間話 廃墟と過去とミュラの思惑
襲ってきたスライムを全て撃破し、俺の元へ皆が集まる。
「皆お疲れ様」
「お疲れ様でした、たくやさん。見た目に反して、かなり強かったですね・・・」
「姿形全く一緒ってやばくない?私、人混みにスライム紛れてても気付ける自信ないよぉ」
確かにミュラの言う通り。
見た目は全く人間そのもの。
気配察知できる俺や嗅覚が優れてるニナはともかく、普通の人間じゃ見分けがつかないかも。
「まあ、スライムが若い頃のマイフになったことが一番びっくりだけどね」
「あれが幹部なのですか?分からなかったのです」
「俺にはそう見えたけど・・・ミシアはどう思う?」
なんとなくミシアに振ってみた。
スライムを見た時怪訝そうな顔をしてたから、何かあったのかと思ってね。
ミシアは顎に手を添えながら俯いて話す。
「そうですね。確かにわたくしもそう見えました。スライムとマイフの因果関係は分かりませんが、少なくともここにスライムが生息していて、マイフが過去接触していた。と捉えてもいいでしょう」
「ふむ、さっぱりだな!」
まあそうなるよね。
サリスも含めて。
正直、こんなこと考えても時間の無駄だし、それに日が暮れてきたな。
俺らの目線の先にある、スライムが囲っていた大きめの廃墟。
入り口前はまるで、庭でもあったかのようなひらけたスペースがあり、地面が黒ずんでいる箇所が見受けられる。
所々崩れてるけど、寝泊りする分には大丈夫そうだな。
「今日はもう日が暮れてきたし、ここで休息を取らない?」
「ニナ疲れたのですー」
「私もー」
「全く!お前らは根性が足りないぞ!」
ダレたニナとミュラに叱咤するサリスは、俺の目から見てもうるさいなぁと思った。
「まあまあ、夜下手に動いても芳しくありませんし、ここは休憩しませんか?」
「脳筋は本当に人のこと考えられないのね」
「・・・しょうがない!休憩とするか!」
アンジェの説得とミシアの毒づきで、サリスは仕方がないと折れたらしい。
サリスがなんで仕切ってるんだろう・・・
◇◆◇
廃墟の中は埃が被っているものの、泊まる困る事はなさそうだ。
古いながらも案外綺麗。
見た感じ、大きめの一軒家ってところかな?机やテーブルが乱雑に置かれてて、確かに昔ここに人が住んでいた形跡が多少見える。
逆にそれ以外の痕跡は一切なく、家中の部屋を見回っても、特にこの場所の過去を想起させる物的証拠はないっぽい。
スライムの事を思い出すと、かつてここにマイフと10人の子供が住んでたって解釈でいいのかなぁ?
一通り中を探索した後、広めのリビングで休息を取ることになり、俺以外の皆は絨毯が引かれた床に寝転がり、睡の向こう側へと旅立ってしまった。
何故か寝付けない俺は、椅子に座りテーブルに肘をつけていた。
「・・・なんもないなぁ」
暗い室内の中に蝋燭が一本。
心許ない火の灯りだけが周囲を照らしてる。
聞こえるのは鳥の声と寝息の合唱だけ。
黙ってたら眠気が来るかなぁと思ったんだけど、そう上手くもいかないね。
「無理やり寝ようか、どうするか・・・ん?」
ふと目につく。
絨毯の端っこの部分、紙切れが下敷きになっている。
「なんだろう」
起こさないようにそっと近寄り、紙切れを手に取る。
それは
「んー、ん?写真?」
紙切れを裏返し、そこに写っていたのは横並びで立つ笑顔の子供達と、その後ろに立つ男の写真。
「まさかね」
火がユラユラゆれる蝋燭の方に行き、少ない灯りで写真。照らした。
暗がりでぼんやりしていた全体像は、過去を写し出した。
「さっき、俺らが戦ったスライム、だよな」
横並びの子供達のさらに前、スライム複数体も写り込んでいた。
マイフに子供達、仲良さげなスライム達との写真。
意味ありげ、だよなぁ。
この廃墟では元々、マイフと子供達、スライムが暮らしてて、なにかがあって魔王の幹部になったと。
そうなった時、幹部になる条件で考えられるのが、ここで事件が起きたってこと、かなぁ?
んー、考えが纏まらねー!
・・・ん?
「これ、さっき戦ったのと一緒だよね?」
「そうだね・・・ミュラ起きたんだ」
へへーと何故か満足そうな顔をして俺の横に立つミュラ。
起こしちゃったかなぁ。
「この写真見ちゃうと、ここに住んでたんだなって思わざるを得ないよ」
「まあな。でも、それ以外の手がかりはないし、何が起こったかまでは分からないな」
「確かに」と一言告げて俺の肩にもたれかかるミュラ。
暗がりのせいなのか、はたまた蝋燭の火のせいなのか、何故か心拍数が少し上がってしまう。
ちょ、この状況もしかして、事案??
いやいや、今はそんな事考えてる場合じゃ・・・
ゆっくり、ミュラの尻尾が俺の胴体に巻きついてくるのと同時に、ミュラの手が蛇のように俺の腕を這わせ、体温が侵食してくる。
え・・・逃げられなくねーか?これ
耳元で、聞こえるか聞こえないかくらいの掠れた声が囁かれる。
「ねえ、皆寝てるし、部屋いかない?」
顔を朱色に染め、潤んだ瞳に蕩けた顔を覗かせるミュラ。
彼女の両掌は俺の手を挟み、一本一本指を絡ませる。
あぁ、こいつぁもう覚悟を決めないといけないらしいな。
逆に、これを断っちまったら、相手の尊厳を踏み躙るのと同じだね。
・・・よし、いざ戦地へと赴かん。
早る動悸のせいなのか、俺の顔は強制的にミュラの顔へと引っ張られる。
目が合う。
唾を飲み込み、息を無理やり吸い込む。
「・・・ああ、それじゃ」
「寒いのですか?」
!?!?
ニナ!?
この俺が背後を取られるなんて!?
「え!ニナ!?起きたの!?」
ビクッと肩を上げたミュラが、すぐさま後ろに突っ立ってる獣耳娘に顔を向ける。
ニナは両目を手で擦りながら欠伸する。
「お花摘み行ってきたのです。寒いならニナも尻尾でご主人様を暖めてあげるのです」
あーなるほど、ニナはこの状況を単に暖を取ってると解釈したわけか。
果たして、この状況どうする?
言い訳をしてニナを無理やり寝かせるか?
いやぁ、でももうニナも尻尾で俺の背中擦ってくるしなぁ。
「いや!もう暖まったから!私も寝ようと思ってたし!ニナは先に寝てて・・・」
なんとかニナを寝かせる方向に持っていこうとするミュラの言葉に反応しつつも、「むーーーー」とロングトーンを発しながら、ひたすらに尻尾を擦り付けまくるニナ。
ガチで熱くなってきたんだけど・・・
摩擦で火つくんじゃねぇか?
「そうなのですか?それじゃあご主人様も寝るのですよね?」
首を傾げて、純粋な疑問を浮かばせるニナ。
コイツ、本当は何か察してるんじゃねえーの?
いや、何も考えてないよな。
「寒いなら、私の炎魔法でこの部屋を熱くしてやるぞ?」
「おめーも起きたのかよ」
「お前もとはなんだ!」
あーあ、サリスも起きて来たし、こりゃだめだな。
「ちょ!何やってるんですか!?」
「あなた様!?寒いのなら、わたくしが暖めてあげましたのに!!」
続々と起きてきて、もはや雰囲気もクソもねぇよ。
「よし!じゃあ聖剣を取り出してだなぁ!?」
「サリスは寝てても大丈夫なのですよ?」
「どういうことだ!?」
「あなたのポンコツ聖剣はいらないって言ってるのよ」
「言ったな!?!?今私を馬鹿にしたな!?!?いいだろう、私の聖剣が最強だとその眼に刻み込んで・・・」
「あー!!!!もう!なんでこうなっちゃうの!?!?」
・・・よく分かんねえし、寝よ。




