第6話 15
「……まず、根本的な問題として、当時の統一帝国には魔物――<這い寄るもの>の尖兵たる魔物に対応できるような戦力がなかったんだ」
と、ボクは当時の統一帝国の戦力事情の説明を始める。
第三文明崩壊時、この星の人類は勇者ジャンヌ率いる連合軍と主率いる魔王軍、そしてそのどちらにも属さない辺境部族群とに別れて争ったワケなんだけど――第二文明末期に<天体制御樹>のみんなによって、この星の地表は洗い流され、当時の都市や施設は地下深くに没し、あるいはボクらによって念入りに隠蔽されていたからね。
「……当時の戦争は、白兵戦武器で殴り合ったり、低レベルな攻性魔法をぶつけ合うという――今と違ってひどく原始的なものだったよ」
第三文明崩壊時に発掘されていた、数少ない第二文明の遺産――名残りも、魔王軍との戦争やその後に起こった統一戦争に用いられて、多くが破損、喪失していた。
第四文明はそれまでの文明の起こりと違って、魔法以外の魔道科学がいっさいない状態からのスタートとなったんだ。
……正直なトコ、ジャンヌが統一帝国を打ち立てるなんて言い出した時は、ボクと主は呆れたんだ。
一部の変わり者以外は、部族ごとに行動していた獣属や機属なんかはともかくとして、魔王軍を討伐できた事で少なくとも人属は纏まっていたからね。
もちろん連合に属していた各国それぞれに思惑があったのは、ボクも主も理解していたけれど、上辺の上では平和になったというのに、そこに波風を立てようとするジャンヌの思惑が理解できなかったんだ。
……いや、理屈の上では理解できていた。
けれど、ボクにせよ主にせよ、どうしたってこの星に生きる人々は、かつての仲間達の子孫で――その内に抱える闇を見ようとしていなかったんだ。
それが表出した頃には手遅れになってるってのは、三度に渡る文明崩壊でよくわかっていたつもりだったのにさ、今度こそって思っちゃって――要するに三度も文明を滅ぼしていてなお、ボクも主も甘ちゃんだったってワケだ。
その点、ジャンヌは各国の連合軍をまとめ上げていただけあって、その辺りはひどく冷徹な現実主義者だった。
魔王という脅威がなくなったからこそ、生き延びた各国の王侯貴族は弱っている周辺国を平らげて覇権国家たろうと動き出すはずなのだと、あの娘はボクらにそう推測を述べた。
――その為に、各国は魔王軍との戦いには温存していた発掘兵器を、自らが覇王となる為ならば惜しみなく使うでしょうね。
……と。
事実として、各国は魔王軍との戦いに備える名目で先史文明の遺跡を探し求め、連合軍に供出する事なく、秘密裏に温存していた。
中には攻性生物制御鍵を隠し持ってた国まであって、ボクと主は本当に驚かされたものさ。
――今なら……魔王討伐の名声に支えられている私に、民はついてきてくれます。
ジャンヌはボクらにそう告げて。
――なまじ拾った力が……誰かから与えられた力が強大だからこそ、人はそれに惑わされて踏み外すんです。
それこそが新たな時代を主に任された、自身の役目なのだと――
――この星の人類は、いい加減、甘えを捨ててあなた達から自立するべきなんです!
決意を秘めた金眼を強く輝かせて、あの娘はきっぱりとそう言ってのけたっけ。
そうしてあの娘は有言実行してみせて。
統一帝国が完成した時には――少なくとも国内には、戦に使える魔道器はなくなっていたよ。
そういった事情をリディアとハク先生に説明し、ボクはわざとらしくため息を吐いて見せる。
「あの時は、ジャンヌの覚悟を、想いを誇らしく思ったものだけどね……
まさかそのひ孫の代になって、侵災が発生するなんて、誰が考えるっていうんだい?」
ボクも主も、<這い寄るもの>がやって来るのはもっと先だと思っていたし、来たとしても宇宙からやって来ると思い込んでたからね。
まさか<聖約>を食い破って、直接地上に眷属器が顕現するなんて想像だにしていなかったんだ。
銀河標準時で人類が連中と邂逅した時期までに、徐々に――第二文明や第三文明のように急激にではなく、知識水準や技術水準に合わせて、本当に徐々に民間に知恵を紛れ込ませて、発展させて行こうと考えてたんだよ。
事実、あの頃のボクらは霊脈整調の為に各地を巡り、現地の人々にほんのささやかな――生活が少しだけ楽になるような知恵や技術を授けて回っていた。
それを子々孫々に受け継ぎ、発展させていけば、千年も経つ頃には第三文明初期の知識水準には回帰できるであろう知識をね。
「……だから……」
ボクは再び嘆息。
「正直、大侵災が発生したと聞いた時、ボクも主も統一帝国に暮らしている人々の全滅を覚悟したよ」
主によって魔道器官に封印を施され、すべての人々が再生人類と同様の肉体強度しか持たない状況で。
統一帝ジャン・ダークスによって、先史文明由来の魔道器すら存在していないにもかかわらず――
「当時発生した大侵災からは、相棒達がさっき相手にしてたような小物じゃなく、中型が主に発生していた」
「ええと、人類会議規定で三〇から五〇メートル級よね?」
知識の確認を求めてくるリディアに、ボクは頷きを返した。
「そう。最低でもユニバーサル・フィギュア――武騎を必要とするような連中だよ。
そんなの相手に兵騎すらない人類が勝てるなんて思えなかった」
その彼我戦力差は圧倒的――百姓が農具を武器に、赤眼のD型攻性生物兵器の群れを相手取れという方が、まだ勝利の可能性があるってくらいだ。
「――だからこそ、ボクも主も統一帝国に帰り着いた時の光景には、本当に驚かされたんだ」
「……人類がクリーパーに抗う為の刃……それがこの……精霊騎ってワケ~?」
ハク先生が資料を眺めながら尋ねてくる。
「――獣属の化生装備を基に、魔道物質……ああ、妖属が躯体構成に使ってる――万能物質を素体として使ってるのね~?
すごいわね~。剣と魔法の文明水準しかなかったのに、<大航海>時代の魔道科学を――最初期の<魔獣甲冑>を拙いけど再現しちゃってるじゃない」
「そう。ボクらも驚いたよ。
あの時代、兵騎すらもはや伝説の巨人なんて扱いになってたからね。
でも、だからこそ――伝説としてだけど、人が合一する巨大人型兵装という概念が遺っていたからこそ、彼らはそれを生み出そうと考えたんだ」
さっき主が相棒に言ってた航空機の話じゃなけどさ。
人の想像力ってのは、概念として認識さえしていれば、時に道理や理屈を超越してそのものを生み出しちゃったりするんだよね。
ましてあの時は西方域のあらゆる種属が知恵と技術を持ち寄って、人類の敵に抗おうとしていたんだ。
運命論に従って、何段階も段飛ばしした技術革新が起こったとしても不思議じゃないって、主も呆れ顔で言ってたっけ。
「そして外装が……闇青銀!? 量産騎の外装に闇青銀!?」
「そうそう。ビビるよねぇ……
<大戦>期の英雄専用特騎だって、外装すべてに闇青銀を使うような贅沢なのはなかったよねぇ……」
「ええと、闇青銀……魔道強化刻印した金属物質に、銀晶を魔道融合して特定の量子配列を組んだ希少魔道物質……」
ハク先生の<書庫>に接続しているのか、リディアが虚空を見つめながら闇青銀の特徴を口にする。
「量子転換炉を持った人が生き延びてたの~?」
その問いに、ボクは首を横に振った。
「あの時点では、量子転換炉を持っていたのは、もう主だけになっていたよ」
「じゃあ、どうやって闇青銀を~?」
心底不思議そうに首をひねるハク先生。
当然の疑問だよね。
闇青銀が希少魔道物質とされるのは、その精製に量子転換炉が必要とされるからなんだ。
それなしにどうやって百騎近い精霊騎の外装を組み上げられるだけの闇青銀を用意したのか――ハク先生同様に、当時のボクらも不思議で仕方なかったよ。
「答えは……<竜星晶>でね……」
「は?」
「世界の真実に触れる内容だから、この辺りは詳しくは主に聞いて欲しいんだけどね」
と、ボクはあえて言葉を濁す。
リディアに第二文明崩壊について語って良いものか、ボクには判断できないからね。
「とにかく救世騎士団は当時、竜星晶の大鉱脈を発見していてね」
眷属器――魔物によって抉り返された大地から、偶然――あるいは運命論に従って、《《彼》》の意思が作用したのかもしれないけれど――、第二文明崩壊時にウェザー達によって破壊された、<天体制御樹>一番基<地象騎>の残骸が見つかったんだ。
死してなおアースの竜星晶は対EX-T波を放ち続けていて、救世騎士団の拠点として活用されるようになり――まさにアースの躯体が人類反撃のきっかけとなった。
「……知っての通り、竜星晶は既知人類圏屈指の強度を持った物質だから、加工技術なんてなくてね。
当時の人類は、初めこそ鉱脈を魔物が寄り付かない地と考えていたんだ。
……けど、当時の魔道士――様々な種属から構成された魔道科学者団は、人類存亡の熱に浮かされて、良くも悪くもイカれてたからね」
イイ感じに頭のネジがぶっ飛んだ彼らを思い出し、ボクは思わず苦笑を漏らす。
「……妖属の万能物質の変化プロセスを観察して、原始的なものだけど、擬似量子分解炉を造り上げちゃったんだよ」
「――はあっ!?」
再びハク先生が驚きの声をあげた。




