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悪逆非道な暴虐王子が追放されて、心優しい王子が即位した結果 ~これなら俺のがマシじゃねぇ?~  作者: 前森コウセイ
第6話 英雄の資質

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第6話 20

 ――不意に目の前を覆っていた木々や藪が晴れて……()()は私達の前に現れた。


「……スクォール先生、これが……?」


 私のすぐ後ろから、顔いっぱいに汗を浮かべたダニーが声をかけてきた。


 彼は王宮騎士達によって大怪我を負わされたニルスを背負ってここまでやって来た為か、顔いっぱいに滝のような汗を流していた。


 私は手にした手帳――かつてカリーナ姉さんが婚約者らと共に、この地を目指した時に記した手記を確認する。


 ――()は、その身を暗銀の大樹へと変えて、この地と霊脈を護りたもう……


 獣属に伝わる伝承を引用して始まるその(ページ)は、姉さん達が古き神の亡骸――御神体について描写されている。


 絵が上手かった姉さんは、記述と共にスケッチも描いていた。


 暗銀色の幹は見渡す限り壁のようにそそり立ち、その頂点は二〇〇メートルに届こうかという高さがあるのだと――カリーナ姉さんの同行者で当時はまだ王太子だった、アルサス陛下は語っていたと手記には記されている。


 木々の間から進み出て暗銀質の大樹――御神体を仰ぎ見れば、遥か上空で伸び広がり銀の葉が茂っていて、その間で時折、まるで花咲くように紫電が舞い散っていた。


 ――間違いなくこの大樹こそ、この地の獣属が祀る古の神――<天象騎ウェザー・コントローラー>だろう。


 私は視線を背後に向ける。


 王宮騎士の襲撃で多くの幼い子を失い、その母親達は憔悴し切っている。


 彼女達の夫は、村を妻子を守る為に王宮騎士が駆る兵騎と戦い、決して浅くはない怪我を負っていた。


 ダニーがニルスを背負っているように、無事な者がそうでない者を支えて、なんとかここまで辿り着いたのだ。


 不思議と魔獣や魔物とは出くわさなかった。


 姉さんの手記では、数百メートル進むたびに戦闘する羽目になったとあったのだが……


「ここ、村と似た感じがする」


 私の隣にやって来たベッキーがそう呟く。


「ああ。村にもこの大樹の枝があったからね」


「――あ、あのでっかい腕みたいな形の奇岩ね」


 ベッキーは手を打ち合わせながらわたしを見上げる。


「言われてみれば、確かに質感とか似てるかも。

 そっか……あれって御神体の枝だったんだ」


「そして御神体は魔獣や魔物を遠ざけてくれる効果があるらしい。

 だから私はあそこに村を作る事にしたんだ」


 このフォルス大樹海に辿り着いた時はまだ幼かったベッキーも、今ではすっかり大きくなった。


 彼女の同年代には、すでに結婚して子供を産み育てている者までいるくらいだ。


 今や村の者達――かつての孤児達は私の家族と言って差し支えない存在となっている。


 ――失いたくない、と……


 カリーナ姉さんに抱いた想いによく似た感情が、胸の奥で渦巻いている。


 王宮騎士によって大怪我を負った子らには治癒魔法を施したが、追撃を恐れてすぐに移動した為に十分とはいえない。


 それでも私に従って不平も漏らさずついて来てくれたみんなを、心から愛おしいと思う。


「――あそこにある(うろ)なら安全に休めるだろう」


 私が指差した先――無秩序に折り重なった太い根の間に、三メートルほどの(うろ)が開いている。


 姉さんの手記によれば、御神体の内部に入って古き神と邂逅したという表現があるから、あの(うろ)が内部へと至る入り口なのかもしれない。


 この時の私は、本来この大樹を目指していた目的さえ忘れ、ただ我が子同然とも言えるみんなの事しか頭になかった。


「――姉さんの手記通りなら、この先に祭壇があるはず……」


 子供達を助けながら根を登り、(うろ)へと辿り着くと、私は彼らに休憩を告げてその奥へ向かった。


「先生、ご一緒します」


 と、護衛のつもりなのかベッキーが隣に並ぶ。


 並んで歩を進めると――


「――ッ!?」


 私達を迎えるかのように、左右の壁に赤い晶明のような明かりが灯ってき、ベッキーが緊張も顕に腰の後ろの短刀の柄を握り込んだ。


「――大丈夫。古い遺跡にはよくあることだよ」


 西方諸島の遺跡でも似たような構造を何度も目にした。


 途端、ベッキーはきょとんと首を傾げる。


「……御神体は遺跡なのですか?」


「ああ。恐らくはかつて私が西方諸島で潜った遺跡より、古い時代のものだと思う」


 姉さんの手記によれば、ベルン・ラグドールやアルサス王太子、ゴルバス王子の会話の中で、西方統一帝国のジャン・ダークス王朝より古いのではないかという推察が成されている。


 となれば、かつてヘンルーダ師が発見したのだという、聖泉と同時代のものとも考えられる。


 ジャン・ダークス王朝以前の歴史は散逸が激しく、現代まで遺っているものがほとんどなく、歴史学者をいつも悩ませる。


 基本的に遺跡に遺された品々や周辺環境から遺跡が造られた年代を探るのだが、周辺環境が調査済みの遺跡より古いにも関わらず、発見される物品がより高度なものであったりするのだ。


 私がヘンルーダ師と巡った西方諸島遺跡の中にも、同年代に造られたはずの遺跡にも関わらず、遺されていた物品の技術が別次元と言って良いほどに隔絶していた事もある。


 とかくジャン・ダークス王朝以前の遺跡は、考古学の定石を無視するようなものが多い。


 そんな事を考えながら歩を進めていくと――


「――あ、先生! 祭壇ってアレですか?」


 やがて通路の先が開けて、半径三メートルほどのドーム状ホールに出る。


 中央に祭壇――西方諸島の遺跡でも時折見かけた、机型の魔道制御台がぽつんとひとつ設けられていた。


「そうだね。私の知識で操作できるものであれば良いが――」


 そうして制御台に一歩を踏み込んだ時だ。


 頭上から、まるで演劇のそれのように白い照明が射し込んだ。





 ――スクォール達が制御盤(コンソール)のあるホールまでやって来るのを待って、オレっちはその眼前に姿を投影したっスよ。


 アル達にはじめに見せたような、鹿族の老人の姿っス。


 スポットライトを頭上から落として、その中をゆっくりと下降して――彼らから見たら、オレっちがどこからともなく現れて、制御盤(コンソール)の向こうに降り立ったように見えたはずっスよ。


『ヒトの子よ。よくぞここまで辿り着いた……』


 ……クロ姐は言ってたっス。


 目の前にいる男はこの星が生み出した、天然の狂科学者ローカル・マッドサイエンティストだと。


 だからこそ、オレっちは躯体を勝手に使われないよう、祭祀場から戻って来たんス。


 ――だというのに……


「――古き神よ。許可なく御所に踏み入った事を謝罪します」


 と、スクォールはその場に跪いて、まずオレっちに謝罪したっス。


 彼のすぐ隣にいた女の子も彼に倣って、慌てて跪いたっスよ。


『……良い。そなたらが騎士に追われ、傷ついてこの地に踏み入ったのは承知している』


 クロ姐が言うには、スクォールはなにかしらの目的があってオレっちの本体を目指してる可能性があるそうっスけど、彼に付き従っている――たぶん、アルより年若い者達を見て、オレっちはたまらなくなったっスよ。


 誰も彼も傷つき、憔悴し切っていて……重傷者は治癒魔法による治療を受けてはいるようっスけど、人数が多すぎて全快まっではできていない――そんな子達ばかりだったっス。


 クロ姐が言ってたように、オレっち達は他人の痛みにひどく敏感で――いまこうしてる間にも、ここの入口でうずくまってる子達を見ると、()()にどうにかなっちまいそうなんスよ。


 ――だから。


『……まずは子らの傷を癒すとしよう。

 そなたは魔道士であろう? これから教える通りに祭壇を操作せよ』


 スクォールの真意を質すのは、それからでもできるっス。


 そうしてオレっちは、スクォールに制御盤(コンソール)を操作させる。


「……これは――神代文字、なのですか? やはりここは神代の遺跡のひとつ……」


 ホロウィンドウに表示された既知人類圏(ノウンスペース)公用文字ノスタルジック・グリフを見て、スクォールが驚きの声をあげたっス。


 クロ姐の話では、スクォールは各地の遺跡を巡っていた時期があるそうっスから、どこかで見たことがあるのかもしれないっスね。


 オレっち達が再び目覚めたライオット兄貴達の時代――第二文明末期の段階で、言語や文字は公用語を元に、国ごとに異なるものを使うようになっていたんスよね。


 主や主の直弟子達は、ずーっと変わらず公用文字ノスタルジック・グリフを使い続けていたようっスね。


 そのせいで祭祀の際にもたらされる情報の中には、遺跡の建造推定年代と内部で用いられている言語が一致せず、その年代に超文明があったのでは――という、オカルト話のようなのもあって、オレっち思わず笑っちまったっスよ。


「――転移陣展開……転移対象選択……これは規定転移先リスト?」


『――読めるっスか!?』


 オレっちの指示に従ってホロウィンドウを操作していたスクォールの呟きを聞いて、思わず素がでちまったっス。


「はい。師と共に西方諸島の遺跡を訪れた際、同様の文字が表示される制御台を発見した際に研究しました」


 そういえばクロ姐がそんな事を言ってたっスね。


 主達の研究所を見つけたとかなんとか……


 現在用いられている言語の元が公用文字ノスタルジック・グリフから派生した事を思えば、主をして天然の狂科学者ローカル・マッドサイエンティストと認める頭脳を持つスクォールにとって、翻訳はそれほど難しい事ではなかったんじゃないっスかね。


 オレっちは威厳を保つために咳払いをひとつ、スクォールに視線を向けたっス。


『――子らの傷を癒やす為、そのリストの中から作業員居住区画を選ぶが良い』


 スクォールはオレっちの言葉に従い、制御盤(コンソール)を操作する。


 そうして転移陣(トランスポーター)が喚起され、スクォールやその横の女の子、入り口で待つ少年少女を七色の光が包み込んだっス。

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