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この復讐は、私が望んだ結末です  作者: 四葉美名


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24話 母国からの面白い話

 

「それにしても、北か……」

「シモン様、どうしたのですか? 北になにか?」



 あれから私たちは無事、両陛下への挨拶を終えた。お二人ともカリナ様との婚約が嘘だとわかっていたけれど、まだ若いし頑固な二人だったので黙って様子を見ていたそうだ。



(両陛下ともお優しくて、しかも歓迎してもらえて本当に良かった……!)



 私の存在がシモン様に良い影響を与えていたこともあって、お二人は大喜びしすぐに国内に発表することになった。国をあげての結婚式もするらしく、カリナ様はものすごく張り切っている。今日もドレス選びのため、私の前にはたくさんの美しい布が広げられていた。



「この前カリナからの報告にあっただろう? 嵐がくる前兆で、鳥達が北に逃げていると」

「ええ、そうでしたけど。気になるのですか?」

「うん……そうだな」



 シモン様は薄い金色の布地を私に当てると「これもいいな」と呟いている。そのぎこちない態度に私が首をかしげると、彼は少し意味深に笑い、先ほどの問いに答えた。



「風の流れがわかる鳥たちが北に逃げたということは、南に嵐が進むということだ。ここカリエント国から南にある国は……」

「わたくしの生まれ故郷、シャリモンドですわね」



(なるほど、そういうことか。嵐はあと数日でカリエントに到達するようだけど、その後は私の母国に向かうのだろう)



「スカーレットが国を出て早速、最初の試練が彼らに訪れるとは。意外と早かったな」

「そうですね。でもきっと陛下がどうにかされますわ。結界に興味がないようですし、自分の能力に自信がおありでしたから」



 私はフンと鼻を鳴らし、悪女の顔で笑う。シモン様に愛されて幸せになったら、もう彼らへの復讐はどうでも良くなるかと思ったけど別のようだ。



(さあ、陛下。お手並み拝見ですわ……)



 私はニヤリと笑うと、白地に刺繍が美しい布を手に取った。その様子を見てシモン様は「その悪女の顔も愛しているよ」と豪快に笑った。



 ◇



 それからは忙しい毎日だった。叔母様も無事カリエントに着き、両陛下の計らいで王宮に部屋を用意してもらえることになった。特別に貴族籍も与えられ、王太子妃になる私にも自由に会うことができる。



「本当にすべてシモン様のおかげです。ありがとうございます」

「気にしないでいい。ああ、そうだ。国を出る前、王宮に集まった民衆を覚えているか? 彼らも家族を連れて、早速カリエントに来たらしい」

「まあ! そうなのですか!」



 聖女信仰に厚く、私の頑張りを認めてくれた人たちだ。捕まる恐れもあるのに、私のために王家に抗議までしてくれた。



「彼らには教会の職員になってもらう予定だ。君の能力はいずれ国中に知れ渡るだろう。きっとその時に人手が足りなくなる。彼らも職が見つかって喜んでいたよ」



 私のことをよく知っている彼らが教会にいるならとても心強い。それに私の治癒の力が必要な時があれば、惜しみなく使いたいと思っていたのだ。シモン様はそんな私の気持ちもお見通しなのだろう。



「ありがとうございます。嵐が過ぎたら一度教会に行こうと思います」

「ああ、みんな喜ぶと思うぞ。ああ、そうそう。君が傷を治したランディから面白いことを聞いたんだ」

「面白いこと、ですか?」



 ランディは敬語は使えないけれど礼儀正しい人だ。この国の王子であるシモン様に、気軽に冗談を言うわけがない。何を言ったか見当もつかず黙っていると、シモン様はククッと喉を鳴らして笑い、私を指差した。



「君の予言が当たったらしいよ」

「わたくしの予言?」

「ああ、君は皆の前で『新しい聖女が降臨する』と言っただろう。あれだよ」

「えっ! もう?」



 私のあきれた顔に、シモン様は笑いをこらえている。たしかに私はあの日、わざと「陛下たちが本当に聖女の力を信じているなら、新しい聖女が降臨する」と言った。しかも集まった人に聞こえるように。



(陛下たちをひざまずかせるための罠だったのだけど、こんなに早く引っかかるとは……。本当に彼らはわかりやすいわね)



 私はふうっとため息を吐きお茶を一口飲むと、シモン様のほうを振り返る。



「そうですか。やはり陛下は妹のシャルロットを新しい聖女にしたのですね」



 ニコッと笑ってそう言うと、シモン様はハハハと笑って私の肩を抱き寄せた。



 

「あれから君が治癒の力を持っているという噂は、あっという間に国中に広がったみたいだ。それで王宮にたくさんの人達が『なぜ聖女を追い出したんだ』と集まったらしい。もうすでにあの国に結界はないからね。『怪我が治らない』『熱が下がらない』という声が殺到している」



 さっきまで笑っていたシモン様も、さすがに国民のこととなると眉をひそめて話している。私も、罪のない彼らに不幸が降りかかってほしいわけじゃない。



(どうしたらいいのかしら。特に慕ってくれていたランディ達は移住したけれど、国民全員を守れるわけじゃないし……)



 なにか良い案がないかと考えていると、シモン様が私の眉間のしわを指でグイッと伸ばし、話を続けた。



「シャリモンド側にしてみれば、君が出て行ってまだ数日だ。民からの苦情は殺到していても、状況の変化には気づいていない。だから単純に新しい聖女を作れば、国民の怒りは収まると思っているのだろう」


「あちらの陛下が考えそうなことです。きっと嵐の予兆にすら気づいていないと思いますわ」

「だろうな。でもこれは国王が背負う問題だ。スカーレットが気にする必要はないよ」

「……はい。わかっております」



 シャルロットは私の妹だから、それで安心する人も多いだろう。しかしあの日私の能力を直接見た人は大勢いる。そして数日後には、あの国にも嵐が襲ってくるのだ。偽物の聖女だとわかった時、国民はどう思うのか……。



「陛下のお手並み拝見ですね」



 私は再び同じ言葉を繰り返す。やれることは、もうやった。国を出た私にできることはもうない。



(そうよ。私はもうカリエントの国民! ここにも嵐は来るのだから、怪我人が出たらすぐに教会で治療できるよう準備しなくては!)



 私はそう決意し、数日後にやってくる嵐に気持ちを切り替えた。



 ◇



「おはようございます、スカーレット様! さあ、起きてください。今日はドレスの試着で忙しくなりますよ!」



 元気なカリナ様の声が部屋に響き、嵐が過ぎたことがわかった。窓からは明るい太陽の光が入り、空は突き抜けるように青い。あまりにも清々しい天気に、本当に昨夜は嵐だったのか疑ってしまうくらいだ。



「カリナ様、嵐は去ったようですが、被害は大丈夫なのでしょうか?」



 私の部屋は王宮の奥にあるので、昨夜の嵐の規模がわからない。寝る前はかなりの暴風だったけど、町の人達に怪我はないのだろうか?  



(もし怪我人がいるのなら、教会に行かなくちゃ!)



 しかしそれを聞いたカリナ様はにっこり微笑んで、首を振っている。



「すぐに各地から報告があるとは思いますが、王宮に救援の要請もなかったので大きな被害はないと思いますわ」

「そんなに情報の連携が取れているのですか?」

「ええ、これもシモンが作ったのですよ」



 詳しく聞いてみると、この国には一定の間隔で治安を守るための建物があった。なにかあると国民はそこに駆け込み、事件が起これば解決する仕組みになっている。嵐の時にもそこに常駐している騎士が被害がないか見回り、王宮に報告するらしい。



「すごい仕組みですね」

「ふふ。シモンに惚れ直しましたか?」

「もう! カリナ様ったら!」

「カリナですわ! 呼び捨てにしてくださいませ」

「じゃあ、せめて『カリナさん』にさせてください」

「しょうがないですね。それでいいですわ!」



 顔を見合わせきゃあきゃあと二人で笑い合っていると、カリナさんの言ったとおりすぐに昨夜の嵐の報告が届いた。



「やはり南の方に嵐は過ぎ去ったようですね。怪我人もいないそうです。それとシモンは被害がないか直接見る予定なので、本日はわたくしと二人でゆっくりドレスを選びましょう」

「はい!」



(ふふ。初めてできた友達みたいで嬉しいわ! 今日はカリナさんと楽しもう!)



「このドレスなんてどうです? 聖女らしくて素敵ですわ!」



 カリナさんが選んだドレスは、薄い布で作られた幻想的なものだった。美しいドレスだけど、まだ痩せている私が着ると貧相に見える。私がそれを伝えると「着る頃には体型も戻っていると思いますけど、残念ですわ」と言ってあきらめてくれた。



 その後も彼女がドレスを選ぶ基準は「聖女らしく見えるか」だ。その徹底ぶりに私は思わずくすっと笑ってしまう。



「本当にカリナさんは聖女がお好きなんですね」

「まあ! でも聖女ならば誰でもいいわけじゃありませんわよ?」

「ふふ。わかってます」



 実はカリナさんはシモン様に頼まれて、一緒に古い文献で聖女について調べていた。カリナさんいわく「シモンが聖女の素晴らしさをずっと私に語るので、影響されたのです!」らしい。



 それでも彼女はきっぱりこう言う。



「神秘の力を持っていても、性格が我儘で贅沢ばかり好む聖女なら嫌いです!」



 そう言って今度は少しふんわりとしたデザインのドレスを私の体に当てると、にっこり微笑んだ。その顔は私への憧れもあったが、なにより純粋な愛情が伝わってくる。



「わたくしもシモンと同じく、スカーレット様の心の清らかさと献身さが好きなんですよ」



 美しい顔をほんのり赤く染めるカリナさんは、シモン様にそっくりだ。



(本当に二人は双子みたいね。どちらも愛情深く、とても優しい。そして嫌いな人には冷たく、好きな人にはとびきり甘い)



 こんな二人に囲まれて結婚できるなんて、私は本当に幸せ者だわ。今ではあんなに苦しかった日々が嘘のように思える。私たちはその後も楽しくドレスを選び、穏やかな時間を過ごした。



「今回の嵐も、怪我人はいなかったよ」



 見回りから帰ってきたシモン様が、汗を拭きながら豪快に水を飲んでいる。私が二杯目の水を注ぐと、また一気に飲み干した。



(王子みずから様子を見に来てくれるなんて、町の人達は安心したでしょうね。本当にシモン様はすごいわ)



 結局、カリエントには今回の嵐での大きな被害はなく、何件かの補助金の申請で済んだらしい。



 その後、母国シャリモンドに向かった嵐がどうなったかは聞いていない。あちらから連絡が来るまでは気にしないでいることにした。どうせ結婚式の準備で忙しいし、きっとあの国はギリギリまで連絡してこないだろう。



 そしてその考えどおり、嵐から一月経った頃。シモン様が一通の手紙をひらひらと見せてきた。



「シャリモンド国から手紙が来たぞ。陛下あてだが、ぜひ君に戻ってきてほしいと言っているそうだ」



 その言葉にシモン様と私は同時に顔を見合わせ、ニヤリと笑った。




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