224話 魔法が使えない俺と次の目的地
俺たちは下の世界に戻るため、最初にここへと降り立った場所まで来た。
お見送りにはかなりの数の天人族が来てて、そりゃもう橋までびっしり。
女王から、今回の件の説明を受けた天人達は、かなり俺たちに恩義を感じているらしく、昨日なんてすごかったんだよね。
アンジェは部屋でずっと寝てたんだけど、俺とニナミュラ、サリスで外に出た瞬間にはもう、最初来た時の比じゃないレベルで囲われたっけか。
市場で割引商品を狙う主婦達が、己の命を削って密集し、戦うってくらいの密度って感じかな。
その中にはもちろん、俺と一緒に戦った?天人族もいて、めっちゃ手を振ってるわ。
それだけじゃない、ここら全てが俺たちの名前を呼んだり、万歳したり、もう耳が痛くなるくらいうるさい。
「それじゃー、魔王倒したらまた来るからー!」
「おかあさん!また会いに来るねー!」
俺とアンジェの発声から続いて、「バイバイなのですー!」「それじゃー!」「私のようになるんだぞ!」と、ニナ、ミュラ、サリスの順番に別れの挨拶をした。
それに呼応して、「うおおおおおお!!!」と大会の時の歓声と遜色ないくらい程のりんしょうが響き、周りの空すら震えてるようだった。
そいつらの先頭にいるのは、アンジェの母親とミュー。
母親は今にも泣き出しそうな顔を浮かべつつ、どうにか悟られないよう努めた作り笑顔を見せている。
それに釣られて、アンジェの目にも涙を浮かべていた。
母親と離れるって、こんな感じなんだなぁ。
そして、地面に描かれる円の図形中央に立つと、円は青く発光し下へと降りていく。
俺たちは手を振り、完全に見えなくなるまでその行動を続けるのだった。
◇◆◇
完全に外は見えなくなり、周りは真っ暗。
下を覗くとミューと最初に対峙した場所が、小さい灯りとして見える。
俺は衝撃で倒れないよう、万全ではないアンジェを支えている。
そんな中でアンジェは話題提供を開始した。
「私が寝ている間、皆さん何してたんですか?」
確かに、アンジェって昨日ずっと部屋にいたしなぁ。
ずっと母親が部屋の中でアンジェにつきっきりだったから、親子の時間は取れたかな?って思うけど。
「俺らは外いたよ。マジでワラワラ人集まって大変だったわ」
「むー、ゴミゴミしてやばかったのです」
「あれは疲れたよねぇ。嬉しいんだけど、気疲れっていうかさー」
「そうか?私は気持ちよかったぞ?」
サリスだけいつも通りだな。
褒められれば何でもいいんだろこの人は。
「そっかー、いいですねぇ。私も外行きたかったですよ」
「でも、母親とずっと一緒だったんだし、それはそれでよかったんじゃん。色々話したんでしょ?」
俺の言葉にアンジェは、「はい!」と宝石を貰った時くらいの嬉しさを表に出す。
「ずっとお話してました!お父さんの事とか、今までの冒険の事とか、あとお母さんの事とか!」
「アンジェ嬉しそうだねぇ!」
「お母さんに会えてよかったのです!」
そんな中で俺は「へー」とだけ言って、女性陣の会話を傍聴してた。
なんかテンションが合わないんだよなあ。
このコミュニケーションの難しさが、異性の差って感じるわ。
ひとしきり女同士で盛り上がった後、少し空気は落ち着いたようで、ぽつりとサリスが口を開く。
「母か・・・。最近会っていないな」
「サリスの母親ってどこいんの?」
そういえば、サリスの母親の事って聞いた事ねぇな。
「あぁ、お前ら見た事ないか?王都の宿でオーナーやってるぞ?」
「そうなんですか!?全然気づきませんでした・・・」
「そんな近くにいるなら、会ってあげればいいのにー」
「親不孝行なのです」
サリスはポリポリ頭をかき始め、斜め下を見る。
「いやぁ何というか、なかなか会う機会が無くてな。私も忙しい身分だし」
「サリスは窓際なのですよね?」
「やめろ!!」
そっか、てっきりもうお亡くなりになってるとばかり思ってたけど、オーナーって事は割と元気って事か。
王都の中にいるなら、会ってあげればいいのに。
逆に、いつでも会えるからこそ、会いに行かないのかなぁ。
・・・そんな中で気になるのはミュラである。
龍人族の里に行った時、両親の姿はなかった。
もしかして?ってちょっと嫌な想像を掻き立てる。
そんな俺の考えに察知したように、ミュラも口を開いた。
「いいなー、私も会いたくなったよー」
ゴクリと皆固唾を飲む。
これは聞けという前振りなのか、もしくは聞いてはいけないのか。
そんな微妙な空気が流れる中に、ノンデリが1人いた。
「ミュラのご両親は何をしているんだ?」
・・・まあでもサリス、ナイスだ。
こういうところだけは、尊敬に値するかもしれない。
「えーっとねぇ、ウチの両親、なんか旅に出てるんだよねー」
・・・あ、そういう?
特に重たい話題でもなかったか、安心だね。
てか、俺の考えすぎだったか?
「旅人なのですか?」
「そーそー、お兄ちゃんが里長になった途端に『旅に出る!』とか言って出ていっちゃったんだよー。あぁ、伝統行事の時には帰ってくるんだけどね〜」
そういえば前に、よく分からん伝統行事とかで、ボラと一緒に渋々里まで戻ってたけど、そん時は両親も帰ってたってわけか。
ていうか、長男に全部任せて旅出るとか、どんだけフリーダムな親なんだよ・・・
フォーは苦労しただろうなぁ。
「急に旅に出るって、ご両親すごいですね・・・」
「昔から、お兄ちゃんに村を任せたら旅に出るって言ってたんだよねぇ。やっぱ外の世界の情報を里に仕入れたい、的な?」
「・・・言いたいことは分からなくもないよね。・・・親子仲はいいの?」
「そうだね~、普通に話すくらいかな?前帰ってきたときは、エルフの話してたよ?」
エルフ?
そういえば俺、あんま会ったことないかも。
一応、師匠がエルフだったっけ?
でも、エルフのイメージって耳が長いってイメージがあったんだけど、師匠はそこまで長いと思ったことないんだよなあ。
髪の毛で隠れてたとか?
「エルフか!どんな話をしていたんだ?」
何故か興味津々のサリス。
彼女のツボはよく分からん。
「んー、なんか森の中にすごい幻想的な場所があって、そこに住んでるとかー、あと美形が多いとかー、なんかすごい女の子がいるとか?」
「女の子なのですか?」
「うん、なんだか100年に1度の逸材だとか言われてて、神に愛されてるみたいなこと言ってたよ?よくわかんないけどねー」
神か。
なんだか、神って単語を聞くと、さっきのバレスクからの話もあって、色々こじつける思考回路、良くないな。
「あ、私もお母さんからエルフさんの話聞きましたよ?仲のいい友達がいるとかなんとかって」
「おお、なんだかエルフに会ってみたくなったぞ!」
何でサリスは、そんなにエルフの事が気になるんだろう?
特別な感情でも抱いてるのだろうか、これが分からない。
確かに王都では見たことないし、実際あってみたい気もする。
でもなー、魔王と関係があんまり無さそうなんだよなぁ。
今の優先順位としては、魔王配下や幹部の討伐に加えて、現状の世界の象徴的なやつの確認。
あわよくば回収して、魔王の手に渡らないように厳重保管。
流石に天穹石は事情が事情だから、そのままにしといたけどね。
俺達が乗っている円形の浮遊物が最下層まで到達し、ミューと戦闘した大空洞に舞い戻ってきた。
相変わらず空間は明るく、最初に見た時の不気味な雰囲気は影も形もない。
さて、ここからまた王都に戻るか・・・
「なあ!エルフに会いに行かないか!?」
・・・は?
サリスが妙なことを言い出した。
「良いですね!私もエルフさんに会ってみたいです!!」
アンジェまで?
「ニナも見たいのですー!」
「あ!わたしも!!親から聞いた場所が、どんなところなのか気になるし!!」
やばい、これ断れないやつだ。
個人的には魔王関連を優先したいところなんだけど・・・いや待てよ?
エルフって確か長寿なんだよな?
ということは、魔王関連について何か分かるかもしれないし、有力な手掛かりがあるかもしれないね。
そうと決まれば行くか!っと言いたいところだけど、アンジェの身体に負担を強いることはあまりよろしくない。
「わかった、じゃあ次はエルフの住んでるところに行こうか。でも、行き方も分からないし、アンジェの身体もよろしくない。それに、フィラとミシアに情報共有をしたいところだ。一旦王都に戻らないか?」
俺の言葉を聞いて、アンジェ、ニナ、ミュラは快く賛同してくれたのに対し、サリスは些か不満を見せてる。
どんだけだよ・・・
とまあそんな感じで、王都へといったん戻るために、また俺達は薄気味悪い廊下の方へと進んでいく。
廊下も明るくしてくれればいいのに。
「皆さーん!」




