197話 魔法が使えない俺とお仕置き
切断したはずのシウの手は、芽が成長して伸びていくような感じでどんどん再生していく。
「お、おい。大丈夫かよシウ」
「大丈夫よ・・・なんがなんだか分からないけど、とりあえず殺さないと駄目ね。そしてあのピンク髪も腹立つわ!サリスを元に戻して、あのお高くとまってるピンク改竄して、精神破壊してやるわ・・・!」
ジーマの心配に対し、激怒しながらこれからの予定を話すシウ。
しかし、まずいね。
もしフィラが記憶を改竄されたら、それこそすべてが崩壊する。
俺がもうさっさとやっちまった方が・・・
「たくや様」
「ん?」
フィラが冷たい声で俺の名前を呼ぶ。
なんだろう?何か考えがあるのかな?
「あの女はわたくしがやりますので、そこで見ていてください」
「マジで?大丈夫?」
「愚問です」
ありゃ、フィラ相当腹立ってるみたいだなあ。
背中から鬼が出てきてる気がするもん。
俺の後ろにいたフィラは、コツコツと音を立てながら歩き、俺を抜かして前に出る。
そんなフィラの様子を見たシウは、自身の手を完全に再生させており、それによって余裕が生まれたのか、虚勢を張るかのように笑う。
「アハハ!!馬鹿じゃないの!?そんなゆっくり歩いてたら、気がついたら自分じゃなくなっちゃうかも・・・ぎゃああああ!!!!」
「は、はぁ!?!?またかよ!?何がなんだってんだ!!!」
再びシウの手は切断され、血飛沫を振り散らかし、シウの様子を見て絶叫するジーマ。
彼女視点で見れば、瞬きした瞬間に手が切断されていたことだろう。
そんな中、俺だけが一部始終を知っている。
時間を止めて、どういう理屈かは分からないけど、見えない斬撃でシウの手を切断してるんだよね。
「なにをしているのですか?ゆっくり歩いているのですから、早く魔法を使ってくださいませ?」
「ば、馬鹿に・・・しやがてぇ・・!!!」
再び手を再生させてシウは、優雅に歩き近づいてくるフィラに手を向けようとする。
しかし、フィラに対して手が向くことはなく、再生したはずの手が無くなり、血を吹き出す。
「な!なによ!!なんなのよこれええええ!!!!」
再生、切断、再生、切断・・・
・・・
この状況が何回も何回も繰り返し起こり、シウの表情は怒りから恐怖へと切り替わっていく。
「いや!いやあ!!!もう嫌!!!なんで!?意味が分からない!!痛い痛い痛い!!もう嫌なのぉ!!!」
「はい?あなた、今嫌って言いましたか?他の方は、あなたの魔法で嫌とも言えないのに?」
フィラも意地が悪い。
シウの再生には多少時間が掛かる。
だから、完全に復活するのを待ってから切断してるんだ。
こ、こえー・・・
「ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんさ・・・ぎゃあああぁぁあ!!」
「謝らないでください。これはお仕置きなんです。あなたが身体を再生し続ける限り、わたくしはあなたを切り続けます。なぜ再生するのかは存じませんが、あなたが魔法を解かない限り、永遠に繰り返します」
「わかった!わかった!!解く!!魔法解くから!!もう手を切らないで・・・ぎゃあああああああ!!!!!」
魔法解くって言ってるじゃん・・・なんでまだ続けてるの?
もう周りが血の海になってるんだけど・・・
この人もしかして、楽しんでる?
「ご主人様、フィラ怖いのです」
「俺もそう思う。サリスって、いつもあんなことされてるの?」
「い、いや・・・流石にあれは・・・」
俺らの陰口を他所に、まだ終わらない地獄絵図。
気が付くとフィラは、既にシウのパーソナルスペースくらいにまで近づいていた。
「3秒数えます。それを超えたら、分かってますね?1、2、・・・」
「か、解除!!解除ぉ!!!!」
フィラが指折りして数え始めると、そそくさと解除と発言したシウ。
身体から大きな綿の塊みたいなものを出現させ、それを空へと打ちあげる。
一定の高度まであがった時、パンとそれが弾け、水面に広がる波紋みたいに、魔力が広がった。
その様子を遠い目で見るジーマと、涙を流すシウ。
「あ・・・ああ、終わっちまった・・・俺・・・」
「ごめんなさいジーマ・・・。もう、もう無理・・・」
解決したかぁ。
いやー、俺らの出番なかったなあ。
てか、最初からフィラが来ればよかったじゃんね?
「解決なのですね」
「ああ、なんにもやってないね、俺ら」
「全く、ちゃんと働けおまえrいったぁ!!!」
腹が立ったので、サリスの頭を殴る。
こ、こいつ!どの口が言って・・・!!!
そもそもお前の任務だろうが!!
事件は無事解決したのだが、どうもフィラは彼らの前から動く様子は無い。
まだなんかあんのか?
「も、もう許してくれるのよね・・・もう痛いのは無いのよね・・・」
「・・・まあいいでしょう。詳しい話は牢で聞きますので。あ、もしまた下手なことをしたら、分かってますね?」
首がもげるくらい頭を縦に振るシウ。
横にいる彼女を見た後、頭をぐったりと垂らして降伏ポーズのジーマ。
それと同時に、ぐったりしていたシオが目を覚ます。
「ん・・・あ、あれ、私は・・・」
「あ、起きた?大変だったね」
「こ、これは・・・うわ・・・なんだこれは・・・」
目覚めて初めて見た光景が血まみれなんだもの、そりゃそうなるよな。
「シオ、解決したよ。借金諸々大丈夫になるんじゃないかな?」
「そうか、また助けられてしまったな。・・・私もまだ修行が足りない」
「今回は仕方ないよ。それに、今回俺なんもしてな・・・」
ぐしゃ
嫌な音が聞こえたね。
なんか、パンパンの肉が潰れて中身が出てきたような音。
その音が聞こえた方向は、まさにジーマとシウの方から。
彼らの方を見ると、そこには赤く染まる異形の姿と1人の異形に座って人形を抱く少女。
どうやらその異形によってシウは潰されたらしく、ただ地面いっぱいに鮮血だけが広がる。
その横で腰を抜かして、ただ怯えるジーマ。
「はぁー!?折角来てやったのに、ナニコレ?ばっかじゃないのー!?」
金髪で、宝石?っぽい装飾がちりばめられてるドレスを身にまとった少女は、随分と不服そうにキレ散らかす。
少女が座っているのは、人の形をした大きな岩の塊。
ゴーレムかな?
だが、俺が前に見た時とは毛色が違うかな。
全体的に白いし、大きさも俺が知っているやつとはレベルが違う。
何だこのガキ?
「んま、これくらいじゃあんたは死なないでしょ?ねえ、聞こえてんのー!?ざーこ!!」
マジでクソガキじゃん。
人ぶっ殺してなんで喚いてんの?いやー、ちょっときついっす・・・
癇癪もちかよ。
ゴーレムは2歩くらい後ろに下がり、その場で固まる。
踏みつぶされていた場所には、とても人だったとは到底思えないような平べったい肉の塊だけがある。
だが、ただの肉は時間をかけながら、骨、肉、内臓、皮膚の順番で、徐々に人の形に戻りつつある。
再生能力えぐ過ぎじゃない?
そんな状況を前に、近くにいるフィラはその場にただ立ち続け、少し経った後に口を開く。
「どなたですか?」
フィラの質問に対し「はぁ!?」と憤りを隠せない声で反応する。
ガキは足と腕を組み、まるで自分が偉いのだと誇示しているような体勢で質問に答える。
「なんでウチの事教えなきゃいけないの?ばーか!・・・最もウチの事知らないとか、よっぽど頭が悪いんだろうけどね!」
どっちかって言うと、あのガキの方が馬鹿っぽそうに見えるけど?
クソガキは脚を組み換え、太もも辺りに肘を突けて、頬杖をつく。
「ウチは、魔王幹部パルス!ひれ伏しなさい、雑魚共!!」




