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ドレスの下には短剣を  作者: こじまき
花たちの嫉妬

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27/62

手を引け

ふと冷静になって、事件のことが気になる。


「班長。それで、犯人は?」

「身元不明だ。生け捕りにする余裕がなかったのが悔やまれる」

「そうですか。一人目が死ぬ前に誰の指示か聞いたんですが、何も答えなくて」


「カリオペ様の事件と同一犯なのかな」と呟くと、「それはない」と班長。私が寝ている間に、イオ班がようやくカリオペ様の馬車に細工をした犯人を捕まえたのだ。犯人は反体制の過激派に属する若者だった。


「ハルクレイブ邸の二人は、雇われたプロという印象だったろ」

「そうですね」


実行犯は三件とも別人だった。恋心をこじらせた狂気の子爵令息に、情緒不安定で暴力的な反体制の過激派、雇われた殺し屋。けれど。


「実行犯が別々なだけで、やっぱり関係がある気がしてならないです。候補者三人が立て続けに狙われるなんてどう考えても繋がってます」

「そうだな。まずは実行犯四人の共通点を見つけないと」

「ですね」


「メグ。仕事に戻るような口ぶりだが」とレオが口を挟む。


「え、もちろんだよ。医師のOKが出たらすぐに戻る。今は右腕には力が入らないけど、ちゃんとリハビリしたら剣も扱えるようになるだろうし」

「身体の問題じゃない。お前は俺の婚約者になるんだから」

「あ」


よくわからないけれど、普通は婚約が内定すれば、花嫁修業なりなんなりが始まるのだろう。王太子妃になるとなれば、外国語も政治経済も外交も身に着けておかなくてはいけないことは、いくら私でも想像がつく。しかも、もともと平民の私だ。カロライナ殿下が「貴族と平民は文化が違う」とおっしゃった通り、王族貴族の世界で生きてこなかった私は、その文化を理解し染まっていくことから始めないといけない。例えばエビネ様が王太子妃になるよりも、かなりスタートラインが後ろの方にあるのだ。結婚がいつになるのかは知らないが、学ぶべきことの量と質を考えれば、時間が十分にあるとはいえないだろう。


けれど、この事件を放っておくことなどできない。だって、黒幕がいて王太子妃になりそうな女性を狙っているなら、次に狙われるのは私。ロベリアに殺されそうになった時は、私の代わりにアルトが死んだ。また私が命を狙われるなら、今度も私の大切な人…家族や同僚が巻き添えになるかもしれない。そうなる前に黒幕にたどり着いて、自分の手で捕まえたい。


「レオ、お願いがあるの。婚約の手続きだの修行だのは、この三つの事件の黒幕を捕まえるまで待って」

「だめだ」

「なんで!?黒幕がいるなら、次に狙われるのは私だよ」

「だからだよ」

「自分で捕まえてやる。私は治安部隊の騎士なんだから」

「自分自身や家族が関わる事件の捜査からは外れるのがルールのはずだ」


「ネイト、そうだろ?」と聞かれて、班長は「おっしゃる通りです」と返す。そうだった。カレンドラ様の捜索の後、ロナルド様は始末書を書いていたっけ。


「メグと家族には二十四時間護衛をつけて、退院したらすぐ婚約の手続きに入る。諦めて、あとはネイトたちに任せろ」

「ぐぬぬぬ…」


レオは「絶対にメグを関わらせるな」と班長とロナルド様に命令して帰っていった。権力者め。


諦めきれない私が土下座する勢いで頼みこんでも、班長もロナルド様も、そして後日お見舞いにきてくれたギルバート様もイオ班長も、事件の資料は全く見せてくれない。捜査の進捗状況も教えてもらえない。この状況で頼れるとしたら獄中のシュミール様だけだが、入院中では会いに行くこともできない。


鬱々とした気分を振り払おうと病室でも筋トレに励んでいたら、私は医者が驚くほど早く回復し、あっさり退院の日を迎えてしまった。右腕に震えは残っていて細かい作業はできないけれど、家族やリリナが代わりにやってくれるはずなので日常生活に大きな支障はない。


退院すればあとはもう、私の意思とは関係なく物事が進んでいくだけだ。


まずは詰所へ私物を取りに向かう。治安部隊のみんなに見送られて、騎士としての生活を終えるのだ。隊長や班のみんなはもちろん、フロア中の隊員が集まってくれた。


「みなさん、短い間でしたがありがとうございました」

「幸せにな」

「ネズミが王太子殿下の婚約者になるなんてなあ」

「治安部隊出身の王太子妃なんて驚きだよ」

「殿下が視察にいらしてメグがここで倒れた時、何かあるって思ったよ」

「お前、そういう後出しはなしだぞ」

「未来の妃殿下、今のうちに握手を」

「俺は頭なでなで!」

「こら」


かしこまらずにわいわい見送ってくれるのが治安部隊らしい。大好きな大好きな、私の居場所。


「メグはいい隊員だったよ」

「隊長にそう言っていただけるなんて光栄です。一生の宝です」

「いつか近衛に異動して、メグ付きになってやるから待ってろ」

「ロナルド様がいてくれたら心強いです。うるさそうですけど。でも近衛になったらなかなか家に帰れませんよ」

「うーん…じゃあやめた」

「やめるんかい!」


班長も「黒幕は捕まえてやるから、安心して任せろ」と言ってくれる。ああ、自分で捜査できないのが本当にもどかしい。「あ、それならば」とある考えが閃いた私に、班長は「それはやめろ」と厳しい顔で言う。


「何も言ってませんけど」

「相手を誘き出すつもりだろ。わざと隙を作って自分を襲わせるとか」

「さすが班長、ご明察」

「そんなことは許さん」

「もう部下じゃないので、命令は聞きません」

「じゃあ友人として言う。やめとけ。危険すぎる。俺たちが捕まえてやるから」


「それに、まだ右腕は震えるんだろ。襲わせたとして、返り討ちにできないじゃないか」と指摘されて黙るしかなかった。かなり回復はしているが、細かい作業をしたり力を込めたりするとどうしても手が震えてしまう。


それでも諦めきれない私は、その足でシュミール様のもとへ向かった。けれどシュミール様のもとにもすでにレオと班長からのお達しが来ていた。


「ごめんね、メグ。協力できないよ」

「そんなぁ。シュミール様と私の仲じゃないですか」

「ネイト様とのほうが付き合い長いしね。それに、刑期が伸びるのも、リロイや殿下に殺されるのもごめんだよ。殿下だったら本当に僕を死刑にできちゃうんじゃない」

「彼はそういった私情は挟まない人です」

「冗談だよ」


「冗談はさておき、殿下や班長が言うように自分を餌に黒幕をおびき寄せるなんて危険すぎる。大好きなメグをそんな危険に晒すことはできない。ね、僕のためでもあると思って聞き分けて」と小さな子どもに言い聞かせるように優しく諭され、私は納得できないままに口をつぐむ。そんな私にシュミール様は言葉を続けた。


「これから多くの臣下を従える存在になるメグに、ひとつ真面目な話」

「何でしょうか」

「自分以外の人間を信頼して任せて結果を待つ覚悟が、リーダーだったり主君だったり、人の上に立つものには必要なの。ネイト様も、要所は締めるけど、基本は僕たち班員に仕事を任せて自由にやらせてたでしょ?新人のメグにすら」

「…はい」


「だからメグも、今回は任せて」と言われて、私は頷くしかなかった。


「それにさあ、王太子妃になるためのお勉強が忙しすぎて捜査どころじゃないでしょ?大丈夫なの?」

「あああああ…それ言わないでください。ほんっとに気が重い」

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