実行犯と黒幕
そして、またそれは起こった。出動がかかって剣を取りに走って確認したら、抜けない。しかも今回はその現場を班長に見られてしまった。叱責が飛んでくる。
「おい、またなのか!?」
「はい」
「お前、いい加減にしろよ」
普段は強く叱るときでも大声をあげたりはしない班長だが、今回は違う。詰所中に響き渡るんじゃないかと思える大声で私を叱りつける。すごい迫力で、怖い。肩を壁に押し付けられて、殺気すら感じさせるような目で睨まれる。
「自分だけじゃなく仲間を危険に晒すといっただろ。わからなかったのか」
「いえ」
「じゃあなぜ同じことを繰り返す」
「私にもわかりません」
「ふざけるな」
「お願いです班長、信じてください。私はちゃんと…」
「起きてることが全てだ。俺の班にこんな奴は要らない」
騒ぎに気付いて、厳しい顔のヘクトル隊長が近づいてくる。助け船を出してもらえるかと期待したが、甘かった。
「ネイト、少し落ち着け。マーガレット・フリン、一週間、現場に出ることを禁じる。書類仕事に専念しろ。現場復帰後、次にまた同じことをやったらクビだ」
ヘクトル隊長は、最後の一文をことさら大声で…フロア内に響き渡るように宣告した。憧れの隊長に、こんなことを言われてしまうなんて。
「隊長、そんな…お願いです。私はちゃんと手入れして…」
「言い訳は不要。ネイトの言う通り、仲間を危険に晒す隊員は要らない」
身体中の血が足の指先から抜けていくような感覚になる。詰所のみんなの視線を浴びながらふらふらと机に戻り、現場に向かうみんなを見送る。私の代わりにロベリアが現場に向かうことになった。リロイは心配そうに振り返りながら、そしてロベリアは私の肩をとんと叩いて出て行った。班長とロナルド様は振り返りもしない。みんなの姿を見送った後、私は手で顔を覆って涙を堪え、ひとつの決心をした。
その夜、私は家に帰らなかった。装備品の保管場所の前で一晩中張り込んだのだ。誰も来なかった。次の日も、その次の日も。家族は心配しているだろうが、気遣っている余裕はない。そして四日目。フラフラになりながらなんとか姿勢を保っていると、彼がやってきた。
装備係のユースタスさん。私の剣の鞘に何かを注ぎ込んでいる。ロベリアじゃない。彼が犯人だった。意外な犯人に、眠すぎて幻覚を見ているのかと思ったが、現実だ。取り押さえようとするが、フラフラで足が上手く前に出ない。目もかすんできた。
「おい、やめろ」と心が凍りそうな厳しい声がして、前を見る。いつの間にか、班長がユースタスさんを取り押さえている。
「なんで?は、班長…?」
「お前を信じてないわけないだろ」
「配属されたときから、装備の手入れを念入りにやっていると感心していた。一度ならまだしも、こう何回も起こるなら、お前の整備不良ではありえない。誰かが細工しているのだと思った」と言われて、安心感と嬉しさがこみあげてくる。班長は、私のこと信じてくれてた。
誰かが私に嫌がらせをしていると疑った班長は、ヘクトル隊長に協力を依頼して、二人で芝居を打ったのだった。班長が私を詰所の全員の前で叱りつけ、隊長が私に「次やったらクビ」と宣告する。こうしておけば、私の現場復帰が近づいたときに、犯人が私にとどめをさすためにまた細工しに来るだろうと踏んで。今夜、その読み通りにユースタスがやってきたというわけだ。
「あの、班長…」
「なんだ」
「ちゃんと話を…もっと聞きたいんですが…私もう…眠気が限界です…」
「寝ろ。顔が大変なことになってるぞ」
「はい…」
「可哀想に。ゆっくり休め」という優しい班長の声に安心して、私はその場で目を閉じた。身体が床に沈み込んでいくみたい。目覚めたら、張り込んでいた廊下ではなくて、ちゃんと詰所内の仮眠室に寝かされていて、毛布もかけられている。班長が運んでくれたんだ。時計をみると、三時。外が明るいから昼の三時だ。大急ぎで顔だけ洗って「寝坊してすみません!」とフロアに向かう。「もっと寝てていいぞ。四日分取り返せ」とロナルド様は明るい。
「っていうかメグ、寝ぐせがすごいぞ」
「慌てて起きてきたので。くくって誤魔化します。班長は?」
「ロベリアを取り調べてる」
「ああ、ユースタスさんを。え!ロベリア!?」
ユースタスさんはロベリアの指示で動いていた。ロベリアに一目惚れして、どんな餌をぶら下げられたのかは知らないが、言われるがままに私の装備に細工していたらしい。
「やっぱりロベリアだったんだ…」
「知ってたのか?」
アルトから教えられたことを告げる。そして、それを信じたくなかったことも。
「心を許せる友達だと思ってたのに」
「女の嫉妬は友情を超える。覚えといて損はない」
「それにしても、メグはモテるじゃないか。近衛騎士にも惚れられるとはね。こんな寝ぐせで」とロナルド様は私の頭をポンポン叩く。
「なんででしょうね」
「そういうとこだよ」
「え?」
「一生懸命すぎて、自分の魅力に気づいていないところ。リロイもそういうところに惹かれたんだろうな」
「やめてください。あ、ところでリロイは?」
「班長と一緒に取調室。あいつ、今まで見たことがないくらい怒ってた。ユースタスがあっさり口を割ったのも、リロイに脅されたからだ。ユースタスを刺し殺しそうな勢いだったぞ」
あの穏やかなリロイが脅しを使うなんて信じられない。驚く私に、「寝てる間に顔に落書きしても怒らない奴なのにな。愛されてるねえ、メグは」とロナルド様は冷やかすように笑いかける。
「ほんとやめてもらえますか。ここでそういう話するの。ちゃんと毎日コーヒー買ってきてるでしょ。指定のお店で指定の銘柄を。ロナルド様のためにわざわざ遠回りして出勤してるんですよ」
「ここ何日か差し入れがないぞ」
「張り込んでたからですよ!」




