196話 魔法が使えない俺と怖い女
ニナがゆっくりと、ジーマとシウの元へと近づいていく。
もうそろそろ、動き始めてもいいかも。
さっさと邪魔してくるシオを気絶させて、速攻であの女をやっちまった方が、もう楽かもなぁ。
「あらぁいい子ねえ。撫でようかしら」
「やめとけ。獣臭いのがうつるぞ?ハハハ!」
いや、もうやろう。
この際あいつらを分らせないとダメだな。
シオの攻撃も改竄の影響なのか、あんま強くないし、寧ろ弱いまである。
彼女を気絶させるのは、結構簡単そうだ。
シオを速攻で倒した瞬間に、あのシウってバカのところまで一瞬で近づいて斬り刻んでやる。
そんなことを考えている間も、シウの手が徐々に、ボーッと一点を見つめるニナの頭へと近づいていく。
俺はシオの剣を弾き、剣を構えて気絶させる準備に入ろうとした。
その時
ゴンと大きな打撃音。
「ぐえあ!?!?」
「・・・は!?」
・・・は?
どゆこと?
ニナは拳を天に突き上げ、シウの華奢な身体は宙を舞い、ジーマは口を大きく開けて驚いてる。
つまり、シウの魔法はニナには効いておらず、獣耳娘は彼らに近づいた末に、ブロンド女の顎目掛けてアッパーをかましたってことだ。
そんな右手を挙げたニナは一言。
「ニナに効いてないのですよ?」
いや、魔法効いてないのかよ。
じゃあさっきのは何だったんだよマジで。
驚かせやがって。
・・・とりあえず今のうちに。シオを気絶させとくか。
そいっと。
よし、倒れたな。
「え、え!シウさんを殴った!?ニナ!何をするんだ!!」
「一連の流れを見てそう言ってるんなら、サリスは改竄とか関係なくやばいよ」
サリスの言動を聞くに、シウはぶん殴られて地面に倒れたものの、未だ魔法は解けていないらしい。
シウを殺すか、解除するよう追い込むか、そのどっちかって事なのかな?
あ、起きた。
「な、なんで魔法が効いてないのよ!!おかしいでしょ!」
「おいどう言う事だよ!魔物ですらかかる魔法なんだぞ!?」
ジーマとシウが喚いてる中、ニナは胸を張り、「えっへん」と得意な顔をし始める。
「もしかしてニナ、なんかやっちゃったのですか?」
「こ、この!もう一回!もう一回よ!!」
シウは再びニナに向かって手を突き出し、魔法を発動する。
しかし、何回発動してもニナに効き目はない様子で、当の本人は欠伸をする始末。
「はぁ、はぁはぁ・・・なんで、なんで魔法が・・・まさか」
「むー?」
「あんた、何も考えてないって言うの!?」
んえ?どう言う事?
「失礼なのですね!ニナだって色々考えてるのですよ!!」
「例えば?」
「えー、えーっと、あ、お腹すいたのです!」
あぁ、確信した。
ニナって普段から、なんも考えてないんだな。
だから、衝動的な発言とか行動が多いわけか・・・
妙に納得。
じゃあ、ニナの知性って魔物以下って事じゃ・・・
「ご主人様、今失礼な事考えたのですね?」
「考えてないよ。ニナはすごいなぁ」
「ニナは最強なのです!」
はぁ、なんか呆れてきた。
でも、これはチャンスだ。
問題はあるにしろ、ニナが相手の魔法に抵抗力があるゆえ、心配する必要がない。
それに、シウは魔法を発動する時、必ず相手に手を向ける動作が挟まる。
だったら、あの腕ぶった斬れば済む話だね。
ただ、魔法の発動がマジで一瞬みたいだから、精神破壊?がサリスに向けられる前にやらないと行けない。
「こ、このクソガキァァ!!もういい!サリスの精神ぶっ壊してあげるからさァ!!」
「やべえ!止めねぇと!!」
シウの怒りは臨界点を突破したらしい。
眉間に皺を寄せ、顔を真っ赤にしながら唾を吐き出す。
そして、右手をサリスに向け始める。
「いいや限界だ!やるねッ!!今だッ!」
俺は地面を思い切り蹴飛ばし、奴に接近する。
ニナも同じく、シウに向かって拳を振おうと前進する。
しかし
呆気に取られるサリスに向かって、右手を突きつけ、魔法が発動・・・
ゴーン
何かの重低音がなったと思いきや、奇妙な静かさが空間を支配する。
揺れていた草木は静止して、人間は石のように固まる。
時間停止ってことだね。
間に合ったかー、あぶねー!
「どうですか?タイミング的には」
「バッチリ、思ったより早かったね。仕事は?」
「終わらせましたよ。あの子と一緒にしないでください、たくや様」
ピンク髪をサラッと払い、天使の皮を被った悪魔のような微笑みを浮かべ、鼻血を出しながらこちらに歩いてくる女。
騎士団長フィラだね。
一応何時間か前に、嬢から貰った声を届ける魔道具を使って、ダメ元でフィラが来るよう要請したんだけど。
まさか、来てくれるとはねえ。
「確か、サリスが危ないって話でしたが」
「ああ、あのブロンド女の魔法で記憶を書き換えられてて、しかも今、サリスの精神破壊をしようとしてたところだよ」
「そうですか。あ、もう魔法が切れます」
フィラの態度は普段のような柔らかい雰囲気とはかけ離れていて、笑っているもののなんだか冷たい。
自分の部下に対しての仕打ちに、割とご立腹っぽい。
あ、今のうちにシウの手を飛ばしとくか。
ゴーン
周りの景色が一斉に動き始める。
「・・・は?・・・あ、あ、ああああああああああ!!!なんでなんで!?!?!?」
「し、シウ!?なんだこりゃあああ!?」
時間が動き出したことで、俺が斬った手の切断面から鮮血が飛び散り、シウは呻き声をあげながらうずくまる。
ジーマは彼女の様子を見るものの、何をしていいか分からずにあたふたしてる。
ざまあないね。
周りの環境変化に気づくニナ。
「わわ!なんなのですか!?・・・あ、フィラなのです!こんにちわなのですー!」
「どうもニナさん。さてと」
フィラはサリスに向き直る。
依然サリスはオドオドと困惑している様子を続けるが、その様子に苛立っているのか、いつもよりも強い口調でサリスに声をかける。
「サリス、わたくしが分かりますか?」
「・・・えっと、あ、あれ?私あなたとどこかで・・・」
「・・・はぁ。副騎士団長がわたくしを忘れるなんて、困ったものですね」
「ま、また副騎士団長・・・あ、あれ?私は・・・」
サリスは頭を抱え、冷や汗をかきながら体を震わせ始める。
「まだ思い出せないのですか?仕方がないですね。では、いつも通りこれから『お仕置き』を始めます」
お仕置き?何それ。
もしかして、サリスっていっつもフィラからパワハラされてんの?
だからあんなにフィラの前ではかしこまってるのか・・・
理由は怖いから。
ほら、フィラの事覚えてないハズなのに、がたがた震えてんじゃん。
「お、お仕置き・・・ああ、お仕置き・・・は、はっ!!!」
「3秒数えます。それ以降1秒ごとにあなたを・・・フフ、分かっていますね?」
「1、2・・・」とフィラは指折りを始め、冷たい見下した眼でサリスを見る。
3に差し掛かる直前、サリスの目はカッ!と開く。
「は!!!団長!!!!!覚えてます!フィラ騎士団長です!!!ちゃんと覚えてます!!!!だからお仕置きは!お仕置きは!!!!!!」
あ、思い出した。
どうやら、記憶を改竄されたものの、それよりも強い記憶を想起させられると、魔法が解除されるようだ。
・・・というか、フィラはサリスに毎回、何やってんだよ。
「残念。思い出さなくても良かったのですが」
「忘れるわけないじゃないですか!!私は副団長ですよ!!!」
うん、いつものサリスだな。
何か、普段のサリスに戻ったら、妙に安心するなあ。
お、ニナが戻ってきた。
「サリスが戻ったのです」
「そうだね。フィラにいっつも意地悪されてるらしいよ」
「可哀そうなのです。なのに窓際なのですか?」
本当にニナって、悪気もなくサリスの事小ばかにするよなあ。
しかも、これが考えないで発言してるんだから、これもう才能だろ。
さてと、あとはこの町の人とシオをもとに戻さないといけないし、あのブロンド女をどうにかしないとね。
うわ、もう手が再生し始めてるよ。
やっぱこの女、魔王の配下かなんかか?




