202話 魔法が使えない俺と森を抜けて
「むー!疲れたのですー!!」
「ここまでサァ!魔物とサァ!連戦ってサァ!おかしくない!?」
「魔物の様子も、少し違いますよね・・・」
女性陣は、疲労からくる怒りを発散してね。
森を抜けて、ようやく魔物との戦闘が終わって、気がつけば朝。
一晩中戦ってたことになるんだけど、よくよく考えたらえぐいよね。
後半はもう、殆ど俺1人で戦ってたもんだから、流石に体力厳しいかもなぁ。
しかも、大して強くないんだけど、数だけは多いし見た目も気持ち悪いしで
戦闘面よりはメンタル面の疲労が大きいかも。
「私もうらめぇ!休みたいぃ!」
「ニナも動けないのです・・・ご主人様抱っこなのです」
「そうですね!たくやさんに背負ってもらいますか!」
「あ!私も私もー!」
こいつら何言ってるの?
1番の功労者に鞭打つってこと?
「というか、ここで休めば良くない?」
と俺が提案する。
けど
「ダメですよ!早く村の宿で休まないと!」
「そうそう!!一回休んじゃったら動けなくなるし!」
「ご主人様は人の心がないのです!」
え?なんで俺が悪くなってんの?
人の心がないって、どの口が言ってんだ・・・
「はぁ・・・じゃあ本当に、特別に、1人だけいいよ。後はじゃんけんして・・・」
俺がそう口にした瞬間、空気に緊張が走る。
ピンと糸が張り詰め、少しでも触れた瞬間にはち切れてしまいそう。
傾く太陽が徐々に天へと昇りつつある中、日によって影が伸びつつあるのに、時間が止まっているようだ。
固唾を飲む音が聞こえる。
その音さえも、心拍数を増やす要因になってしまっている。
「負けても、恨みっこなし・・・だよ」
「ニナは生きるのです。この瞬間を、そしてこれからも」
「私は皆さんのこと、大切な親友だと思っています。でも、そんなあなた達でも、私は進まなくてはいけません。明日に向かって」
早くしてくんね?
「じゃん!」
「けん!」
「ポン!」
◇◆◇
「ハッハッハッ」
俺は今、柔らかくて暖かく、そして妙に毛感触りの良い肉体を抱っこしている。
「・・・・・・」
先程よりも空気は一層重くなって、何故かは分からないけど、俺に目線が集中して、穴でも開くのかってくらい、鋭くて痛い。
「ワン」
犬である。
俺は、犬を抱いている。
「なんで、犬がじゃんけんなんて・・・」
「チョキ、だったのです・・・」
「私、夢見てますか・・・?」
アンジェ、ニナ、ミュラの3人が円になってジャンケンしてる最中、急に割り込んだ犬が前脚を出して、勝利を勝ち取ったってわけ。
皆んなパーを出したのに、犬はどういう理屈か、チョキを出した。
もぎ取ったわけだね。
いや、どういうことだよ。
「それにしても、どこからこのワンちゃん来たんでしょう?」
「分かんねえ。・・・いやでも、なんかこの犬さっきから、脚で方向を指してるっぽいんだよね」
そう、犬がワンワン言いながら、こっちにいけと言わんばかりに、右前足を突き出してるんだよ。
「あれ?」
「ミュラ、どうしたのですか?」
ミュラは前方のとあるものに気づいて、目を細める。
「あれって村じゃない!?」
「本当ですか!?やったぁ!!」
ミュラはどうやら、地図で見た村を発見したようだ。
それに伴って、アンジェのこれでもかってくらいの感嘆が轟く。
ここまで嬉しそうにしてるアンジェ、俺初めて見たかも。
人間追い込まれてる時、こんな情緒になるんだねぇ。
しかも、犬もどうやらその村に行きたいらしく、手を出しながらバタバタと暴れる。
「早く行くのですー!」
「あ!置いてかないでよー!!」
「私も!私も行きます!!」
俺を背に、女性陣は我も我もと走り出す。
・・・置き去りにされたなぁ。
「あんだけ元気なら、なんのジャンケンだったんだよ」
「ワン!」
「あぁ、お前は俺の理解者だね」
◇◆◇
着いたのは、ごくごく普通の村。
広大な畑が点在してて、特に目新しいものもなく、単純に風が心地よくて居心地がいい雰囲気の村だね。
王都にずっといたから、こういう村に来ると、なんだか心がスッと軽くなる感じするよなぁ。
一点を除いて。
「えっと・・・これって・・・」
「嘘、こんなところで・・・」
「これはやばいのですか?」
のどかな光景の中で、明らかに似つかわしくない物体がそこらを歩き回ってる。
「ゴーレム・・・だと?」
既視感を感じる。
岩でできた人型の物体。
パルスが召喚したものとは見た目や色が少し違うが、おおむね同じだろうね。
ただ、ゴーレム事態に敵意は感じないし、襲ってくる気配もない。
それどころか、物を運んだり畑作業をしているところを見ると、人間と密接に関わっている。
それくらい村人たちに溶け込んでた。
「お、おい!」
徐ろに、抱いていた犬が俺の腕の中から飛び出して、明後日の方向に走っていく。
飼い主でもいるのか?
すると、そこまで遠くへ行くでもなく、すぐ先に立つ男性の足元に駆け寄り、尻尾を左右に振りながらその場に座った。
「そうか、連れてきたか」
20は超えているだろう青年は、足元で待てをする犬から目を外し、俺らに注視する。
んー、村の人だよな?
それに、連れてきたってどういうこと?
青年はこちらはとゆっくり近づき、やがて俺たちに声をかける。
「俺たちの村へようこそ。俺はシーン、錬金術師だ」




