219話 魔法が使えない俺と悪魔の戯れ
アンジェ、ニナ、ミュラ、サリス、ミューが黒いドラゴンを。
そして俺は、ルシールと1対1でのタイマン勝負に躍り出ていた。
ルシールは割と鎌捌きが良く、ちゃんと俺の攻撃に合わせて防御から攻撃に転じたり、逆に避ける場面はしっかりしてる。
十数年封印されていたとはいえ、この身のこなしは中々って感じ。
斬り合いながら、ルシールは俺に質問をしてくる。
「貴様は魔法を使わないのか?」
「使わないんじゃなくて、使えないんだよ。悪かったな」
「ふん?・・・まあよい。どうやら貴様は魔法が使えない一方で、俺様の魔法を受け付けないようだ」
へー、わかってんじゃん。
だから俺に魔法を使ってこないんだ。
無駄に自分の体力を消耗させるからって事なのかな?
「もう一度聞くけど、お前は魔王の配下じゃねえの?」
俺の言葉にルシールは「クク」と笑う。
「配下、と言うよりは同郷のよしみだな。手伝ってやってるって言い方が正しいか」
「同郷?てか、自分ごとをベラベラ喋って良いのかよ」
なんだ?まるで魔王と同じ出身的なニュアンスだな。
それにこうも簡単に自己開示してくれるとは思わなんだ。
「あぁ、雑魚には語らないが、俺様にここまで迫る実力をもつ貴様には、教えてやっても良いな」
「えー感動。お前心広いのね」
強者ゆえの余裕なのか、それとも単に懐が広いのか。
まあどちらにしろ情報提供してくれる事には感謝だね。
銀と黒、両方の閃光を打ちつけ合う中で、ルシールは目だけ笑いながら話し始める。
「俺様と魔王はこの世界の種族ではない。違う世界からやってきたのさ」
「ほほう?」
「俺様がいた世界は『ペルガ・パティス』。所謂『魔界』だ」
所謂って言われても、そんな単語知らんし・・・
うーん、字面だけ聞くと、魔界の種族ってことは・・・悪魔ってことになる?
「んじゃっと、お前は悪魔なのか?」
「どうやら、俺様達はそう呼ばれているらしいな」
それじゃあ、俺の仮説はあってたってことか。
魔王は悪魔だったと。
それじゃあ前にあったベルフェクトも、コイツらと一緒で魔界ペルガ・パティスから来たってことね。
と言うことはだ、コイツも誰かの魂に入り込んで、魔力吸収して殺しまくったってことだね。
えげつねー。
「前に悪魔と会ったけど、お前らって誰かの魂に入って、魔力吸収して人殺しまくらないといけないんだろ?」
鎌を振るう両手を止めることなく、首を傾げる。
「それは違うな。俺様達がこの世界に来れるのは、人間が『悪魔召喚の儀』を発動した時。そして、召喚者もしくは召喚者の血縁者の魂、生き血、魔力を喰らい、俺様達は具現化するこれを俺様たちは『契約』と言っているな」
・・・ちょっと、言ってる意味がわからない。
聞く限りでは、ベルフェクトの件とは違ってるな。
ベルフェクトの時はいわば乗っ取りのような感じだったけど、コイツの話としては取り込むって感じだよな。
というか、契約とか言ってるけど、やってることは契約って言葉とはかなり無縁かけ離れてるんだよなぁ。
片方の刃と俺の刃がぶつかり合い、鋭い音を立てる。
もう片方の鎌が振り翳されると、それを反射的に横へとかわす。
その後、自分の体を横に回転させながらルシールの背後に回り込み、翼の一枚を叩っ切る。
「ぐぬっ!」と奴から痛烈な声が漏れる。
「貴様、強いな。しかしそれだけでは無い。悪魔に特攻があるようだ」
「へー、俺の能力って、魔法が効かないのと、魔王の能力を斬る事くらいだと思ったけど・・・あぁ、前の悪魔は払ったっけ」
「なるほどな。貴様は自分の力を知らなさすぎるようだ」
はー?何言ってんだコイツ。
一回斬られたくらいで、俺の何を分かるんだよって感じ。
それにしてもよく喋る悪魔だなぁ。
封印されてた反動で、おしゃべりでもしたくなったのか?
まあ、ほとんど質問してるのは俺なんだけどね。
「魔王の言った通り、侮れないな。人間は」
「ん?それって・・・」
英雄と言おうとしたが、それは憚られる。
「ぬぅがぁあぁあ!!!」と突如雄叫びを上げ始めると共に、ルシールの身体中から黒い魔力が放出される。
しかも、今まで見てきた配下や幹部のようなものとは違い、黒はより黒く、そして光を完全に断絶するかのような深い色だ。
肉体は膨れ上がり、筋肉はより強調され、斬った箇所の翼は回復するどころか、6枚にまで増える。
手は4本に増え、それぞれに鎌を持ち、より禍々しさが目立つ。
角はより禍々しくうねり、裸同然だった黒い身体中に眼球が現れる。
き、きめぇ・・・
体長は大体3メートル。
全体的にデカくなった身体は、こちらに圧をかける。
「俺様をこの姿にさせるとは、天人族でもできなかったのだがな」
「そうなんだ。ありがとうって言っとくよ」
「はっ!生意気な人間だ。さっさと貴様ら諸共殺して、天人族共を皆殺しにし、天穹石を貰うとしよう」
先ほどよりも少しでかい体で、4本の手に持つ鎌をブンブン振り回しながら俺に迫ってくる。
「ったく、なんでそんなに天穹石なんか欲しがるかなぁ。そんな魔王は魔神になりたいのかよ」
「魔王は己の野望の為に欲するだろう。だが、俺様は違う」
鎌の刃を俺に向ける。
「俺様が魔王に成り代わるからな!!!」
ドンとまるで地面を蹴ったかの様に空気を蹴ると、一瞬にして俺の目の前まで接近する。
なんだ?魔王になりたいのかこいつ。
なーにが同郷だよ。
「おー速い」
「いつまで余裕かましてるんだ?」
上2本の腕を振るい、俺へ鎌を十字に振り下ろす。
それをバックステップで避けると、ルシールは追撃として下2本を時間差で右、左と薙ぐ。
「おっとっと」
1回目の片方を剣で弾きつつ、その衝撃で後ろへと少し跳び、2回目の攻撃を避ける事に成功。
しかし
「逃さんぞ」
すぐさま俺に距離を詰め、4本の腕を多方面に振るう。
さらに、俺を逃さまいとダメ押しで、背中に生えている6つの黒翼をバサッと羽ばたかせ、羽1枚1枚が鋭い針となって、無数の雨となって襲いかかる。
はえー、羽生えてるやつは大体それするんだなぁ!
『剣舞・水月映華』
弾く。
俺が手の届く範囲全ての刃物を打ち落とし、猛攻を仕掛ける4本の鎌ごとついでに弾き飛ばす。
「は!ハハ!!」
仰け反ったかに思われたが、弾かれた勢いのまま翼を羽ばたかせ、更に上へと飛ぶ。
飛びながらルシールは12本の鎌を体の周りに召喚させ、それを高速回転させて投げ飛ばす。
「芸がないねえ」
12本の回転刃の隙間を縫ってやり過ごす。
そしてそのまま、宙に佇む奴の元へと接近を試みる。
「いいのか?そのままで?」
あぁ、分かるよ。
後ろから鎌がこっちに飛んで絡んだろ?
そして、4本の鎌が待ち構えてる。
それ、俺に効かないから。
「『月影』」
死角に入り込み、『気配遮断』する。
だが
「ふん、見えているぞ?」
「あーそっか」
奴の身体には大量の目が埋め込まれてる。
その目は単なる模様ではなく、ちゃんと器官として働いているみたいだ。
俺の進行方向へ鎌を振る。
このままだと首を掻っ切られるなぁ。
仮にかわしても、12本の回転鎌が背中にぶち当たるし。
それじゃあやることは1つ。
「終わりだな」
「あぁ、終わりだ」
鎌が振るわれる直前。
ルシールの懐に潜る。
「き、貴様!」
鎌の柄は長く、その先端に刃がついている。
なら、刃の内側に入れば多少次の一手に時間がかかるよね。
「この!このまま突き刺して・・・」
「遅いよ」
『水鳥流月』
表面にある目を全て潰す。
ルシールは絶叫しながら少しだけ体勢を崩した。
その隙に上へと跳躍し、後ろの鎌を避ける。
そして、回転する12本の物体は、そのままルシールの身体を切り刻む。
「おっ・・・おっ・・・おお!!!」」
「自分の攻撃にやられるなよ。寝過ぎて身体鈍ったんじゃねえの?」
四肢どころか、身体の至る所を切断された肉塊は空中から地上へと落ちていく。
悪魔は、自分の攻撃も喰らうみたいだね。
それにしても、流石に手応えなさすぎないか?




