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悪逆非道な暴虐王子が追放されて、心優しい王子が即位した結果 ~これなら俺のがマシじゃねぇ?~  作者: 前森コウセイ
第6話 英雄の資質

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第6話 36

「――そして初めまして。我が主機の後継……」


 躯体を掴んで顔の前に掲げてそう告げたカリーナに、オレっちは首を傾げる代わりに疑問符の感情描写投影エモーショナル・エフェクトを頭上に表示させたっス。


「主機の後継って……カリーナ、なにを言ってるんスか?」


 蘇生したてのヒトによくある、記憶の混乱スかね?


 脳に残されてた記憶と霊脈に散逸してた(ローカル・スフィア)の記憶の情報差分(ラグ)で、被験者がおかしな言動をする事もあるって、船団に居た頃に教わったっス。


 ――いや、それよりもっ!!


「とにかくカリーナ、離すっスよ!

 アンタにはわかんないと思うっスけど、あの騎体はその気になれば騎乗者(リアクター)なしで自律行動可能なんス!」


 邪神(オーティス)教団の騎体を実際に見るのは初めてっスけど、そのヤバさは主からしっかりと教わってるっス。


 連中が〈神核〉、あるいは〈神の卵インディヴィジュアル・コア〉とか呼んでる、生ける神器級魔道器に芽吹いた空想人格(ペルソナ)……いや、この場合は神格(スピリット)と言うべきなんスかね?――を株分けして、騎体の合一器官(リンカー・コア)に根付かせてるんス。


 主が幽属(ガイストロイド)だったオレっち達を、<天体制御樹プラネット・ドミネイター>の制御体にしたようなもんスね。


 <神託(オーティス)>と呼ばれるそれは、大銀河帝国騎士の騎構(騎士システム)を元に開発されただけあって、騎乗者(リアクター)を補助して帝国騎士級の戦闘能力を与えるっス。


 しかも武騎(フィギュア)ともなれば、補助動力炉を搭載してるっスから短時間であれば自律単独行動して防衛機構としても活動する――


 ――そんな……オレっちが焦ってる理由を、戸惑うスクォールに説明しちまいたいっスけど、それは主が世界の真実として現代人に禁忌としている知識に触れる事になるっス。


「――ああ、もうっ! とにかく離すっスよー!!」


 手足をバタつかせるオレっちに、けれどカリーナはひどく落ち着いた笑みを浮かべていて――


「……ウェザー様、大丈夫です。

 あの騎体の合一器官(リンカー・コア)はとっくに壊れてて、空っぽですから」


「は? なんでそんな事がわかるんスか?」


 宙にぶら下げられたまま、オレっちは再び頭上に感情描写投影エモーショナル・エフェクトを浮かべたっス。


「――だって……」


 そう呟くと、彼女はオレっちの頭から手を離し、両手を胸の中央に添えたっス。


 床に飛び降りたオレっちは、そんなカリーナを見上げ――


「彼女は今、ここに居ますから……」


 黄金色の瞳を揺らして、カリーナは確かにそう告げたっス。


「――ど、どういう事だ!?」


 スクォールが戸惑ったように訊ねたっスよ。


 オレっちもそうっスけど、彼もまた――本当ならカリーナの目覚めを喜びたいはずなのに、彼女の言動が突拍子もなさ過ぎて、そうする事を思考が拒むんス。


「――目覚めてすぐは、わたくしも混乱したわ……」


 頬に手を当てて、困ったようにはにかみながら告げるその仕草は、かつてベルンの婚約者として紹介された時そのままで……


 彼女はオレっちを見下ろしながら続けたっス。


「でも、ここって主機の後継機ですから、再生治療室の制御台(コンソール)も同一規格で助かりました。

 治療室の記録(ログ)でなにがあったのかを確認して――」


 その金色の目が、スクォールに向けられる。


「……ウェザー様の助力を得たとはいえ、まさかこの退行した星でわたくしの復活を実現しちゃうなんてね。

 本当にすごい魔道士になったのね。スクォール……」


 その口調は、確かに昔、ここでスクォールについて語っていたカリーナそのものだったっス。


 ――でも……


「……退行した星? 制御台(コンソール)を操作したって……姉さん、なんで古代語を読めるんだ?」


 そう。そこなんス。


 ああ、さっきスクォールがリグルド(なにがし)について語っていた時は、オレっちには彼の恐怖がいまいち理解できなかったんスけど、こういう事なんスね……


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……


 思わず警戒して緊張するオレっち達の後ろで、レントンも腰の後ろに帯びた剣の柄に手を添えるのがわかったっス。


「ああ、そんなに警戒なさらないでください。

 その説明をしようと思っていたところなんですから」


 と、カリーナは害意がない事を示すように、両手を左右に広げたっスよ。


「――騎乗者(リアクター)レントンにもわかるように説明する必要があるので、簡易な言葉を用いるなら……

 ウェザー様。あなたがわたくしの魂の代わりとする為、霊脈から無意識体(妖精)を集めようとした時に……」


 ゆっくりとカリーナのその右手が、邪神(オーティス)教団の武騎(フィギュア)に向けられたっス。


「あそこで停止しかけ(死にかけ)ていた、()を喚び寄せたのです」


「――っ!?」


 オレっちとスクォールは息を呑んだっスよ。


 そんなオレっち達の反応を見て、カリーナは少し寂しそうな表情を浮かべたっス。


「……安心してください。あなた達に危害を加えるつもりはありません。

 今の私はわたくしであり、わたくしは私なんです。

 ……わたくしの為に、そんな歳になるまで頑張ってくれたスクォールに、わたくしがなにかするなんて考えられないし、私もまた生存の道を与えてくれたあなた方に危害を加えるなんて考えられません」


「……スクォール先生」


 と、レントンが口を開く。


「彼女は……先程、先生が仰っていた、御館様のような状態にあると言うことですか?

 ――彼女の中に<神託(オーティス)>がいる、と?」


 彼にとってはリグルド(なにがし)の話だって理解の外だろうに、必死に状況を把握しようとしてるみたいっスね。


「いや……リグルドの場合は彼の魔道器官を摘出し、レオン翁の魔道器官に置換している。

 彼がリグルドのままでいられたのは、脳の残った記憶の残滓が……レオン翁の意識と記憶が塗り替える邪魔となっていたんだ」


「――そうですね。普通、躯体置換を行う場合、演算炉――脳内の概念洗浄を施すのが通常です」


 カリーナが決して知り得ない言葉――知識をごく当たり前のように使っている事から、彼女の中に<神託(オーティス)>がいるというのは真実のようっスね……


「わたくしの状態は、恐らくは巫女が師の論文アカデミック・テキストを元に造り上げた魔法――〈転生〉に近いように思えます。

 私が幽属(ガイストロイド)に近い――霊脈ユニバーサル・スフィアでも活動できる空想人格(ペルソナ)であった為、わたくしは私の知識と権能を受け継いで今のわたくし()となっているのです」


 リグルド(なにがし)と違うのは、カリーナの場合は脳だけじゃなく、魔道器官の(ローカル・スフィア)にも、彼女が彼女として蘇る為に記憶を焼き付けてあって、満ち満ちていたって事っスね。


 ――そこへ……本来は(ローカル・スフィア)を稼働させる為に集めた無意識体(妖精)の代わりに、意識と人格、記憶を備えた<神託(オーティス)>が飛び込んでしまったというワケっス。


「……死を自覚していたカリーナと、死に瀕した<神託(オーティス)>が偶々(たまたま)――あまり使いたくないイヤな言葉っスね――うまい具合に合致して、ひとつの身体を共有しているんスね」


 これは<神託(オーティス)>が、元々騎乗者(リアクター)によって躯体を制御される事が当然になっていたからってのもあるんじゃないっスかね。


 彼女にとって、()()()()()()()()()()()()事は苦痛ではなく、むしろ存在意義そのものと言っても良いはずっスからね。


「カリーナの状態はわかったっス」


 オレっちがスクォールに視線を向けると、彼もまたうなずいたっス。


「突然現れたのも、治療室からの〈転送器(トランスポーター)〉を使ったんスね」


「はい。治療室で観た記録(ログ)では、ウェザー様とスクォールが騎乗者(リアクター)レントンを襲撃者と仰っていましたから……

 わたくしはスクォールを守りたかったし、私には騎乗者(リアクター)レントンを無事に帰還させるという任務がありました。

 ……互いに争うならば、なんとか止めなければと思ったのです」


「……彼は私の教え子のひとりなんだ」


 スクォールがそう応えれば、カリーナは嬉しそうに頬を綻ばせたっス。


「あのスクォールが先生! 本当に頑張ったのね……」


 と、彼女は無造作にスクォールに歩み寄り、その頭を撫でようとして背が足りない事き気づいたのか、挙げた手をスクォールの背に回し、もう一方の手も広げて優しく抱擁したっス。


「――姉さんっ!!」


 感極まったようにスクォールもまたカリーナを抱き締め、天井に向けた顔を滂沱の涙が濡らしたっス。


「……いっぱいいっぱい頑張ったんだね……

 ごめんね……黙って死んじゃって……」


 ……ふむ。


 いろいろと想定外の事が起こってはいるものの、これはこれで大団円と思って良いっスかね。


 オレっちはふたりから離れて、レントンのそばに歩み寄ったっス。


 彼はスクォールの話した過去の出来事――リグルド(なにがし)の話を証明するかのような、カリーナと彼女と混ざりあった<神託(オーティス)>の存在に、なにか深く考え込んでいるみたいだったっスよ。


「……ちょっと良いっスか?」


 オレっちがレントンの脚甲を叩いて声をかけると、彼は物思いから我に返ってオレっちの前に跪いたっスよ。


「は。なんでしょうか、土地神様」


「この後についての話っスよ。

 オレっちはアンタにふたつの道を示す事ができるっス。

 どちらを選んでも悪いようにはしないから、よく考えて選んで欲しいっス」


 武騎(フィギュア)を失った今、スクォールに魔道器官の封印を解除されているとはいえ、レントンがこのフォルス大森林の最奥から抜け出すのは不可能っス。


 でも、カリーナの――彼女と共にある<神託(オーティス)>の願いが、レントンの生存と帰還である以上、今のオレっちはその想いを無下にはできないっス。


 これは絆されたとかそういうんじゃなく――ツンデレとかそういうのでもなくて、真面目(マジ)本気(まじ)で彼女を刺激したくないからっス。


 今は大人しくカリーナと共にあるみたいっスけど、相手は邪神(オーティス)教団案件ス。


 今後、どんな想定外が起こるかわからないっス。


 ――そもそもの話、蘇生させたカリーナに……<神託(オーティス)>は〈転生〉って言ってたっスか?――したというのも想定外なんスけど、確定してしまった事象に文句を言ったところで時間の無駄っス。


 大事なのは未来! そう! これからを考えるのが大事なんスよ。


 カリーナの状態は正直、オレっちの手に余る案件だから、クロ姐と主に相談っス。


 ついでにローカル・マッドサイエンティストと主に思われてる、スクォールの事も説明が必要っスね。


 そして、アルから玉座を簒奪したカイル……


 彼はオレっちに言わせれば、アルメニアの連中に従わされてたアースやエアみたいなもんス。


 先代コートワイル侯の狂気に巻き込まれた被害者っスよ。


 彼のそばから先代コートワイル侯――リグルドを取り除ければ、まだやり直しが利くと……そうであって欲しいと、オレっちは思ってしまうんスよ。


 その為にも――


 オレっちはレントンの目を覗き込む。


 ……鍵となるのは彼っス。


「ひとつ目は――」

 

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