234話 魔法が使えない俺と震える森
ヴィルクザールへ近づくテロス。
奴らの気配を察知した俺らは帰路につく。
数は俺たちが最初に遭遇した時と同じくらいだから、ざっと100くらいだろうか。
「て、テロスがまた現れるなんて・・・ここはどうなってるんですか・・・!」
「あの魔物、テロスというのか。かなりの頻度でアイツらが出現するぞ」
息を切らしながら文句を言うアンジェに答えるレミリア。
頻繁に森に現れるテロスはヴィルクザールを襲いたいのか、それとも別の思惑があるのか、それは定かではない。
しかし、こんな高頻度で現れるとしたら、どれだけの人間が犠牲になっているのか、と想像するとムカっ腹が立ってくるね。
「そんな頻繁に現れて、よくなんとかなってるよね〜!」
「エルフが強いのは勿論だが、妙な奇跡もあってな」
「奇跡なのですか?」
なんとなくだけど、若干奢ってね?って雰囲気を背中から醸し出すレミリア。
まあ確かに強さは確かだろうな。
なんたってアイツら、核を破壊しないと倒せないし。
それに、奇跡って?
もしかして、俺らが戦ってる時に現れたあの雷か?
もしそうだとしたら・・・
「なあミシア。さっき言いかけた奴だけど・・・」
走りながら、先ほど中断した話をミシアに再度聞く。
「はい!簡潔にいいますと!テロスが現れて!もし、雷がまた落ちるようなことがあれば!エルフの!能力で!魔力か、感!魔力感知!できないか!と!はぁはぁ!!」
「や、ごめん」
ミシアって別に近接戦闘するわけじゃないから、スタミナがあるわけじゃないんだよな・・・
まあ何が言いたいかというと、エルフには魔力を感知する能力があると。
んで、俺たちを守った雷が魔法だと直感したミシアは、もしあの魔法がまた現れたとしたら、その魔力の出所をエルフに辿らせると。
そしたら、何か手がかりがあるのでは?って事を言いたいんだ、と思う。
辿った結果が別に空振りでもいいんだよな。
どちらにしろ、現状妹の手がかりがあるわけじゃないんだし。
「そうと決まれば、テロスどもを根絶やしにして、エルフの里を守るぞ!!!」
「サリス、人の話聞いてた?」
◇◆◇
里に戻る俺たちを待っていたのは、100を超えるテロスの大群と、それに対抗するエルフ達。
エルフの女性は基本弓兵が多いわけか、入り口に近い広場から矢の雨を降らせ、テラスに近接する男性陣が剣を振るう。
「ぬぉおおぉお!!!」と雄叫びを上げながら男連中がテロスに斬りかかり、ブヨブヨの肉を削ぎ落とす。
後ろの女性陣は、魔力を乗せた貫通力を伴う矢に加え、広範囲の攻撃魔法によって、後方のテロス達の身体を消し飛ばしていく。
これは俗にいう籠城作戦って奴だな。
基本こういうのって、守る側が有利だからなぁ。
矢が降り注ぎ、魔法が咲き乱れ、剣が舞う場には今の所、俺たちが目にした雷はまだ落ちていないようだ。
「みな!無事か!」
地面を蹴っ飛ばし、テロスに対し剣を振るう男性エルフ達の元へと駆け寄るレミリア。
レミリアは短剣を逆手に持ち、テロスの群れのうち一体を切り裂く。
「代表!お戻りで!今のところはなんとか持ち堪えてます!ただ・・・」
「なんだ?」
「こいつら、前より再生速度が上がってます!」
マジで?
テロスがアップデートしてるって事か?
テロスに目を向ける。
レミリアと男エルフ達が切り裂いた部位が、瞬きより少し遅いくらいの速さで元に戻ってる。
前は、人が歩く速度くらいの速さだったのに。
しかも、それだけじゃなさそうだ。
「魔法を受けて・・・強化している?」
レミリアが後方を見て驚愕する。
矢で穴が空いたテロスの身体は、エルフ達が放った魔法を受けた途端に筋肉が膨張し、傷は一瞬で癒えていた。
そして、後方のテロス達から放たれる黒い魔法は、普段見るものとは大きさも数も一回り以上強化されているように感じる。
握り拳くらいの黒い弾が、今は人の頭くらいにまでなっている。
つまり、アイツらは魔法を吸収して、自分の力に変換してるって事だ。
「そ、そんな!そんな事ってありですか!?」
「ちょ、魔法を吸収するなんて、それって・・・」
「ええ、英雄ゆうたと同じ能力ね」
「や、やばいのです!」
「歯ごたえがあるなぁ!!!!!」
これにより、魔導士達は手を止めざるを得なくなり、出来ることとすれば、奴らから流れてくる弾幕の防御のみ。
「く、クソ!こんな事があって、溜まるか!!」
レミリアは自身を鼓舞するかのように叫び、テロスの群れへと単身突っ込む。
「れ、レミリアさんが!」
魔法に依存しているアンジェとは奥歯を噛み締める。
ミシアは男性陣に向けて補助魔法をかけているものの、戦場は拮抗してる。
ニナ、ミュラ、サリスは男性陣と共に前線に立ち、テロス達に刃ないし爪を立てる。
俺も加わろうかと考えた時、ふと脳裏をよぎる。
「・・・でも待てよ?」
確かに魔力吸収は厄介で、魔法をぶつければぶつかるだけ相手を強化してしまう。
だがしかし、ゆうたには弱点があったはず。
王都でフィラから聞いた英雄の話だ。
確か
過度な魔力は体に収まりきらない。
限度量の魔力を排出、もしくは使用しなければ、身体がパンクする。
だったか。
なら、テロス1対に対して過剰な魔力をぶつければ、自滅するのでは?
「アンジェ、めっちゃ強い魔法をテロス1対に撃ちまくれ」
「・・・はい!?たくやさん!何言ってるんですか!そんなことすれば・・・」
「いいから!」
何言ってんだこいつ?ってくらいの戸惑いの表情を浮かべるも、渋々アンジェは魔法の準備を始める。
「あ、あなた様!?奴らに魔法なんて・・・」
「試しにだよ。もしダメなら俺が責任をもつ」
ミシアもまた疑問を浮かべる。
まあ、これでわかるだろ。
「い、行きますよ!『イグニート・スプラッシュ!』」
アンジェの魔法により、群れの中央あたりに存在するテロスの足元から、炎の間欠泉が吹き出す。
火なのか水なのかはっきりしない物質は、テロスの何体かを飲み込む。
灼熱の赤い水の中に閉じ込められる奴らの、ぶよぶよとした気色の悪い筋肉はどんどん膨張していく。
「ほ、本当に大丈夫なんですか!?」
「俺が責任取るから続けてくれ!」
「は、はい!!」
心配そうな表情を浮かべるアンジェ。
「あなた様!テロスに魔法は・・・」
「・・・いや、いけるぞ」
ミシアの心配をよそに、絶え間なく与え続けられる魔法を受けるテロスに違和感が発生する。
炎獄の水の中で魔法を吸収するテロスの膨張していく筋肉は、もうこれ以上はと言わんばかりに張り詰め、やがて
パン!
と何かが弾けるように、肉が破裂する。
「まさか!たくやさんこれは!」
「あぁ、キャパオーバーだ」
肩に位置する部位の破裂からその後、あらゆる部分が連鎖的に破裂を始め、やがて核だけが残る。
「魔法が、聞いているのか!?」
呆気に取られるレミリアに、俺は情報を渡す。
「奴らに魔法を与え続ければ、いずれ身体の方がもたなくなる。だから、テロスに魔法を使わせないようにしつつ、魔法をやり続ければ勝手に自滅する」
「流石あなた様!こんな短時間でよく的の弱点を!」
「いや、聞いてた情報なんだけどね・・・」
その事を聞いたレミリアは一度後ろへ下がり、広場にいるエルフ達へ情報を共有し、指示を出す。
「みな!!単発の魔法ではなく、持続的に敵にダメージを与える魔法を使え!」
半信半疑ながらも、エルフ達は「了解!」と口を揃えて代表の指示を飲み込む。
その時
ドン!
雷鳴と共に赤い空から突如として眩しい一瞬の閃光がテロスに落ち、奴らの何体かに直撃する。
こりゃ、俺が見た雷だな!
「レミリア!今の雷、魔法か?」
「か、雷が魔法・・・?いやまて、微かにだが、魔力のような気配が感じられ・・・」
レミリアの言葉が聞こえなくなる爆音2回鳴り響き、またもやテロスの何体かが巻き込まれる。
しかし、俺達の時と違い、それ以降雷が落ちることはなかった。
なんだ、今日は随分やる気ねえな。
まずい、もしかしたら魔力の痕跡がなくなるかも・・・
「雷の魔力の出所を探すぞ。何かの手掛かりになるかもしれない」
「いや、でも里の者達が・・・」
レミリアに提案する。
しかし、彼女は動く事ができない。
代表としてエルフの統率をしなければならない身。
危機的状況下で、彼女達を放っておけないのは里を纏めるものとして当然の事だ。
しかし
「代表!私たちは大丈夫ですから!行ってください!!」
「こんなやつらなんか、すぐに蹴散らしますから!!」
「エルフの力を舐めるなよ!」
集まるエルフ達から、無問題とレミリアに声を浴びせ続ける。
「・・・分かった。お前らにこの里を託す!私は雷の出所を探りにいく!」
レミリアは意を決して、里のエルフ達に背を向け、大地を蹴り上げる。
1人じゃ心配だけど、俺も肉ダルマどもを狩るのに協力しないと・・・
「たくやさんも!行ってください!」
アンジェ?マジで行ってる?
「あなた様、ここはお任せください。流石にレミリア1人じゃ心配です」
え、ミシアまで?
大丈夫かなぁ。
「ご主人様ー!早くいくのですー!」
「おい!お前はいらないからさっさと行け!!」
「ほら!早く行った行った!」
ニナ、サリス、ミュラもまた俺にレミリアの背中を追うように促す。
うーん、こっちも心配なんだけど、まあここで行かないって言ったら雰囲気悪くなりそうだし、ついていくか。
「わーった!!みんな、俺が戻るまで死ぬなよ!」
魔法と矢が飛び交う中を潜り抜けながら、俺は早るレミリアの後を追う。
戦場から抜けたんだから、一個でも手掛かりを掴めないと申し訳が立たねえよなぁ。




