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ドレスの下には短剣を  作者: こじまき
花たちの嫉妬

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薄れゆく意識

それから、ネイト班が警備を担当するたびにエビネ様は私をお茶に誘うようになった。


「私、三人の候補者の中では最下位でしたの。なのにこんなことになるなんて。殿下もがっかりされてますわね」

「そんな…エビネ様は王太子妃にふさわしい、素晴らしい方です」


美しくて、優しくて、育ちの良さと教養が全身から溢れ出ている。何度か短い時間一緒にお茶をしただけの私も、彼女のことを好きになっている。誰からも文句は出ないはずだ。


「私は王太子妃になんてなりたくなかったのに。たぶんやる気のなさを見透かされて最下位だったのですわ」


意外な言葉に何もいえず困っていると、エビネ様は微笑んだ。


「ごめんなさい。こんなことを言って。困らせているわね」

「いいえ」

「わかってますの。王太子妃にと望まれることは私にとってもハルクレイブ家にとっても栄誉なことですし、殿下は心から尊敬できる方ですわ。勇敢な軍人。そして誰よりも国と国民のことを考えておられて、聡明で公平で、誇り高い方ですもの」

「では、どうして…」

「私の問題ですの」


「誰にも言わないと誓ってくださる?」と前置きして、エビネ様は「実は、他にお慕いしている方がおりますの。諦めないと、と思いながらも断ちきれなくて」と教えてくれた。妃候補にもそれぞれの恋愛事情がある。当たり前のことなのに、今まで考えてもみなかった。


少し恥ずかしそうに「これ…その方がご自分で彫金して作ってくださったの。手先の器用な方で」と、凝った模様が彫り込まれたペンダントを箱から出して大事そうに見せてくれる。ハートや星、小さな鳥の模様。これほどのものを手作りして贈るのだから、相手もエビネ様のことを大切に思っているのだろう。相思相愛なのに、別の人と結婚することになるなんて。


「誰か、殿下のことを心から愛している方が代わってくださったらいいのに。こんな気持ちで王太子殿下に嫁ぐなんて失礼ですものね」


「話を聞いてくださってすっきりしたわ。心の中で考えがどんどん膨らんで爆発しそうで、誰かに聞いていただかずにはいられなかったの。でも、誰にも言わないでくださいませね」と念押しされ、私は複雑な気持ちで仕事に戻った。夜はエビネ様の言葉を反芻しながら寝室の前に立つ。集中しないと、と思いながらも、「殿下のことを心から愛している方が代わってくださったらいいのに」という言葉が頭から離れない。


ふと、寝室の中で人が動く気配があった気がする。こんな時間にエビネ様が起きているなんて考えにくいけれど、ふと目が覚めてしまったのだろうか。「エビネ様?」とドアの前で声をかけると音がとまるが、返事はない。そっとドアを開けて中を確認すると、エビネ様は穏やかに寝息を立てていた。


エビネ様を起こさないよう、そっとそっと部屋を一周する。窓も閉まっているし、音がしたと思ったのは勘違いだったみたい。何もなくてよかった。エビネ様を起こさないよう静かに廊下に出ようとしたとき、クローゼットの扉が最後まで閉まっていないことに気づく。エビネ様も彼女のメイドも几帳面で、こんな風に中途半端になっていることなどない。


剣を抜き、足音に気を付けながらクローゼットに向かう。クローゼットの扉を開けると、男が潜んでいた。男はナイフを繰り出してくるが、予想していたので簡単に避けられた。斬りかかると、手ごたえがあって返り血が飛んでくる。「誰の指示だ」と聞いても答えはなく、ただガクガクと顎を動かしている。傷は深いから、もうすぐ死ぬだろう。


「何があったの!?」とベッドの上でエビネ様が怯えた声を出す。さすがにこの騒ぎで起きてしまったらしい。


「男が忍び込んでおりましたが、もう大丈夫です。エビネ様は…」

「ええ、怪我も具合が悪いところもありません」

「よかった」


ついつい人間の性でクローゼットの方を向いてしまうエビネ様の顔の方向を変える。「クローゼットの方は見ないでください。ここは現場になってしまいましたから、お部屋を変えましょう」と彼女を廊下に出し、班長とロナルド様を呼ぶ。エビネ様は顔にも服にも返り血を浴びている私を見て怯えた顔をし、顔を背ける。こういう反応をされると、血しぶきくらいどうってことなくなってしまった自分の感覚がおかしいのだと、改めて実感する。


「それはマーガレットの血なの?大丈夫なの?」

「賊の血です。私は無傷ですのでお気遣いなく」


こんなときでも私を気遣ってくれるエビネ様に感心した時。


「メグ、後ろ!」


抜刀して廊下を走ってくる班長の声に寝室を振り返ると、ナイフがきらめいた。もう一人いたのか。エビネ様の前に飛び出してガードすると、右腕をナイフで刺される。生きるか死ぬかの時に痛みは感じないが、ここは斬られたらまずい場所。上腕動脈をやられていたなら、九十秒後に私は死ぬ。すぐに意識が遠のいていく。


犯人が反対側からやってきたロナルド様に斬られるのがぼんやりと見え、エビネ様の悲鳴が聞こえる。お可哀想なエビネ様。こんなお嬢様が、人が斬られるのを目の当たりにするなんて。そうならないように守ってあげたかったのに。


班長が「まずいぞ。今止血してやるから」と処置してくれるが、近くにいるはずなのにそれもぼんやりとしか見えない。腕を触られている感覚もあまりない。


「…油断しました」

「反省はあとだ」

「意識が…」

「メグ!」


「マーガレット、しっかり!」というエビネ様の声も遠くで聞こえる。


私は本当に死ぬのかもしれない。


遠のいていく意識の中で、レオの顔が浮かぶ。愛してる、レオ。幸せでいて。


でも、レオはエビネ様と結婚して幸せになれる?そして、エビネ様は?


私だったら。私がレオと結婚出来たら。毎日たくさん話して笑って、辛いときには寄り添って、ずっと愛し続けるのに。死にたくない。レオのそばにいたい。なんで、愛してるのにレオの愛を受け入れなかったんだろう。ああ、私にはできるはずがないって、認めてもらえるはずがないって、ただただ怖かったからだ。レオは「支える」と言ってくれたのに…私たち二人ならできたかもしれないのに…選択を後悔してる。レオが言ってくれたように、立ち向かう勇気があれば…でも、もう…


「さようなら、レオ…」

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