223話 魔法が使えない俺と悪魔の最後
– 少し前 –
「な、なんだこの少年は・・・!?」
「下の世界の人間は、ここまでの領域に達しているのか!?」
何故か戦闘に参加しないで、俺の戦闘模様を見守る天人族達。
えっと、参加してくれる?
バッサバッサと魔物どもを蹴散らしていく。
数は多いし、見た目が黒いのばっかりだから、てっきり通常の個体よりも強いのかなって感じで、1体1体手こずると思ってたんだけど、実際ちょろっと強い程度だね。
確かに、継戦面でいったら結構きついかも知らないけど、まあティニーの分身を何百体相手するのに比べたら、そこまでかなぁ。
黒いワイバーン10体が空から奇襲をかけてきて、滑空しながら火球を何発も飛ばしてくる。
俺は地面を蹴り上げ、火球を素早く弾き飛ばし、そのまま勢いを殺さずにワイバーンを1体、また1体と確殺していく。
ふう、とりあえず空からはもう来ないかな・・・
お、門からまた違う魔物が何体か入ってきたなぁ。
見たところそいつは水の塊?っぽいような魔物。
例えるなら、水をそのまま宙に浮かせて、風船の形にした様なやつ。
そいつらがぴょんぴょん跳ねながら侵攻してくる。
あんま強くなさそうだけど・・・
「こいつら!スライムだ!!」
「クソ!なんでこんな奴らまで」
へー、スライムって言うんだこれ、初めて見た。
見た感じ、そこまで嫌がる様な見た目でも無いけど、何が彼らをそこまで想わせるんだろう。
「は、早くコイツらを仕留めろ!」
「うおおおおお!!!」
随分とやる気なご様子。
ん?スライムの形が変わってくるぞ?
んで、どんどん人の見た目になって・・・
うわ、天人族になったんだけど?
どういうこと?
「クソ!誰かがスライムに触れたのか!!」
「触れられたらそいつの姿形、能力まで全てコピーされちまう!!」
だそうだ。
だからスライムは天人族になったんだね。
ということはだ。
俺が触ったら、スライムは俺の形になるのかな?
触ってみるか。
「おい!!何をやってるんだ!?」
「まあまあ」
棒立ちの天人族の皮を被ったスライムにスッと近づいて、チョンと触れてみる。
・・・んー。
俺は対象外らしい。
なんだか、面白くないなあ・・・
まあ、そんなこと考えても仕方がないし、とりあえず倒しとくか。
スライムは触られたことを感知し、俺に向かって魔法の準備を始める。
さらに数体は、手に剣、弓を作り出して俺に向ける。
「遅いよ」
『縮地』で加速し、通りすがりに3、4回剣を振るう。
切られたスライムは傷口から水を吐き出し、そのまま水流が止まることなく形を縮小させていった。
そして、残ったのは水滴のみ。
・・・あんまり、強くなかったな。
戦闘を終わらせた俺の後ろに、 何人かの天人族が近づき俺に話しかける。
「やあ助かったよ。君、とんでもないね」
「あ!この惨状、ちゃんと説明してくれるんだよな?」
あー、さっき後回しにしたっけ、一応説明を・・・
ふと、城の中から膨大な気配を感じる。
先程からうっすらとは感じていたが、この気配は間違いない。
恐らくルシールだ。
どういう理屈化は知らないが、どういうわけか蘇った様子。
天穹石は必要なく、自らの力で復活する。
しかも、ルシールの気配が徐々に増えて言ってる。
あいつ、復活する上増えるのかよ・・・
アンジェと母親、ミューがかなり危険だ。
一刻も早くその場所に向かわないと!
「おい!聞いているのか・・・」
「申し訳ないけどまた後で!あ、魔物は暫く来なさそうだから安心していいよ!んじゃ!」
「ちょ!」という声を無視して俺は城の中へと侵入する。
◇◆◇
そして今。
俺が大広間に着いた時に見えたのは、床に転がる十数人の天神族と奥の玉座前に倒れるミュー。
そして、真ん中あたりで倒れるアンジェと抱きかかえる母親。
そんな中、アンジェと母親の目の前には、先ほど俺が殺したルシールの姿があり、何やら奴は、1人でぶつくさ言っている。
「驚愕だ。俺様を何十回も殺すほどの魔法とはな。召喚先の俺様にまで影響を及ぼすその魔法、称賛に、価するぞ・・・」
成程。
妙にルシールの息が上がっているのは、魔法によって大ダメージを受けたからということだ。
そして、その魔法を放った主は恐らくアンジェ。
身体をピクリとも動かさないアンジェは、見たところ息はあるようだ。
身体に傷はなく、吐血あとだけがあるということは、かなり自分の身体に負担を強いて、魔法を使用したってことだよな。
確か、セブンズサイドでフィラが魔法を使い過ぎて吐血してたっけ。
アンジェは一人で奴をここまで追い詰めたってことだな。
それじゃ、その頑張りを無駄にするわけにはいかないね。
「貴様の事は忘れん。誇りを抱いて死ぬがいい」
ルシールが鎌を手に取り、アンジェに向かて振り下ろそうとしている。
どうやら、俺には気づいていないようだ。
なら、話は簡単。
『縮地』
全筋肉に指令を出して、一気にルシールとアンジェ達の間に割って入る。
そして、剣を構えて思い切り奴の腹に突き刺す。
ドス
「・・・!?き、貴様・・・!!」
面を喰らったような目をして鎌を落とす。
俺が剣を引き抜くと、ルシールは2歩3歩と後ろに下がり、腹を抑えながら少し前かがみになる。
アンジェと母親の様子を確認するため、俺は後ろを見る。
母親は息を切らしており、上体を起こすこともやっとな状態。
そして、アンジェは・・・目立った傷口は無い。
しかし、顔や手を見ると内出血が引き起っていて、痛々しい無理をした痕が刻まれていた。
アンジェは重たそうな瞼を少し開け、俺を見る。
それにしても、身体が動かない状態で鎌を振り下ろされるって、かなり怖かっただろうなあ。
俺は嫌だね。
とりあえず、アンジェには休んでもらわないと。
「大丈夫だから、怖かったら目瞑ってて」
俺の言葉を聞いてホッとしたのか、アンジェは瞼を閉じ全身の力が抜け落ちた。
・・・死んでねえよな?
おっと、そういえば母親もいたな。
「平気?後は俺やっとくから」
母親に安心を与えようと行ってみるが、本人は半分安心、半分不安といった難しい表情をしていた。
「ありがとうございます、あなたのお陰です・・・。しかし、気を付けてください。奴は倒しても復活します。厳密には、記憶を保持したもう一人の自分を瞬時に召喚します。加えて、複数体の自分を召喚する事も出来ますので、かなり厳しい・・・」
「わかった!ありがとう!」
一通り説明してくれた母親に笑顔で答えると、「え、いや」と困惑の表情を浮かべた。
いや、長々説明されても、俺理解できないから良さ・・・
まあ、多分言いたいのは、復活するし増えるってことだろ。
そんだけわかりゃ十分だな。
さてと、ルシールは・・・
「先ほどは負けをくれてやったが、今度は本気を出そう」
「はー?最初から出してほしいんだけど」
負け惜しみにしか聞こえねー。
もっとマシな言い分が欲しいんだけど。
「そいつから俺様の能力は聞いたな?そういうことだ。先ほど俺様と一対一でギリギリだったのだ。それを複数体。どういうことか分かるか?」
勝ち誇ったような雰囲気を漂わせるルシールは、両手で握りこぶしを作り、「はぁ!!」と叫ぶ。
すると、どこからともなく黒い魔力が、あらゆる場所から続々と集まる。
そして、その黒い魔力達はルシールに吸収されていき、元気を取り戻していくようだった。
「今町中に召喚されているすべての魔物を、俺様の身体に魔力として還元した。つまり、力が戻ったということだ。どうだ?絶望したか?」
・・・うーん、これってラッキーじゃない?
じゃあ、もう町の心配はしなくていいし、俺はこいつだけに集中すればいいってことだよな?
そして、床から魔法陣が次々に展開されていく。
「先ほどは10体ほどだったが、今は2倍、いや3倍まで俺様を召喚して・・・」
斬。
俺は気を取られているルシールに接近し、上から斜め下に斬り降ろす。
斬られた箇所はばっくりと割れるが、出血する様子は無い。
「ぐっ・・・さっきよりも速い・・・か。しかし、準備はもう・・・っ!?」
異変が起きる。
信じられないと言わんばかりに後退りをするルシール。
奴の中で、意外なことが起きたようだ。
「何故・・・何故!?何故起動しない!?!?」
そう、俺がルシールを斬ったことで、奴の能力が発動しない。
その証拠に、床中に展開されていた魔法陣がいつの間にか消えていた。
「思ってたんだよ。俺が持ってる魔法を殺す能力。それに、魔王の権能を破壊する能力」
奴は冷や汗をかき、一歩下がる。
「魔王ってのは元々悪魔なんだろ?じゃあさ、お前の能力も破壊できるよな?だって、魔王の権能って言ってしまえば、悪魔の能力みたいなもんだよな?」
また一歩下がる。
「あ、ありえない、ありえない!!!俺様が負ける?魔王に成り代わるであろう、俺様が!?」
叫びながら、現状を否定する。
「おかしいだろ!?!?相手は人間だぞ!!!現界して、魔力を吸収して、殺して、ここまで来たのに、負けるというのか!?!?おかしいだr・・・」
俺は哀れな悪魔の首元に剣を突きつける。
騒いでいた奴の声は急に途絶え、口もないのに唾を鳴らす音だけが聞こえる。
「一個答えな。お前以外に悪魔はまだいるのか?」
率直な質問だ。
また、こんなことが起こればたまったもんじゃない。
しかも、悪魔を倒せるのは聖属性?を持つ人と俺だけ。
こいつらを倒すには準備が必要だろう。
「・・・さあな。俺様たちは別に仲良しこよしじゃない。人間の都合で勝手に呼ばれただけだ」
「そうか、じゃあな」
剣を振る。
先程俺は普通に奴を殺した。
だが、今回は違う。
魔王の権能を破壊するときと同じように、こいつをたたっ斬る。
『魔王殺』
断末魔が部屋中に轟く。




