アルトの本心
「アルト、二人で会いたいなんてどういう風の吹き回し?」
せっかくの休日なのにアルトと待ち合わせだ。これまでならレオ…殿下と会っていた火曜日だと思ってしまい、すぐにその考えを振り払う。
アルトには「同窓会ならロベリアも誘おう」と言ったのに、「二人で」と指定されたのだから仕方ない。なぜ二人で会わないといけないのか考えに考えた末、アルトはロベリアのことが好きで、彼女と同じ班の同僚になった私に橋渡しをしてほしいのかと気づき、ニヤニヤしながら彼に問う。
「もしかして、ロベリアのこと話したいの?」
「そうだが」
あっさり口を割るアルトに拍子抜けするが、自分の勘が正しかったと得意にもなる。
「ふふん、だてに精鋭揃いのネイト班で鍛えられてないからね。私の目は誤魔化せない。で、私はどうやって手助けしたらいい?」
「チビ、何言ってる?」
「ロベリアのこと、好きなんでしょ」
アルトは「なぜそうなる。そんなわけないだろ」と迷惑そうに言う。
「だってロベリアのこと話したいって言ったじゃない。意味わかんない、好きじゃないならどういうこと?何を話したいのよ?」
「ロベリアが暗躍してないか聞きたくて呼んだんだよ」
「暗躍ってなによ」
アルトから、騎士学校時代のロベリアの言動を聞いて驚く。私に好意を持った男子生徒たちの相談を受けるたびに「メグは授業に精一杯だから相手にしないはず」と門前払いしていたというのだ。
「全然知らなかった」
でもそれだけなら、嫌がらせではない。むしろありがたい。だって私は本当に授業に精一杯だったから、想いを伝えられても断っていたはずだ。気まずい思いをしなくて済んだと言える。そう言うとアルトは「呆れるほどポジティブだな」とため息をついた。
「お褒めいただきありがとう」
「褒めてない」
私はぷっと吹き出す。
「って言うか、私を好きになってくれた男子生徒がいたことが驚き。髪振り乱して汗まみれで訓練して、色気のかけらもなかったのに。モテるのはむしろロベリアでしょ。今だって詰所内ですごい人気なんだよ」
男どもがロベリアの色香に惹かれて花の周りを飛ぶ虫のように寄ってくると言うと、「それはあいつの本性を知らないからだ」とアルトは一蹴した。
「あいつの本性を知れば近づかないはずだ」
「ロベリアの本性って何なの」
「学校時代のあいつの所業は悪魔のようだった」
自分に想いを寄せる男子生徒を利用してカンニングしたり試験問題を盗ませたり、自分の手を汚さずに特定の生徒に嫌がらせして退学に追い込んでいたという。そう言えば退学した生徒のこと、悪く言っていたことがあったっけ。でも退学に追い込んだのがロベリアだったとは。
「それって有名な話なの」
「さあな。俺はロベリアに利用されたミュリエルと仲が良くて。利用されるだけされて捨てられて、おかげであいつの成績はガタ落ちだ。そのせいで王都の治安部隊には入れなくて地方に回された」
「そうだったんだ」
「おい、よく考えろ」とアルトは身を乗り出す。テーブルが小さいから、テーブルの下で膝と膝が触れそうなほど近い。
「ロベリアが異動してきてから、何か変わったことは起きてないか」
そういえば剣が錆びるようになったのは、ロベリアが来てからだ。そう気づいて、ためらいながら打ち明けると、アルトは「きっとロベリアだ」という。けれど、私がターゲットになる理由がわからない。あれは一歩間違えれば本当に死ぬくらいの大事だった。そんなに恨まれるようなことをしただろうか。
「人前でロベリアをけなしたとか」
「そんなことするはずないでしょ、友達なのに」
「向こうはそう思ってないぞ。あ、あいつの男を寝取ったとか」
「ばっ…馬鹿言わないでよ!」
男性経験なんてない私は、真っ赤になって言い返す。婚前にそんな、はしたない。
そもそも私の見立てでは、ロベリアが好きなのはアルトのはず。アルトと私の間には何もないのだから、恨まれようがない。そういうと、アルトは「それなら、まあ、そういうことだな」という。
「なに、そういうことって」
「俺がお前を愛してるってことだよ」
「へ?」
呆けた声を出したまま私は動けなくなってしまい、十秒かどのくらいか、間が空く。
「おい、息してるか?」
「いや…いやいやいや、冗談だよね?」
「冗談でこんなことは言わない」
あまりのことに声が出ず、開いた口がふさがらない。そんな私を見て、「口を手で隠すくらいしろ」とアルトは苦笑する。慌てて口を手で押さえ、外れそうだった顎を元に戻す。
「お前に会いたいから、ロベリアから誘われるままに三人で会ってたんだ。気づかなかったのか」
「そんな風に感じたことが全くなかった。いつも嫌味ばっかりだったじゃない。なんで…」
でも改めて彼から言われた言葉を思い出してみると、どれも私の負けん気に火をつけるようなものばかりだった。
「女だからって甘えるな」
「平民は貴族の三倍努力して一人前」
「できるもんならやってみろ」
もしかして、どれもこれも、いつもいつも。
「私がへこたれないように励ましてくれてたの?」
「効果あったろ」
「あった…けど、わかりにくい。完全に、私の中でアルトは憎まれ役だったよ」
「憎まれても構わないと思った。お前が夢に向かう力になれるなら」
そんな風に思っていてくれてたなんて。赤くなって「ありがとう」以外の言葉を言えない私に、彼は微笑む。初めて見る、アルトのこんな恥ずかしそうな、でもまっすぐ私に向けられる笑顔。
「困らせるつもりはない。これからもただの同期として付き合ってくれたらいい」
「うん、ありがとう」
「今までは嫌な同期だったけど、これからは大切な同期だよ」というと、アルトは「それは良かった」と吹き出す。「いつかお前が俺を、大切な同期以上に意識してくれたら万々歳だが」と手にキスをされて、私たちは別れた。キスされた手の甲が熱い。
翌朝「ねえ、昨日アルトと二人で会ってたの?」とロベリアに話しかけられてビクッとする。なぜ知っているんだろう。使っている情報屋にでも聞いたのだろうか。わざわざ?
「そう。ごめんね、ロベリアも誘おうと思ったんだけど、二人で話したいって言われて」
「そっか。何話してたの?」
彼女は躊躇う私の目を覗き込む。
「言えないなら無理に聞かないけど、嘘はつかないでね」
「うん。ごめん、言えない」
「そ」
意外にあっさり解放してもらえてホッとすると同時に、今まで見たことがないロベリアの一面を見た気がして空恐ろしくなる。本当に、私の剣に細工したのはロベリアなのだろうか。
そんなの…信じたくない。




