↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/27

第24話 1人にしない

 時計の針は12時を指そうとしていた。

 机の上には、書き込まれたメニュー表と試作のアイディアが詰まった紙が並んでいた。


「それじゃあ、明日の10時に学校の正門前に集合ね!」


 乃木さんは明日の予定について再確認をする。


「必要な材料は、明日までに考えておくね」

「余計な物は買わないでしょうね?」

「いやその言葉、ウチよりひーちゃんに言った方がいいよ」


 わたしと七条さんは川崎さんを見る。

 川崎さんは、まるで話を理解していないかのように頭を傾げる。


「必要だから買ってるだけ」

「ほらね?」

「……大丈夫かしら」

「ふふ」


 2人のやり取りに、七条さんはため息を吐く。

 そんな3人のやり取りを見ていると、わたしは思わず笑いが込み上げてくる。


「おっと、そろそろ時間だね。じゃあ、一旦解散!」


 その声を合図に、わたしたちは机を元の位置へ戻した。

 そして、帰りのショートホームルームを終え、わたし達は4人で教室を出る。

 廊下に出て、ふと横に目を向ける。

 友希さんと歩いた廊下。

 でも、今は同じクラスメイトの人達と歩いている。

 それだけのことが、少しだけ不思議に感じる。


「雪ちゃん、また明日ね!」


 昇降口を出たところで、乃木さんが大きく手を振り、その横では川崎さんも小さく手を振る。


「は、はい。また明日」


 わたしはお辞儀をして、2人が小さくなるまで見送った。

 残されたのは、わたしと七条さん。

 2人きりになった途端、何を話せばいいのか分からなくなる。

 先ほどまでの賑やかさが嘘のように、辺りが静かに感じられた。


「アンタどっち?」

「えっと、あっちです」


 わたしは帰路を指差す。


「そう……なら行くわよ。あたしもコッチだから」


 七条さんはそう言うと、先に歩き始めた。

 置いていかれないように、わたしもその後を追う。


 周りにはわたし達と同じように帰る人が多くいる。

 でも、耳に入るのは2人の足音だけだった。

 前を歩く七条さんに、わたしは話すことを躊躇う。

 何度か迷ったけど、わたしは小さく息を吸った。


「あの……七条さん」

「何?」

「今日は……ありがとうございました」

「何が?」


 七条さんが少しだけ眉を寄せる。


「わたしを助けてくれたことです」

「……別に。あれじゃあ、あたしが落ち着かなかっただけよ」

「でも、助かりました」

「……あ、そう」


 七条さんは短く答えると、少し歩く速度を落とした。

 気づけば、さっきまで前を歩いていた七条さんが、わたしの隣に並んでいた。


「アンタ、周りの顔色見過ぎ」

「……え」

「いちいち謝るし、お礼も言いすぎ。今だって、あたしが怒ってるかもって思ったでしょ」


 言い当てられて、何も答えられなくなる。


「ほら」


 七条さんは呆れたようにため息を吐いた。


「何でもかんでも自分が悪いみたいな顔するの、やめた方がいいわよ」

「でも……迷惑をかけたら……」

「迷惑なんて、誰だって多少はかけるでしょ」

「……」

「だから、困ったときくらい周りを使いなさい」

「それは……」

「乃木なんてちょうどいいでしょ。頼んでもないのに首突っ込んでくるし」

「……乃木さん」


 思わず、さっきまでの乃木さんの笑顔を思い出す。


「じゃあ……七条さんも……ですか?」

「……なんであたしまで入ってんのよ」

「す、すみません」

「だから謝るなって言ってるでしょ」

「あ……」


 七条さんはもう一度ため息を吐く。


「……まあ、好きにすれば」


 七条さんは少しだけ歩く速度を上げる。

 けれど、わたしが遅れるほどではなかった。

 

 しばらく、わたし達は同じ道を歩き続ける。

 道中に会話はあまりなかったけど、気まずさは感じなかった。

 分かれ道に差し掛かり、七条さんは立ち止まった。


「アンタどっち?」

「えっと……あっちです」

「……そう」


 七条さんは小さく返事をすると、わたしが指差した方へ歩き出した。

 会話にデジャブを感じつつ、わたしは気になっていたことを聞く。


「七条さんのお家は、どちらなのですか?」


 七条さんは足を止めず、そのまま歩き続ける。


「家まで送る」

「……え」


 一瞬、足が止まりそうになった。


「そ、そんなことせずとも、ここからなら1人でも帰れます」

「そうは見えないけど」

「み、道は分かります」

「道の心配はしてないわ」


 七条さんの言葉に、わたしは首を傾げる。


「では、何を……」

「見ていて危なっかしかったから」

「あ、危ない……ですか?」

「あんた、今日ずっと青い顔してたし、人に声をかけられるたびに固まるし、少し強く言われただけで謝るし」

「それは……」

「そんなんで、無事に帰れるのか気になっただけ」


 七条さんはそう言いながら、ほんの一瞬だけわたしの首元へ視線を落とした。

 反射的に、首元へ手を伸ばす。

 けれど、七条さんは何も言わなかった。


「あたしが勝手に送るって決めたの。文句ある?」

「い、いえ……」

「なら行くわよ」


 そう言って、七条さんはわたしの前に歩く。

 わたしは少し戸惑いつつも、彼女の後を追った。


「……あの」

「今度は何?」

「七条さんって……」

「……?」

「いえ、なんでもありません」


 喉元まで出かかった言葉をわたしは飲み込んだ。

 これは自分から言うべきではない。

 思っていても、わたしの勘違いだったら気まずくなるだけだ。

 七条さんは訝しんだ表情をしたけど、すぐに前に向いた。


 それからは、ほとんど言葉を交わさなかった。

 しばらく歩くと、見慣れた家が見えてくる。


「あそこです」

「そう」


 家の前まで到着すると、七条さんは周囲を確かめるように視線を動かした。


「ここまで来れば大丈夫ね」

「送ってくださって、ありがとうございました」

「だから、お礼はいらないって」

「でも……嬉しかったです」

「……そう」


 七条さんは、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。


「明日、9時半に迎えに来るから」

「え?」

「そこから一緒に学校へ行く」

「でも、集合は10時ですし、一人でも行けます」

「今日の話、聞いてなかったの?」

「聞いていましたけど……七条さんに迷惑が」

「迷惑かどうかは、あたしが決める」


 強い口調だった。

 けれど、怒っているようには見えなかった。


「それに、あんたが途中で何かあって遅れたら、乃木がうるさいでしょ」

「乃木さんが……」

「あいつ、絶対騒ぐから」


 七条さんは面倒そうに言う。


「だから、9時半。遅れたら置いていくから」

「は、はい」

「じゃあ、また明日」

「また……明日」


 七条さんは背中を向け、来た道を引き返していく。

 わたしを家まで送るためだけについてきてくれた。

 明日も、ここまで迎えに来ると言ってくれた。


 七条さんは、ただわたしが危なっかしく見えただけだと言った。

 一人で無事に帰れるのか気になっただけだと。


 それでも、わたしにはその言葉が、別の意味にも聞こえてしまった。


 一人にしない。


 そう言われたような気がした。

 学校へ来るまでは、わたしの世界には友希さんしかいなかった。

 でも今は、明日の予定の中に乃木さんがいて、川崎さんがいて、七条さんがいる。

 そして、明日の朝には、七条さんが迎えに来てくれる。

 そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。