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悪逆非道な暴虐王子が追放されて、心優しい王子が即位した結果 ~これなら俺のがマシじゃねぇ?~  作者: 前森コウセイ
第6話 英雄の資質

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第6話 9

 森から必死の形相で飛び出してきた王宮騎士達は、その背後に多くの魔物を引き連れていた。


 彼らはリディアが張った虹色の対魔物用結界――<女神の唱歌(アーク・テスタメント)>を前に一瞬の躊躇を見せたものの、背後に迫った魔物の群れから逃れようと意を決して、結界に突っ込み――なんの抵抗もなく通過できた為に、勢い余ってもつれ合うように地面に転がった。


 人数は五人。


 装備から察するに、騎士が三人で衛士が二人だ。


 彼らは半狂乱になりながら、身を起こそうともがいている。


 騎士達は知らない顔だったが、俺の仮面顔は一度トランサー領で騎士達に目撃されている為、向こうが知っている可能性もある。


「……ロイド兄、任せた」


 だから俺はロイド兄にそう告げて、ボリスンの騎体の後に身を隠した。


「――若、お供します」


 と、化生鎧(バイオ・アーマー)姿の獅子族と虎族のふたりがロイド兄の左右に控え、連れ立って騎士達の元へ歩いて行く。


 騎士達が通り抜けて来た虹色の障壁の向こうでは、多くの魔物が集まり、まるで抜け道を探すかのように周囲をうろつき始めていた。


「……リディア。結界は大丈夫か?」


『――はい。あの程度、いくら集まっても<女神の唱歌(アーク・テスタメント)>はビクともしません!』


 頼もしい応えと同時に、あの大きさの魔物ならば数万単位でも耐えられたのだという実証記録が知識として流れ込んでくる。


『いまは眼前の餌に興奮しているようですが、すぐに結界の波動に気づいて離れるはずです』


 ならば、今は王宮騎士達への対応を優先すべきだな。


 俺は騎士達の元へ辿り着いたロイド兄達に意識を向ける。


 ロイド兄は地面でジタバタと情けなくもがく王宮騎士達を、腕組みして見下ろし――


「――ここは我がラグドール家の所轄地だが、貴様ら誰の許しを得てこの地に立ち入っている!?」


 第一声、そう怒鳴りつけた。


 その声や雰囲気から、ロイド兄が明らかに憤りを感じているのが伝わってくる。


 ……まあ、そりゃそうだろう。


 あいつらは国防の要たる王宮騎士の鎧をまとっていながら、魔物相手に抗う事もなく半狂乱で逃げて来たんだ。


 第二騎士団長だったロイド兄にしてみれば、そんな者が王宮騎士の甲冑をまとうのは言語道断だろう。


 そればかりか連中は、ロイド兄が言ったように、この地を治めるラグドール家になんの通達もなしに侵入しているのだ。


 騎士としての心構えもなく、貴族としての規律も乱している以上、連中に好意的に接しろという方が無理というものだ。


「――ヒィッ!?」


「――バ、バケモノッ!?」


 王宮騎士達はロイド兄の怒声に悲鳴をあげ――その左右に並んだ化生鎧の二人を見て、さらに顔を青くしてわたわたと後ずさりを始める。


「誰がバケモノだ、コラ!?」


 と、ロイド兄に付き従った化生鎧姿の二人がドスを利かせた声で怒鳴りつけ、そばにしゃがみ込んで彼らを押さえつける。


「……いや、わからんでもないけどな……」


 今の彼らは漆黒の体表に覆われた異形だ。


 知らない者にとっては、バケモノにしか見えないだろう。


「……だから俺もトランサー領では魔神のフリをできたわけだし……」


 俺の戦闘形態は、獣属(ワーロイド)達が使う化生鎧(バイオ・アーマー)の発展技術が用いられているらしい。


 ババアの説明はややこしくてよくわからなかったが、精霊を集めて幻創された外殻が獣属(ワーロイド)の獣化――化生を擬似的に再現しているのだと俺は理解している。


 <竜爪>に属する獣属(ワーロイド)の騎士達は、他領に出向く事は滅多になく、彼らが使う化生鎧(バイオ・アーマー)もまた対魔物戦闘の切り札である為、合同演習などで用いられる事もまずない。


 ラグドール辺境伯領に造詣の深い騎士ならば、知識として知っている者もいるだろうが、恐らくあの王宮騎士達はそうではないようだ。


「――き、貴様らは何者だ!? ボ、ボボ――ボク達は栄えあるローダイン王国騎士だぞ!?」


 と、王宮騎士のひとりが、それでもロイド兄達が魔物と違って会話が成り立つと思ったのか、不意にイキり始めた。


 ……地べたにケツを着けて、震えながらロイド兄達を見上げているから、滑稽以外の何者でもないワケだが、な。


「そ、そうだ! 次期子爵の私を見下ろすなど赦されない!」


「――さっさと平伏して名を名乗れ!」


 ひとりが強気に出ると、それにアテられたのか、他の騎士二人も居丈高にイキり散らかし始める。


「……あ、あの、お三方……今、この方はラグドールと――」


 と、多少落ち着いている衛士の片方が、そう騎士達に告げたのだが――


「――ボクらを守れなかった役立たずが口を挟むな!」


 最初にイキったバカにそう怒鳴られて、彼はロイド兄を見上げ……それからもうひとりの衛士と視線を交わすと、ふたり揃って押し黙ったまま跪礼を取った。


「――フン! 騎士にもなれない無能が、本当に無駄口ばかりは一丁前に!」


 バカは衛士達にそう吐き捨てる。


 話すうちに恐怖より怒りが上回ったのか、ヤツらはやおら立ち上がり、仁王立ちのロイド兄やしゃがんでいる獣属(ワーロイド)の二人を睨めつける。


「ほ、ほら! 名乗らせてやると言っているんだ。さっさと名乗れ!」


 顎をしゃくって偉そうにそう告げたバカに、ロイド兄は目を細め、鼻で深い溜息を吐いた。


「……今なら恐怖で錯乱していた――あるいは知らなかったって事で無礼をなかった事にもできるが……名乗って良いんだな?」


「――無礼!? 無礼だとっ!? カイル陛下の最側近――レントン騎士団長直属の我らに対して、こんな未開の地の蛮人が!

 貴様らこそ、無礼だろう!?」


 バカは怒りのせいで高まりつつある、ロイド兄の魔動にさえ気づけていないようだ。


「……未開の地、だと?」


「いま、俺らを蛮人つったか?」


 ヤツの言葉に、俺のそばにいた<竜爪>達が怒りをあらわにし始める。


 ラグドールの地に生きる者は、土地神であるウェザーと共に生き、我が国の霊脈を安定させているというその役目に、誇りを持っている。


 フォルス大樹海の奥底に眠る御神体を奉じ、樹海内部に発生している侵災の魔物達を押し留め、まさしく国防の為に身を賭してくれているのだ。


「……あ~、ダメだ。キレちまったよ」


「なあ、若様よ。やっちまおうぜ?」


「どうせ魔物から逃げ出して来たんだ。消しちまっても、わかりゃしねえよ」


 などと、<竜爪>は口々に物騒な事を口走りながら、騎士達を取り囲み始める。


 ……ふむ。


「たしかに一理あるな……」


 どうせ消すならば、身を隠す必要もないだろう。


 と、俺もまたロイド兄のそばに歩み寄ってそう呟く。


「……おい……ア――おまえ、それで良いのか?」


 ロイド兄が俺に気づいて、焦ったように訊ねて来た。


「権威を笠に着て居丈高に振る舞うだけの騎士など、存在しない方が民の為になるだろう?」


「――さすが! わかってらっしゃる!」


 <竜爪>達が一斉に歓声をあげた。


「――だが、まあ待て」


 俺は右手を振って、それを鎮める。


「それだけに、こいつらが寄す処としている権威を超える者に、どういう対応をするのか、興味がある」


 有り体に言えば、今後の為にも今の王宮貴族の反応を見てみたかったんだ。


 現在、バートニー村には多くの貴族が集まりつつある。


 その大半が現体制に不満を覚えている者なのだが、これからは旗色を見てなびくような連中も増えてくるだろう。


 目の前のこいつらは、まさにそういう連中の代表――うってつけの教材のように思えるんだ。


「――な、なにをごちゃごちゃと!? ボク達は王命でこの地に来ているんだ! 逆らうなら処刑してやっても良いんだぞ!?」


 と、バカは周囲を囲まれてもなお、王宮騎士という権威が絶対と信じ切っているのか、俺達にイキり散らかすのをやめようとしない。


 俺を見てもなにも反応しないところを見ると、どうやら俺の姿は王宮に広まっていないようだな。


 ならば、だ。


「――なあ?」


 俺はバカに一歩踏み出し――


「な、なんだ――ブフォ!?」


 容赦なく拳を振るった。


「――ル、ルーサーッ!?」


 砕けた奥歯を撒き散らしながら、ルーサーと呼ばれたバカが吹っ飛ぶ。


 露出した地面を抉り跳ねて停止したバカは、そのまま意識を途切れさせたのか、地に伏したままピクリともしない。


 む……今の王宮騎士は、あれしきで気絶してしまうのか?


 <竜牙>の切り込み隊長ヘリオスなら、あの程度ではビクともしなかったから、力加減を誤ったか?


「――貴様! な、なにをする!?」


「我らに逆らうということは、王に――国に逆らうという事だぞ!?」


 残る騎士二人が怒りに顔を紅潮させ、唾を吐き散らしながら俺に詰め寄ってくる。


「……黙れ。俺達を蛮人と言ったのは貴様だろう?」


 今度は慎重に加減し、俺は順に両者の膝を蹴り砕いた。


「ぎゃああああ――ッ!!」


「ひいいいぃぃ――ッ!?」


「これくらいで大袈裟な……ご希望通りに蛮人の流儀で応じただけだろう?」


 骨が折れようと、まだ脚は繋がっているだろうに。


『やっべ! 兄貴、さすがっす! サイコーにクール!』


 ディックが両手を打ち鳴らし、兵騎による金属音の拍手が辺りにこだまする。


「……若い衆には手加減してくれてたんだな……」


 と、<竜爪>達がドン引き面をしているのはともかく、だ。


 俺ははじめにロイド兄に付き従っていたふたりに目配せして、痛みにのた打ち回る二人の騎士を押さえ込ませた。


「――いいか?」


 獅子と虎のふたりに前髪を掴まれ、強引に顔をあげさせられた騎士達の前にしゃがみ込み、俺は親指でロイド兄を指し示す。


「……あの人はラグドール辺境伯――宮中の権威でしか語れない、愚かなおまえらに理解できる言葉を使うなら……前第二騎士団長閣下だ」


「――は?」


「……だいに?」


 理解できないとでも言うように、ふたりの目線は目まぐるしく俺とロイド兄を行き来する。


「ああ、そうだ。貴族を名乗るなら、学園で教わらなかったか?

 ラグドール辺境伯家は護国の要たる東部守護家――王族だぞ?」


 嘲笑混じりの声色でそう告げて、俺は改めてふたりに訊ねる。


「――貴族としても騎士としても、だ。無礼な蛮人なのは……どっちだろうな?」

 

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