227話 魔法が使えない俺とエルフの森へ
王都へ戻り、はや1週間。
アンジェの容体は割と重かったみたいで、生きていることが奇跡、とのこと。
ミシアもこんなこと初めて!だそうだ。
普通の人間なら死んでいてもおかしくはないくらいのレベルだが、何を隠そうアンジェは普通の人間ではない。
彼女が天人族とのハーフであることを聞いたミシアは、妙に納得していた。
完治まではおおよそ一週間、それまでは絶対安静とのことで、俺達は黙って王都にとどまっていた。
というか、死ぬくらい危ない状態だったのに、一週間で治るとはこれいかに。
まあアンジェの様子を見たり、ギルドに行ったり騎士団に行ったり、町をぶらついたり、なんとなく平和な一週間だったね。
世界はそれどころじゃないんだけど、何もせずに王都にいると、魔王の魔の手が忍び寄ってきてるって事が、嘘なんじゃないかと錯覚してくるね。
まあ、そんくらい暇って事。
ミシアはギルドでの仕事で忙しいし、ニナなんか王都の子供と遊びに行くようになったし。
そんな感じなもんだから、自ずと俺はミュラと一緒にいる時間が多かった。
なんか色々あったから、多少暇つぶしになったかも。
1週間いたのにも関わらず、魔王の情報が一切入ってこないのがもうダメだよね。
入ってくる情報といえば、クラン達が魔王の配下を倒したって事くらい。
頑張ってるんだなぁ。
んで、アンジェが完治したって事で、これからエルフの森に行くところだね。
王都から出て少ししたところ、舗装された平原を歩いている。
「さあ!行くぞ皆んな!!」
「あなた様?コイツも行くんですか?」
「コイツとは何だ!お前もギルドの仕事があるだろ!」
「長期休暇取ったから大丈夫よ。あぁ、アナタは毎日暇だからお休みみたいなものよね?」
仲良くしてくれないかなぁ。
この中で一番盛り上がってるのは、間違いなくサリスであるが、それにしてもうるさい。
ミシアも何故かエルフに興味があるみたいで、一緒についていくことになった。
「アンジェ、本当にもう大丈夫なのか?無理してない?」
「大丈夫ですよ、たくやさん!もう完全回復です!」
もう平気だと言わんばかりに、両手でガッツポーズをとるアンジェ。
「完治はしてると思うけど、あんまり無理するんじゃないわよ?」
「分かってますよミシアさん、本当にありがとうございました!」
「何かあったら言いなさいよ」
アンジェはかなりミシアに懐いているようだ。
まあ、結構ミシアはアンジェを気にかけてたし、一緒にいる時間が長かったこともあって、親密度が上がったんだろうね。
初期のミシアからは想像できないくらいの成長である。
「てかさー、エルフの森ってどこにあるのー?」
「むー、ニナ的には右だと思うのです」
「一応ギルドから場所を教えてもらったぞ?」
先頭を歩きながら、こちらに声をかけるミュラとニナ。
分からないのに先頭歩いてたのかよ。
俺はミシアから地図をもらい、丸まった茶色い洋紙を無理やり広げる。
それと同時にアンジェ達もまた俺の方へと近寄り、円陣を組むように地図をのぞいた。
◇◆◇
エルフの森までは割と距離がある。
どれくらいかっていうと、歩いて4日くらい。
そして今日2日目。
現在は山を越え、下り、そして緑が徐々に姿を表した砂利道ってところか。
昨日の夜に仕留めた魔物を焼いた、骨付き肉を齧りながら俺たちは歩いていた。
「あぁー、飛龍乗りたいなあ」
思わず愚痴をこぼすミュラ。
「まあ、飛龍乗ったら多分2日も経たないで着くだろな」
「でしょー?ギルドで貸してくれないのかなぁ」
ミュラはミシアをチラッと見ると、目を向けられた彼女は「はぁ」とため息を漏らした。
「はぁ、依頼でも何でもないのに貸すわけないでしょう?サリスの時が異例なだけで、普段から貸さないわよ」
「ん?呼んだか?」
「「呼んでない」」
ミュラとミシア息ぴったりだなぁ。
まあ、ミュラとアンジェに関しては、二日酔いで乗ってないからね。
「私も飛龍乗りたかったですよー、今だって空飛んだら山なんて飛び越えるのだって簡単でしたし・・・」
アンジェは口を開けながら一点を見つめる。
あれ、この気配はどこかで?
「どうしたのですか?」
「いえ、あれって・・・」
アンジェが見ている方向をニナ始め、全員が視点を移す。
そこには1件の少し大きい所々崩れた廃墟と、周囲を囲む水分を膨らませたような、複数体の丸い物体。
あれって、スライムじゃね?
「あれは、スライムね」
ミシアは魔物を見て、いつものやつかと見飽きたような口調で正体を答える。
「スライムだと!?初めて見るぞ!」
「えー!スライムって結構可愛いじゃん!」
「なんだか、癒されますね〜」
「美味しそうなのです」
俺はアーデン襲撃の時に、スライムと対峙したから分かるけど、反応から察するに、同じ街にいたニナとミュラは見なかったようだ。
一応俺がアイツらの注意点を話しとくか。
「気をつけろよ、スライムは触れた奴の姿形、能力を全てコピーするからな」
「あなた様流石です!!よくご存知で!!」
いや、そんなに褒められる事じゃないんだけど・・・
そんなやりとりをしていると、スライム達は俺らに気づいたようで、ジリジリと近づいてくる。
「皆さん、スライムがこちらに来ましたよ!」
「まあでも、触られなければ大丈夫なんじゃないかな?」
「はは!なるほどな!!指一本を触れさせぬまま、成敗してくれるわ!!」
ミュラ、サリスをはじめ、なんとなくみんなはスライムを見た目で判断し、かなり舐め腐ってるようだ。
確かに、俺以外の誰かがスライムに触られた場合は、少し厄介かもしれないが、そもそも触られなければいい話だ。
だが、実際はそうではなかった。
「なんか、形が変わってるのです」
「ほんとだー!・・・なんか人の形になってってない?」
彼女達は気付く。
スライムというモンスターの厄介な部分を。
水をそのまま固形にして球体にしたような魔物は、どんどん人の形変化していく。
数は11。
それぞれ別の人の形、そして誰がどう見ても人間だと思うくらいには変化していた。
「えっと・・・人、ですよね?」
「子供がいっぱいなのです」
「なんだか、おじさん?が子供を守ってるような感じだよね?」
「す、スライムはスライムだろ!!」
俺達の目の前にいるのは、白髪が混じった前髪を上げたおじさんと、その後ろに隠れる子供達。
子供達の年齢は大体3~10歳くらいとまばら。それくらい小さい。
「いやいや、これってどういう・・・」
ふと俺は、ミシアの顔をチラっと見る。
彼女は眉に皺を寄せ、怒りなのか困惑なのか、ぱっと見では判断できないような表情を見せていた。
空気の変化に気付いたアンジェはミシアに向かって「どうしましたか・・・?」と声をかけた時
「みんな!くるよ!!」
ミュラの一声が、強制的に俺達を前に向かせた。
唯一の大人の皮を被ったスライムが地面を蹴り上げ、奴が俺達に突撃してくるのと同時に、その後ろから側だけの子供たちが、一斉に魔法の詠唱を始めた。
魔法陣は一つ一つが大きく、その七色に輝く魔力の光だけで、村一つの証明には十分だと言っても過言ではない。
「そ、そんな!あんな小さな子供があんな魔法陣を!?」
「アンジェ!相手はスライムよ。人間ではないわ」
アンジェの焦りを払拭するように、ミシアは声をかける。
そう、どんな形であろうと、奴らはスライムだ。子供相手に攻撃できない、なんて甘い考えは出来ない。
「なにがなんだか分からんが!敵に同情の余地はないぞ!おらああああああ!!!!」
「もー!サリス!一人で突っ込まないでよぉ!!」
「ニナもついていくのですよー!」
俺は剣を握りしめ、襲い来るおっさんスライムに迎撃を開始する。




