもう」
ようやくキスを止めたレオが「ひとつ確認だが」と私の目を見つめる。
「なに?」
「今日体調は万全か?」
「…?体調はいいけど、なに?」
「たぶん今日は夜遅くまで…もしかしたら明日の明け方くらいまで、メグのこと寝かせてやれないかもしれない」
また真っ赤になってしまった私を見て、レオは「やっぱりこのままここで過ごすか」と笑った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回からは「妃殿下の事件簿」編です。長い長いおまけだと思ってお付き合いいただければ^^




