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ドレスの下には短剣を  作者: こじまき
花たちの嫉妬

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20/62

「悪意」

「細工してたのはロベリアだった」

「聞いてる。実行犯は男だったんだってな。俺の言ったとおりだったろ」

「そうだね」

「それで、保釈だって?」

「そうなの。納得いかないけど」


ロベリアは実家を「貧乏男爵家」と言っていたが、しばらく前に男爵が投機で一山当てたらしい。男爵はそのお金を愛娘の保釈金として惜しげなく使って、ロベリアはあっさりと保釈された。ただ、隊員を…仲間を危険に晒した犯人だけに、今も治安部隊から監視をつけている。


「俺のせいで悪かったな」

「アルトが悪いんじゃないよ。悪いのはロベリアでしょ」

「そうだな」


カフェで私はカフェラテを、アルトはソイラテを注文する。さすがにここはアルトが運んでくれるが、どっちがどっちか、色が同じだからわからなくなってしまう。


「ん?あれ、これどっちがカフェラテ?」

「こっちが俺だろ」

「あ、どうも」


ズズとすすると、ソイラテだった。


「もう!これソイラテだよ。何素知らぬ顔で私のカフェラテ飲んでんのよ」

「交換するか」

「もういいよ、アルトが口つけたやつなんて。ソイラテで我慢する。お店の人も目印つけてくれればいいのに」


「ふふん」と笑うアルトを見て、私は大袈裟にため息をつく。それを見て「こうやってお前と話してるのが楽しい。みんなそうなんだ。お前は本当に愛されてる」と言うアルトの表情には、嫌味な感じは微塵もない。これが本当のアルトなんだな。こうやって見るとやっぱり男前だ。ロベリアが好きになったのもわかる。


そのアルトの顔色が変わる。


「アルト?」


返事がない。苦しそうだ。


「アルト、アルト!どうしたの?しっかり!」


床に倒れた彼の顔に耳を寄せて呼吸を確認する。息がない。


「アルト、息して!お願い!」


必死でアルトの胸を押すけれど、彼は息を吹き返さなかった。それでもやめられない。店にいた誰かが連絡してくれたのだろう、顔見知りの救急隊員が来て「メグ、もういい」と私の腕をどけたときには、私の腕の感覚はなくなっていた。救急隊員は彼の首に手を当て、まぶたを開けて瞳を確認して首を振る。


「学校の同期?」


黙って頷くと、彼は「残念だよ」と私の肩に手を乗せた。


運ばれていくアルトをただ呆然と見送る。ついさっきまで笑って話をしていたのに、私の目の前であっけなく死んだ。私は何もできなかった。店にやってきた治安部隊のイオ班に聞かれるがまま、状況を説明する。


「彼はお前のカフェラテを飲んですぐ苦しみ出したのか?」

「そうです」

「遺体を見たが、多分毒だろう。商品を用意した店員は?」

「注文係はあのレジの女性です。手渡してくれたのは、今ここにはいませんが赤毛にダークブルーの目の男性でした」


イオ班のネッド様がレジの女性に話を聞き、首を傾げながら戻ってくる。


「赤毛の男性店員なんていないって言ってるぞ」

「いや、確かに…」

「気が動転して記憶が混乱してるんじゃないか?」

「そんなはずありません。確かに見ました」


イオ班長がネッドさんに「メグの記憶力は確かだ」と言い、ネッドは赤毛の男を追って店を出た。私の頭にはロベリアの顔がチラつく。家にいるはずだけど、誰かを家に呼んだり手紙くらいは出せるはず。使っていた情報屋か、言い寄ってきた男に指示をしたのかも。きっと、消えた赤毛の男に指示して、私のカフェラテに毒を仕込ませたんだ。私を殺すために。なのに…なのにアルトが死んだ。


知らせを聞いてリロイが駆けつけてくれた。そっと肩を抱いてくれる。


「メグ、大丈夫か?」

「同期が目の前で死んだ。苦しんで」

「ああ」

「私が殺されるはずだったのに、彼が死んだ。私は何もできなかった」

「悪いのはメグじゃない」


そう言われても罪悪感は消えない。「ロベリアだと思うか?」という問いかけに無言で頷く。


「イオ班長には?」

「伝えた。ネッド様は実行犯らしき赤毛を追ってて、男爵邸にはサイクス様が向かってる」


イオ班長に「もういいぞ。帰って休め。誰かに話したければ詰所の医務室に寄ってけ」と肩を叩かれたが、帰る気になんてなれない。


「ここにいます」


イオ班長は「気持ちはわかるが帰れ」と、リロイに目で合図する。リロイに引きずられるように、私は家まで連れて行かれた。


そのまま家で制服に着替えて詰所にでる。「仕事なの?お食事は?」と声をかけてくる母に「遅くなるから要らない」と告げる。いつもなら「仕事しすぎ」と文句を言う母だが、私の顔からただならぬ空気を感じたのか口をつぐんだ。


私が待ち構えているのを見たイオ班は、みんなで顔を見合わせる。「サイクス、報告してやれ」とイオ班長に促されたサイクス様が「ロベリアは死んだよ」と告げた。


サイクス様が男爵邸を訪ねた時、ロベリアは余裕綽々だったそうだ。けれど死んだのが私ではなくてアルトだと聞かされた途端に取り乱し、その場で毒をあおったらしい。


「諜報部から持ち出した毒だったそうだ」

「そうですか」

「実行犯の赤毛も全力で追ってるよ」

「はい」


サイクス様は「あのロベリアがなあ…」と呟く。彼もロベリアをデートに誘っていた一人だ。


「メグの剣に細工したというのは何かの間違いじゃないかとずっと思ってたんだが、目の前で死なれてようやく事実だったとわかったよ」


「まさに”ロベリア”だったな」とイオ隊長。サイクス様も頷く。


「どういうことですか」


「ロベリアの花言葉知ってるか?」とネッド様に聞かれて首を振る。


「調べてみろ」

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