第6話 21
スクォール達を転移しさせた先は、オレっち本体――<天体制御樹>内部にある居住区画っス。
惑星開拓・開発を目的に設計されてるオレっち達の本体は、協働作業員用区画が用意されてて、それがここってワケっスね。
まあ、実際にその用途で使われた事は、一度もないんスけどね。
初めてこの区画を解放したのは、アルサス達がやってきた時の事っス。
魔道器官に封印が施されているはずの現行人類の規格から、大きく外れた――正直なとこ、オレっちは今でもあいつらは頭おかしいと思ってるっスけど――戦力を持ったアルサス達のパーティでも、さすがにフォルス大森林最奥地からとんぼ返りさせるワケにも行かず、オレっちは彼らに一晩の宿としてこの区画を解放したんスよ。
フォルティナ以降、十年に一度の本祭祀を除けば、霊脈から流れ込んでくる記憶でしか外界を知る術のなかったオレっちにとって、アルサス達は久しぶりに会話のできる来客だったっスからね。
……なるべく長く、一緒に居たかったんスよ。
「これは……生きている遺跡なのか……」
スクォールがかすれ声で呻き、その背後で少年少女達が驚きの表情で辺りを見回してるっス。
人類会議同盟軍艦内規格の居住区は、スクォール達現行人類にとっては通路ひとつとっても未知の素材で造られた遺跡にしか見えるんスね。
そういえばアルサス達と一緒に来た女魔道士――ベルンの婚約者のカリーナも今の彼らのように、驚きと好奇心が入り混じった表情を浮かべてたっス。
他の男どもは、みんな王族だったっスからね。
王城の地下大迷宮にあるという主の庵で、似たようなモノを見たことがあるとか言って大して驚いてくれなかったんスよ。
その点、今回の来訪者――スクォール達は、オレっちにとって嬉しい反応を見せてくれてるっスね。
オレっちはホロ・ボディに右手を振るわせ、同時に作業員用の個室のドアを開いたっス。
自動でスライドしたドアに、少年達が身体をビクりと震わせたっスね。
『怪我のない者は、今開いた部屋で休むと良い』
オレっちがそう告げると、少年少女はスクォールの返答を待つように一斉に注目したっス。
「……失礼します」
と、スクォールはオレっちの横を通り過ぎ、一番手前の個室を覗き込んだっス。
かつて冒険者として、主とその弟子達の放棄された研究所に踏み込んだ事があるらしい彼の警戒心はもっともっスね。
恐らく研究所跡では、主謹製のセキュリティ群が彼を出迎えたはずっス。
だからこそスクォールは、オレっちが勧めていてもちゃんと自分で確認してるっスよ。
……きっと、それだけ少年少女達を大切に思ってるんスね。
作業員用の個室は、ベッドとデスクに加えて量子転換万能調理器とシャワールームを完備した、いわゆる人類会議同盟軍の救難装備準拠っス。
非常時には個室単位で外部に射出して、乗員が救助を待てるようになってるっス。
設備の使い方を説明し終えて――
『では、次は怪我人だ』
オレっちはまっすぐ伸びた通路にホロ・ボディを先行させて、スクォール達を居住区の奥へと導いたっス。
突き当りのドアをスライドさせれば、そこは円形ホール状になった再生治療室っス。
反対側にもドアがあって、その先は衛士居住区となってるんスけど、あっちは軍用品の貯蔵庫も併設してあるんで、今は念入りにロックしてあるっス。
ホール中央に制御台を置き、壁一面に水槽が並べられてるっス。
まだオレっちが<天体制御樹>という躯体を持つ前――移民船団で星々の海を旅していた頃、この設備を指して軍の人達は母星時代のムービーに時折登場する遺体安置所のようだと言ってたっスね。
口の悪いヤツなんか、あの水槽の事をそのままの意味でカンオケって呼んでたっス。
たとえ死んだとしても、肉片ひとかけら、髪の毛一本さえあれば復活できる再生治療器。
それは過去――そして現在に至るまで、この星に生きる人々を明確に分断させ、争いの原因をもたらした不幸の源っス。
オレっちはホロ・ボディを消して、制御台の上で待機状態にしといた愛玩躯体に意識を移したっス。
「……聖泉……なのか? こんな完全な形で?」
「……現代では、そう呼ばれてるらしいっスね。
その様子だと、同じものを見たことがあるっスか?」
呻くスクォールにそう声をかけると、彼は驚いてオレっちの方を見たっス。
「――あ、驚かせて悪かったっス。
これがオレっちの最小躯体なんスよ」
そう彼らに告げながら、オレっちは制御台を操作したっス。
ホールに静かな駆動音がして、水槽――再生器が次々と壁から引き出され、直立させられてフタを開いていく。
「さ、怪我人を中へ。治療するっスよ」
丸い右手を振ってそう促すと、スクォールは首を振った。
「――聖泉を使うと……」
「再生人類になっちゃうって? 心配いらないっスよ。
あれは魔道器官やそこに内包された魂ごと再生させた場合に起こる事象っス。
まだ生きてる彼らは、肉体損傷を修復されるだけっス」
――この星が大霊脈に接続されていて、魂がその循環に載っていたら、再生人類――魂の劣化なんて気にせずに済むスけどね……
「ですが……」
なおも逡巡するスクォール。
「早くするっス! アンタだって彼らを見殺しにしたくはないはずっスよ!?」
ざっと見た限り、怪我人達は魔法によって治療されていて、今すぐ生死が分かれるような者はいないようっスけど、それだって放置すれば予期しない症状や、後遺症を残すかもしれないっス。
賢者である主や、賢者達から教育を受けたクロ姐と違って、オレっちはあくまで惑星開拓騎で、目の前の怪我人達を救おうと思うなら――医療行為は再生器に任せるしかないんス。
怒鳴った事で、オレっちが本気で彼らを救おうとしているのを理解してくれたのか、スクォールは少年少女達に指示して、怪我人を再生器に納めたっス。
それを待って、オレっちは制御台の上に浮かんだ『実行』を選択したっス。
――再び駆動音がして、怪我人を納めた水槽は一基だけを残して壁の中へ。
定位置に戻ると、水槽の内部が薄桃色の溶液で満たされていくっス。
その様子を不安げに見つめる、怪我人を担いできた少年少女達に――
「安心するっス。
一時間もあれば、みんな全快っスよ」
と、声をかけて、オレっちは再びスクォールに視線を向けたっス。
「……彼らも部屋へ」
そう促せば、スクォールは自身が床に降ろされたままになっている水槽を凝視している事に気づいたのか、振り払うように視線をオレっちに向けて。
「――土地神よ。私は……」
そう言いかけたっス。
オレっちは右手を突き出して黙らせる。
『その事について話をする為にも、まずは彼らを部屋で休ませるっス』
スクォールだけに聞こえるよう、指向性を持たせた声でそう告げれば、彼は一瞬目を見開いたものの素直に従って少年少女に部屋で休むようにと指示を出したっスよ。
――スクォールだけがホールに残って。
オレっち達の会話が漏れないように、居住区へと繋がるドアをロック。
「……さて、その様子じゃ、オレっちが言いたい事はわかってるようっスね」
スクォールはうなずき、けれどすぐに首を横に振る。
「土地神よ。ひとつだけ先に言っておきたい。
彼女を聖泉に納めてしまったのは、私の目的を知らない子供達の勘違いなのです」
「……どさくさで再生器を利用しようとしたんじゃない、と?」
オレっちの問いに、スクォールは躊躇なくうなずいたっス。
「ご覧の通り、彼女はすでに再生されております!
ただ……ご相談したい事があるのもまた事実……」
その言葉で……ああ、ここに来て――彼女がこの場にあることで、オレっちはスクォールの目的がぼんやりとわかってきた気がするっス。
それが勘違いであって欲しいと願いながら……オレっちはスクォールの赤い目を見つめて、改めて質問したっス。
「……最初から説明するっスよ。
なぜ、カリーナの肉体があの頃のままでここにあるんスか?」




