第6話 10
「――セイッ!!」
襲い来る蜘蛛の頭部を持った大型の魔物の、サソリのような長い尾を気合いと共に斬り裂いた。
縦に回転して宙を飛んだ魔物の尾は、オレの周囲に集まった小型の魔物を押し潰し、周囲にドス黒い粘液を撒き散らす。
尾を斬り飛ばされた蜘蛛の魔物は――まるで悲鳴をあげるかのように、長大な大顎を擦り合わせて不快な擦過音を撒き散らす。
飛蝗様の魔物を踏み潰した直後、多くの小型魔物を引き連れて現れたコイツは、全高八メートルあるこちらの騎体よりさらに頭ひとつ分大きい。
先程の飛蝗型と同様に、人の腕を歪めたような四対の青白い肌をした脚を持ち、その蜘蛛のような頭部の付け根からは一際太い一対の巨腕を生やしている。
どす黒い血管を脈打たせたその巨腕は、オレを捉えようとでもいうかのように六指を開いてでたらめに振り回されている。
《――警告! 防御姿勢!》
脳内に響く<神託>の声。
アイリス様が授けてくれたこの騎体は、戦況に応じてこうして警告や助言を与えてくれるのだ。
同時に魔物の左の巨腕に印が付けられ、それが繰り出そうとする攻撃進路予想が赤い線として視界に表示された。
その線に合わせるように、オレは左手に持った大盾を突き出す。
足元の小型魔物を巻き込みながら水蒸気の尾を引いて突き出された蜘蛛型の巨腕が、<聖騎士>の盾に激突して粘液質の音を立てて爆ぜ潰れる。
「ぢぎいいいぃぃぃぃ――――ッ!!」
再び金属質な擦過音が魔物から放たれた。
《――攻撃目標を提示》
<神託>によって、青い軌跡が示される。
「オオオオォォォォ――――ッ!!」
オレは雄叫びをあげながら、右手の長剣をその軌跡に走らせた。
下段からすくい上げるように振り上げた切っ先は、音速を越えて蜘蛛頭を斜めに断ち割る。
巻き起こった衝撃波が周囲の小型を吹き飛ばし――
「――ギ!?」
なにが起きたのか理解できないとでもいうように大型魔物はその頭を傾げた。
直後、まるで左右の巨腕の重さに耐えられなかったのか、ブチブチと不快な音を立てて頭部が割れて行き、黒色の粘液を糸引かせながら地面に落ちた。
《――攻撃目標を提示》
再度、視界に青い軌跡が提示される。
オレは一歩を前に踏み込み、上体を捻って横薙ぎを放った。
頭を失くした大型魔物を真一文字に斬り裂き、同時に衝撃波が小型魔物をも薙ぎ払う。
駆け抜けた剣閃が周囲の巨木を断ち斬り、さらに小型の魔物を押し潰していく。
《――攻撃目標を提示》
<神託>の指示は、さらに三度ほど続き――
《――本騎周辺の敵性体……EX-T眷族器殲滅を確認》
そう告げられた時にはもう、周囲は魔物の残骸と黒色の粘液しか残されていなかった。
《――騎乗者保護の為、魔動出力を戦闘駆動から定格駆動へ移行》
<神託>の声と共に、あれほど昂ぶっていたオレの魔道器官が落ち着きを取り戻していく。
「……終わった、か……」
込み上げて来る疲労感を押し殺し、オレは呟いたが――
――いや、まだだ。
と、すぐに思い直して言葉を重ねる。
「――部下、達は……」
《本騎友軍の現在地を走査……発見。
――対EX-Tフィールド……魔法<女神の唱歌>内にて確認。
現地人類集団と交戦……訂正――拘束された模様》
「――なんだとっ!?」
《進路を提示》
と、白線にて示された進路は上空へと伸び、今も森の空高くに屹立している虹色の障壁の向こうを指していた。
同時にあの虹色の障壁が魔法による対魔物用の結界で、オレ達には害を成さないものなのだという知識が授けられた。
「つまり、部下達はあの結界を張った者達に捕らわれたという事か?」
《――状況からの推測……肯定》
「――クッ!」
この樹海でオレ達を襲う存在など、スクォール達以外にありえない。
オレは呻きつつ、<神託>が示した進路に向けて跳躍する。
兵騎を凌駕する騎体性能を持つ神像は助走なしに、大気を引き裂いて空高く跳び上がる。
「……なんだ、これは?」
樹海の上空に跳び上がり、広くなった視界の中、オレは虹色の障壁の向こうを捉える。
一直線に抉られた大地は、先程のドラゴンのブレスによるものだろうか。
その痕跡に沿うように伸び上がった結界の向こうには、おびただしい数の魔物の残骸が転がっていた。
その向こう――
「……あれは……」
魔物を倒したと思しき、七騎の兵騎がまず見えた。
そしてその兵騎からやや離れたところに、部下達を囲み込んだ集団を捉える。
途端、オレの心臓が早鐘のように脈動する。
黒色の皮膚と甲殻に覆われた、獣顔の存在が部下達を取り囲んでいたのだ。
「……魔神がこれほどに――何故ッ!?」
あそこにいる者達は、顔こそ異なっているものの、トランサー領に現れた魔神アジュアにそっくりな外見をしていた。
いや、建国神話によれば、そもそも魔神アジュアもまた森の奥深くに潜んでいたと伝えられていたはずだ。
その眷族――あるいは子孫が、このフォルス大樹海に潜んでいて、アジュアの目覚めに呼応して活動を始めたと考えれば辻褄が合う、のか?
思考を巡らせている間にも、騎体は跳躍の頂点に到達し、下降が始まる。
そんな中でオレは部下達を救出すべくさらに思考を巡らせ、敵勢力と思しき異貌の集団を注視する。
そして、オレは決定的な存在を見つけた。
顔の上半分を覆う狼面の男――
――アルベルトが生きているわ……
アイリス様の言葉が蘇る。
「――何故、貴様がここにいるッ!?」
オレの叫びが届いたのか、ヤツを始めとした異形どもが一斉にこちらを見上げた。
――着地。
舞い上がった砂埃を剣を振るって払い、オレはヤツに向けて騎体を走らせた。
「答えろ! 悪逆王子アルベルト――ッ!!」




