宣言
「ローズ様が黒幕だったなんて。いつから知ってたの?」
「最初からだ。ネイトが事実を掴んだ時点で報告に来た」
パーティーがお開きになった後、レオの執務室で事件の顛末を説明してもらう。
私が退院した直後に、マグノリア様を殺したストーカー男と、カリオペ様の馬車に細工した過激派大工の行動履歴で唯一交わる点が見つかったのだ。それがローズ様だった。ストーカー男はローズ様主催の勉強会に参加し、過激派は屋敷の修繕でリード伯爵邸に出入りしていた。
「でもどうしてその二人が…」
「二人とも若くて精神的に不安定で妄想の世界に生きていた。その妄想のストーリーに共感して導くふりをしたローズに盲目的に従ってしまった」
「ローズが秘めているような狂気は、ときに熱烈な信奉者を生む」とレオはため息をついた。ローズ様が怪しいと思って周辺を調べたら、ハルクレイブ邸に侵入した殺し屋に連絡をとっていたこともわかったのだという。けれど、ネイト班やシュミール様がどれだけ探しても、状況証拠ばかりで具体的な証拠は見つからなかった。だからローズ様を捕まえるには、次のターゲットである私を襲うときに現行犯で捕まえるか、自白させるしかなかった。
「わざと警備を緩くして私を襲わせれば良かったじゃない。喜んで協力したのに」
「メグを襲わせるなんてできるわけがない。ネイトから”メグがひとりで黒幕をおびき出そうとしてる”と報告されたときには頭痛がした」
「班長、それもレオに報告してたの!?」
「メグが暴走しそうになったら報告しろと言っておいたからな。わざと襲わせるなんて危険すぎる。だから何とかして自白させるしかなかった」
「だからって、なんでレオがローズ様を何度も執務室に呼んで、あんなベタベタしなきゃいけなかったの?」
そのせいで私はあんなに不安になって、心細くて、婚約したことも後悔して。
「気を許させるためだ。俺もローズと同じ気持ちだと思わせた。テラスで”同じ気持ちだから、全部正直に話せ。全部もみ消してやる”と言ったんだ。テラスの隅に証人を何人か立たせておいた上で」
「ひどい嘘」
「時には必要だ」
「でもメグには一言も嘘はついてない」とレオは満足げに言う。確かに、隠し事はされたけれど嘘はつかれていない。
「でも不安だった。もしかしたら婚約破棄されてしまうのかと思って…レオが"やっぱり平民の娘じゃだめだ"って思ってるのかと」
「信じろってあれだけ言っただろ。こんなに愛してるのに婚約破棄なんてするはずがない。俺はメグなしでは生きていけないんだから」
「不安はこうやったら消えるか」とレオはキスをくれる。唇、耳、首筋、鎖骨とキスを落とされて、皮膚の感覚が敏感になっていく。そしてもう一度唇に。頭が溶けそう。
「まだ消えない。もっとして」
レオが唇を離したので、私はそうやってねだる。レオは一瞬驚いて赤い顔をしてから、またキスをくれる。
「もっとだよ。ん…」
「その顔、本当に綺麗だ。愛してる」
そういって、身体をきつく抱きしめられる。
「ちょっと痛い」
でもレオは緩めてくれない。
「痛いよ」
身をよじりながら「ねえ、ダンスの時もちょっと痛かったよ」と不満げに言うと、「いやらしい目でメグを見ている男どもから守らないといけなかったから」と私の肩に顎を乗せながらレオが答える。
「そんな人、いた?」
「あの場にいた全員だ」
「そんなわけないでしょ」
「いや、間違いなく全員だ」
「元騎士で、ピンクの天使で、平民初の王太子妃だから見てただけじゃないの」
「違う。やつらのあの目は」
「私どっちかっていうと色気ないほうだし」
頭を振って「メグは自分の魅力をわかってない」と言いながら、レオは私の顎を持ち上げる。
「確かに今日は綺麗にしてもらったけど」
「そういうことじゃない…いや。それもあるが、それだけじゃない」
「じゃあどういうことなの」
「言ったらおもしろくない。メグが自分の魅力を知らないのがいいんだ」
いつかロナルド様にも同じようなことを言われた。みんなして肝心なことは教えてくれない。
「いじわる」
そういって私は自分からレオにキスをした。
「なあ、さっきは一曲しか踊れなかったから、もう一曲踊るか」
「ここで?」
「そう」
そういってレオは私の手をとる。
「美しいマーガレット、どうか私とダンスを」
「ええ喜んで、ヴァレオ王太子殿下」
顔を見合わせて笑ってから、私たちは踊り始める。音楽も何もない。誰も見ていない。二人きり。「こういう時間が俺にとっては何より大切なんだ」とレオ。
「こういう時間?」
「心許せる相手と穏やかに過ごせる時間。素の自分でいられる時間だ」
王太子になり、想像していたよりもずっとずっと大きな重圧を感じているとレオは言う。軍隊で自分や仲間の命を懸けて戦っている時とはまた違うプレッシャー。国と国民を守るという責務。判断を誤ってはいけない。常に高潔で公正で、国民の手本となる人でいなくてはいけない。
私にとっては、王族としての重圧も、王太子、将来の国王としての重圧も、どんなものなのか想像することすら難しい。その重さをわかっていないから、彼の胸に飛び込めたのだとすら思う。ただ言えるのは、レオを支えていきたい、彼や国のためにできることならなんだってやりたいということだけ。
「私にできることは何でもやるよ」
「ずっとそばにいてくれ。それだけで大きな力になる」
「わかった」と言いかけるけれど、なんだかそれは私らしくない。
「そばにはいるけど、それだけじゃ物足りない」
レオがぷっと吹き出して「そういうところがメグだな」と笑う。
「だって、最初にプロポーズしたときにレオが言ったこと覚えてる?世の中を変えていく力をくれるって言ったんだよ。与えられた力は使わなきゃ」
「そうだな」
「レオのそばで一緒に闘うことで、私はあなたを支えるから」
「頼む」




