第6話 40
「――接続っ! 〈世界法則〉!!」
描き出される多重魔芒陣の陣列に向けて、俺はさらに加速。
「――もたらせ! 〈幻創回廊〉っ!!」
始めから全力だ。
突き抜けた魔芒陣が砕けて俺を加速させて行き――
――一瞬の視界暗転。
狙うは武騎の弱点である頭部――合一器官だ。
深紅の双眸をギラつかせる、〈亜神〉の貌へと視界は収束した。
俺自身を光の矢と変える、俺の唯一にして必殺の魔法。
……だが――
『――フッ』
激突の瞬間、ヤツは牙の並ぶ口元を開いて、確かに笑ったようだった。
そして、ヤツはひどく無造作に一歩を前に踏み出す。
ただそれだけで、俺の攻撃は目標を失い――
「――――おおおぉぉぉぉっ!?」
天井をぶち砕いて停止。重力に引かれて落下を始める。
『――それはもう見た。
帝国騎士ごときでも、一度見た攻撃は二度と喰らわんのだろう? 人の世の道理を超越した妾にとっては、その程度の事、造作も無いわ』
〈亜神〉はそう告げて、ケタケタと哂った。
騎体脚部に集中して構造強化。
床まで三十メートルの高さの落下に備える。
『まずはこっちよ……』
〈亜神〉は俺に微塵も興味がないかのように、再び〈天象騎〉を右手人差し指を向ける。
『……確かこうだったか?』
その指先で紫電が瞬いたかと思うと、光の帯が指先に収束して漆黒の球が出現した。
〈天象騎〉が前方に虹色の結晶結界を喚起。
「――違う! ウェザー! 〈電磁場〉展開! 急げ!」
と、宙に飛び上がっていたクロが、焦ったように叫んだ。
『――ハ、ハイっス!!』
ウェザーが応じ、騎体の周囲が紫電を帯びた陽炎に揺らぐ。
直後、〈亜神〉の指先の黒球が閃光を発し、辺りを純白に灼熱させた。
「――ツッ!?」
眩んだ視界の中、不意にやってきた着地による衝撃に、俺は思わず声を漏らす。
脚部構造を強化していたのだが、着地姿勢を取り損ねて左足に鈍痛が走った。
だが、そんな事を意識する暇なんてなかった。
閃光が晴れて、視界が戻ってくる。
凄まじい光景が広がっていた。
〈亜神〉と〈天象騎〉の間の床が大きく抉れ、いまだに赤々と燃え溶けている
スクォールが張った結晶結界がヒビ割れていて、思い出したように砕け散った。
その背後の壁もまた溶け落ち、並べられていた〈天象騎〉達は壁同様に、固定台ごと溶けていた。
そして――ウェザー達の〈天象騎〉の頭上の天井には、斜めに抉った大穴が空いていた。
『……〈電離中性子砲〉系の攻性魔法……っスか?』
そう呟くウェザーに、クロが〈天象騎〉の頭に降り立ってうなずく。
「――そうだよ。重力電離・圧縮式……雷奏童子の〈雷崩牙〉の元となった――〈崩壊子砲〉さ……」
オレ達が視線を向ける先で、〈亜神〉は指先と〈天象騎〉を不思議そうに見比べている。
『……なぜ無事なの?
妾の攻撃は確かに捉えたと思ったが……』
「……はは~ん。オマエ、さては戦闘経験が浅い――いや童貞だろ?
電磁兵装に大量の電磁場をぶつけて干渉……反発させて曲げ防ぐなんて、〈大航海〉時代には確立されてた戦術だぜ?」
『あ、それでオレっちに〈電磁場〉を……』
どうやらウェザーも気づかなかったらしい。
「……艦隊戦術の座学で教えたはずなんだけどねぇ」
『ア、アハハ……ほら、オレっちも実戦はあの七日間の一回きりっスし』
ジト目で睨むクロに、乾いた笑いで応えるウェザー。
「……さてさて。相棒のとっておきは見切られていて、頼みの〈天象騎〉は経験不足。
とはいえ、目標も騎士級の力を持て余している未熟者なら――」
――カン、と。
クロは〈天象騎〉の頭で踵を踏み鳴らした。
「――眷属騎の制御権貸しな、ウェザー。
あの日あの時……あまりに時間がなさすぎて、ライオットがキミに教えられなかった、キミの使い方をボクが代わりに教えてやるよ」
『ハイっス!』
『――なにをしようとしているのか知らんが、させると思うか?』
〈亜神〉が再び指先を瞬かせる。
「おまえこそ――!」
俺は駆け出した。
――ヤツが言うように、クロがなにをしようとしてるかはわからんが、時間を稼ぐくらいは俺にもできる!
三歩目で落下で損傷した左脚が膝から砕けたが、俺は残った右脚でさらに跳躍。
『――チィ! 羽虫がっ!!』
〈亜神〉の指先がこちらに向いた。
瞬間、俺は合一を解除し、〈鞍房〉から宙に身を踊らせ――
「――接続っ! 〈世界法則〉!!」
生身の俺の前方に魔道回廊の魔芒陣が描き出される。
『――む? む?』
ヤツの指先が俺と騎体の間を彷徨い――
『こっちだっ!!』
と、迫り来る兵騎に向けて閃光を解き放った。
「もたらせええぇぇ――〈幻創回廊〉っ!!」
光の矢となった俺は、ヤツが解き放った光芒から寸でのところで逃れ、床を滑って転がる。
『――なっ!?』
〈亜神〉は驚愕の声をあげた。
『騎体を犠牲にっ!?』
「へ、マジで戦闘経験は乏しいみたいだな! カミサマよ?」
俺は立ち上がってヤツを哂ってやる。
俺の攻撃が通じないなら、通じるヤツに託すのは当然だろうが。
ボリスンから借りたモヒカン兵騎は、閃光に呑まれて蒸発してしまったが、お陰でヤツの意表を突けた。
「さすが相棒。よく時間を稼いだ!」
と、〈亜神〉の向こうで珍しくクロが俺を褒めた。
その背後――宙に浮き、多重球形魔芒陣に包まれたクロの後ろに、六騎の〈天象騎〉がヤツを真似たように両手を腰に当てて浮かんでいた。
『――なんだと!? 眷属騎をどうやって!?』
再び〈亜神〉が戸惑いの声をあげた。
「……教えてやろうか、生まれたての〈亜神〉よ」
ヤツが不敵に笑うと、背後の〈天象騎〉達が身構える。
「――古来から、姉に逆らえる弟は存在しないんだ! つまり!」
クロが〈亜神〉を指差すと、六騎の〈天象騎〉が宙を駆けて〈亜神〉に殺到した。
「――弟のモンは姉の――ボクのモンなんだよ!」
『そんなバカな話があるかあぁ――ッ!!』
〈亜神〉の叫びが辺りに響き、ヤツは五指に黒球を宿らせて閃光を解き放った。




