221話 魔法が使えない俺と疾走するアンジェ
「どいて!!『ヴォルカニック・バースト!』」
アンジェは都市の中を駆ける。
そこら中の魔物達がアンジェに焦点を当てて、餌が来たと言わんばかりに飛びかかってくる。
焦燥感に駆られた彼女は目くじらを立て、普段の雰囲気とは似ても似つかない程の荒々しい声が轟く。
炎が凝縮されたオレンジ色の球体が放たれ、魔物どもに着弾した瞬間に、パン!と炎が弾けて、襲いくる悪意の群れは、あっという間に消し炭になっていた。
「よっと」
俺はとりあえず、侵攻方向にいる黒い魔物どもを蹴散らしていき、アンジェの進路を着々と確保してく。
「ありがとうございます!たくやさん!」
「気にすんな!」
早る脚を止めずに御礼を言われる。
・・・うーん。
城までまだ距離あるし、魔物も続々湧いてくるなぁ。
それに、お世辞でもアンジェの足は速いとは言えないし、寧ろ遅いまである。
んー、じゃあ、やる事は1つだな。
よいしょ。
「た、たくやさん!?」
そうだね、アンジェを抱きかかえて俺が連れてく方が何倍も速いってことだね。
「わわわ」と1人でモゴモゴ何か言ってるアンジェを他所に、奥にそびえ立つ城に目をやる。
「しっかり捕まってな」
アンジェを落とさないよう、がっちりと抱え込み、脚に思い切り力を入れて地面を蹴る。
一気にスピードを出した時の衝撃でアンジェは「ひゃっ!」と声を漏らし、とっさに俺の背中に手をまわす。
周りの風景は加速するごとに、どんどん後ろに流れていく。
「は、速いですね・・・速い速い速い!!!」
「舌噛むぞー」
『縮地』を最大限活用し、ちらほらそこら辺にいる魔物、天人族の間を抜け、スピードを落とさないようにかわして進む。
混雑してるところは跳躍して飛び越えて、着々と同時にまた蹴り上げる。
流石に人を抱えてる状態で、『空蹴術』を使えないのが痛いよなぁ。
おし、城までもう間も無くだな。
大きな白い門を潜り抜けたら、大きな広場と中心に噴水。
魔物の手は、もはやここまで湧いてきてるっぽい。
ワイバーンやウルフ系、それにオークが数体。
城に入らせまいと、城の入り口前では天人族達が辛くも防衛している。
そうだなぁ、一旦アンジェには先に入ってもらって、俺はコイツらを殲滅しようかな。
俺は片手でアンジェを抱きかかえたまま、片方の手で剣を抜く。
「アンジェは先に行って。アイツら片付けたら俺もいくから」
アンジェは俺に言われた瞬間戸惑いの表情を見せていたが、すぐに気持ちを固めたように「ありがとうございます」と力強い返答をした。
「ここは倒さんぞ!!」
「ぐっ・・・まだだ、まだ終わらんよ・・・!」
などの言葉で自身を振るい立たせる何名かの天人族。
そいつらと魔物の間に割って入り、手こずっている方を優先して叩っ切る。
着地と同時にアンジェは俺の元から離れて、城の中へと走っていく。
よしよし、まずは第一関門かな。
俺は魔物の大群を見渡す。
いやー、白に黒のグラデーション。
とても汚いね。
魔物達は俺を見るなり雄叫びを上げたり、地団駄を踏んだりと、あまり歓迎ムードではないかも。
「き、君は、確か下の世界の・・・」
「この状況はどういう事なんだ!?」
「助力してくれるのか?」
なんて、天人族達は色々と俺の背中に話しかける。
「まあ、話は後で。まずは目の前の奴らを殲滅しようぜ」
振り向き彼らに声をかけると、数名の天人族は「あ、あぁ」と状況を飲み込めないと言った顔で、なんとなく俺に頷く。
その様子を見た魔物達は、一斉に俺らを殺そうとこちらへ猛襲を仕掛けてきた。
俺は剣を構え、一歩ずつ前へと進む。
そして、魔物どもに訴える。
「その場に止まりな。殺してやるよ」
◇◆◇
早る鼓動を確かに感じ取りながら、白霜を思わせる廊下を疾走する。
嫌でも不愉快な想像が脳裏に過ってしまう。
その都度、棒の様な脚は前へ前へと急かす傍ら、普段使われることの無い筋肉が悲鳴をあげ、これ以上はやめろと諭すように、拒絶反応を起こす私の身体。
この動悸は身体の影響なのか、それとも不安から来るものなのか。
白い視界は濁っていくそうな錯覚に陥ってしまう。
「はぁ・・・はぁ・・・お母さん」
城内は静寂に包まれており、1度も魔物と出会っていない。
魔物がこの町を襲撃しているとは思えないほど、音1つ鳴らない。
私にはその静寂が心地悪く、体内にまで侵食し心臓を強く握られている気分だ。
平常時に思考を巡らすならば、中までは侵食されていない為、お母さんは無事である筈と考えるだろう。
しかし
城内の重い静寂と、胸が張り裂ける程の動悸が、不愉快な想像を掻き立てる。
お母さんはここに居ないのでは?
魔物にもうやられてしまったのでは?
そんな実証もない妄想が頭にこびりついてしまうのだ。
・・・考えたって意味はない。
今は心配より、何が起こっても対応できるよう集中しないと。
正面奥の突き当りにある大きな二枚扉。
隙間が少し開いていて、中は見えないが光が零れている。
恐らくその向こう側は玉座の間。
おかあさんがいるとすれば・・・
脚がもつれつつも、二枚扉前に到着しゆっくりと扉を押す。
ギィィィ
重たい扉を開ける。
視界に広がるは予想通りの玉座の間。
長方形ながらも縦横ともに奥行が広がり、空間に吸い込まれそうな程の空間。
都市と同様の真っ白な空間に、天蓋から吊るされる青い生地の装飾。
奥行の行き止まり、つまり玉座に当たる部分の背面には縦長の巨大なステンドグラス。
不揃いなガラス片が散りばめられ、女性の顔と思しきデザインが、神々しく存在感を放つ。
「はあ、はあ・・・」
息を切らし、何回か浅い呼吸の後に唾を飲む。
「おかあさん!」
玉座の前に立つ、お母さんを呼ぶ。
呼んだ時、あっと息を呑む。
広間の床には十数名の天人族さんたちが転がっている。
よく聞くと呼吸音は聞こえる。
その向こう。
息を切らし、満身創痍なミューさんがお母さんを守るように前に立つ。
そして
「なんだ?まだ城内にいたのか」
耳が声を拒否する。
ありえない、まさか・・・だって。
奴はたくやさんが・・・
「アンジェ!逃げなさい!」
「アンジェさん!!ここは・・・危険で・・・うぅ」
お母さんとミューさんが、私に心配の声をかける。
先程まで全力疾走で火照っていた体が、血を抜かれたように冷たくなっていく。
背中をツーっとなぞられた様な悪寒と鳥肌。
奴は振り返り、横目に私を見下す。
「貴様か、また会ったな」
絶望が場を支配する。
息をすると冷えた空気が喉を劈く。
唾を飲むことさえ忘れてしまいそう。
「な・・・なんで・・・?」
思わず、乾いた声が漏れだす。
奴は「ククク」と喉を鳴らし、楽しみを取っておいたと言わんばかりのニヤけた目で、私を制する。
「聞こえてなかったか?俺様の能力は『召喚』。武器、魔物を俺様の射程距離に出現させる能力。無論、俺様にも適応している」
腰に両手を持っていき、翼をピンと張る。
「じ、自分を召喚・・・ですか?だって、死んだはずじゃ・・・」
「ああ、確かに前の俺様は死んだ。今の俺様は、前の俺様の記憶を引き継いだ別の俺様だ。分かるか?」
理解はできる。
納得はしたくない。
つまり
奴を殺しても、記憶を保持した別の奴が永遠と生み出される
ループ構造ということだ。
「いともたやすいだろう?そして、えげつない」
ギリッと音がした。
無意識に、私は奥歯を噛みしめていた。
恐怖はある。
それ以上に、お母さんへの脅威を実感した瞬間に、怒りがこみ上げてくる。
お母さんだけじゃない、天人族さん達、アーデンの町並み、ウラノシエラ。
全てを破壊せんとす奴の存在を許してはいけない。
その感情が沸々と煮えたぎり、血中を流れ、背中から脳天まで熱い何かが昇ってくるのだ。
「震えているのか?」
目だけでほくそ笑みながら私を見る。
「はい、怒りで震えています」
奴は「ほう」と意外そうな雰囲気を醸し出す。
更に奥から私を心配する声が聞こえてくる。
しかし、引くことはない。
一歩、足を前に出す。
「あなたはここで終わらせます」
一瞬の沈黙。
その後すぐに黒い肩を震わせ、やがて抱腹絶倒を体現する。
ひとしきり笑うと息をつき、私に向き直る。
「ならば、俺様に見せろ。このルシールが絶望のどん底に叩き落してやる」




