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悪逆非道な暴虐王子が追放されて、心優しい王子が即位した結果 ~これなら俺のがマシじゃねぇ?~  作者: 前森コウセイ
第6話 英雄の資質

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第6話 5

「……さて、リディアや」


 アル達が飛び出して行くのを見送って、セイラ様はわたしに振り返りました。


「――あとは頼んだよ」


 そう仰ってセイラ様は杖で石舞台を叩き、虹色にきらめく転移陣を描き出します。


「――ちょっと、お師匠!? どこ行くんですか!?」


 エレーナお姉様が慌てて呼び止めました。


 そんなお姉様にセイラ様は鼻を鳴らして挑発的な笑みを浮かべました。


「……エレーナ、いつも言っているだろう?

 ――魔道探求の徒は?」


「え? ええと――常に先を見据えて最悪に備える?

 つまりお師匠は、その用意に向かうと?」


「ああ、そうさ。取り越し苦労ならそれで良いけどね。世の中、いつだって予想外は起こるのさ。

 だから、あたしらは考え得る限りの備えを怠ってはいけないんだ」


『――うんうん~。そしてそして~!』


 ハクレイ様がわたしの視界に、デフォルメされたうなずき顔を表示させ、唄うように仰います。


「そんでね、そういう万が一が起こった時こそ、あたしらは勝ち誇った顔で言ってやるのさ!」


 フ、と軽やかに笑ったセイラ様は、汗に湿った髪を掻き上げてわたしとエレーナお姉様に告げました。


「――こんな事もあろうかと、ってね!」


『――こんな事もあろうかと~!』


 同時にハクレイ様もノリノリで同じ言葉を告げました。


 視界には拳を突き上げ、満面の笑みを浮かべたデフォルメ顔です。


 ハクレイ様の記憶によれば、それは魔道科学者が『一度で良いから言ってみたい言葉』ランキングで永久殿堂入りを果たしている言葉で、マッドサイエンティストでさえも憧れる言葉なのだそうです。


 けれど、そうとは知らないエレーナお姉様は苦笑なさいます。


「……お師匠、本当にその言葉が好きですよねぇ」


「ええい、うっさいね! とにかくそういうワケだからここは任せたよ。

 ――幸い、バカ弟子どもがはしゃぐのを止めるのに、試運転(ならし)はできた。

 あとは接続系の調整だけなんだ。すぐに戻るよ」


 と、そう言い残してセイラ様は転移陣を喚起なさいました。


『――んじゃ、俺っちもアル達を出迎える為、あと異端魔道士対策の為にも躯体側に行っとくっス』


 ウェザーさんもそう仰って、この場を去りました。


 わたしとエレーナお姉様は視線を交わし、うなずき合って――それからお姉様はクスリと笑われました。


「――まさか、あの時、王宮で自分が無能だと泣いてた子が、ここまで成長するなんてねぇ……」


「あの時のお姉様の教育があったからこそ、今、わたしはここに立ててるんです」


 そう応えるわたしに、エレーナお姉様は優しく微笑みながら、わたしの頬を撫でてくださいました。


「わたくしが直掩として、あなたの事は絶対に守ってみせる。

 だから……わたくしの最愛を――ロイド様を頼むわね」


 あの人への恋情を自覚してしまった今、わたしははっきりと口に出してそう言えるエレーナお姉様を素直にすごいと思ってしまうのです。


 そして、だからこそ――


「――お任せください!」


 わたしはうなずいて、セイラ様から頂いた銀杖を握り締めました。


 ここからのわたしの仕事は、あの人だけじゃなく、あの場にいるみなさんを――誰かの最愛を、みんなみんな無事に生き延びさせる事なのです。


 <制御盤(コンソール)>上に開いたホロウィンドウには、セイラ様が新たに設定したマーカー――アル達を示す青点と魔物を示す黒点が表示されています。


 先行した兵騎隊が樹海に穿たれた大路の半ばほどに横隊で布陣し、そこを目指して後発の獣属(ワーロイド)隊が疾走しています。


 そして、それを追いかける形で物凄い速度で追い上げるふたつの点が、アルとロイド様です。


『――彼我距離五キロ強……魔物の先陣と接敵するまで、あと一二〇秒ってところかしら~』


 ハクレイ様がそう教えてくださいました。


「……繋ぎ届けて――<天眼(レコグナイゼーション)>……」


 ――わたしは喚起詞を唄って<天眼()>を開きます。


「――っ!? くぁッ!!」


 途端、激しく金属を擦り合わせたような雑音が、わたしの脳内にこだましました。


『あ~、霊脈が乱れてる上に侵災が複数ある土地だものね~。

 ――リディアちゃん、えいってやっちゃいなさいな~』


 そうです。こんな些事に手間取っている暇はないのです!


 ハクレイ様に言われるがままに、わたしは視点を情報界面に転位――


「――えいっ!」


 霊脈に右手を突き刺して、戦域にある霊脈を整えました。


 思考がクリアになり、みなさんとの接続に成功。


 突然わたしの思考が介入した事に、一度経験しているボリスンさん達以外の意識が緊張するのが伝わってきました。


「――突然お邪魔して申し訳ありません!

 リディア・バートンです」


 そう告げれば――


「フフ、『落星の乙女』ですって。すっかり<竜爪>のみんなに受け入れられたようね」


 同じく<天眼>の影響下にあるエレーナお姉様が、<竜爪>のみなさんが意識に浮上させた名前を告げて笑みを浮かべられました。


 うぅ……なぜそんな二つ名が……


『それはそうでしょ~。あれだけ派手に戦略攻性魔法をお披露目したんだもの~』


 ハクレイ様もまた、クスクスと笑っていらっしゃいます。


 ――いまはそれよりも、です!


 わたしは気を取り直して、みなさんに告げます。


「これよりみなさんの管制、指揮を執らせて頂きます。

 ――みなさん、戦場俯瞰図は認識できていますね?」


 わたしの問いに、全員が是を返して来ました。


「魔物の先陣はあと一二〇秒ほどで兵騎隊と接触します」


 そう告げると、次々と<竜爪>のみなさんが対応戦術に思考を巡らせるのが伝わってきました。


「――はい。そうですね。基本はいつも通り、兵騎隊にて防壁を構築。漏れ出た個体を化生隊で潰していく方法で行きましょう」


 と、この地での魔物の狩りに慣れた彼らのやり方を基本戦術に――


「黒狼団のみなさんは、アルの指示通り<竜爪>兵騎隊の後列に布陣し、化生隊のみなさんの補助として、遊撃をお願いします」


 対魔物戦は初めてとなる黒狼団を遊撃として組み込むことで、連携できるように配置します。


 ボリスンさん達の「へい!」が脳内に心地よく響きました。


「アルとロイド様は、本来の目的の為にもなるべく消耗を押さえて、わたしが合図するまで化生隊の打ち漏らし掃討に徹してください」


 ホロウィンドウに表示されている魔物の数はおよそ二百。


 前線に立つ兵騎隊の視線を通して視れば、どれも小型――三メートルクラスの魔物ばかりで、グランゼス領城で見たような大きなものはいないようです。


 魔物戦は始めてのはずのボリスンさん達も含めて、魔物の数に怯んでいる人は、ひとりもいませんでした。


 良いですね。


 頼もしい限りです。


 ですから、そんなみなさんを支援する為にも、わたしがまずは初手を打ちましょう!


『――はい、リディアちゃ~ん! ポイントはこの三点ね~!』


 ハクレイ様がホロウィンドウの俯瞰図に重ねて、わたしの視界に丸を三つ描きました。


「――接触まで三〇秒。

 激突直後に舞台を構築しますので、兵騎隊のみなさんはなんとしても耐えてください!」


 声を揃えて応じてくれるみなさんに感謝の意思を送り、わたしは霊脈に魔道を通してハクレイ様が示したポイントに魔法を喚起します。


「――目覚めてもたらせ、<唱器(エコー)>……」


 指定ポイントの空間を掌握できた感触。


 直後、魔物の群れの先頭集団が、大盾を構えた兵騎隊に突っ込みました。


 わたしは喚起した<唱器(エコー)>を戦場に響かせます。


 単音の声による三つの和音が奏でられました。


「――永久(とこしえ)の眠りより、目覚めてもたらせ……」


 銀杖を握り締めて、霊脈から精霊を吸い上げ、わたしは全力を込めて唄います。


 みなさんを――そして、なによりも大切だと気づいてしまった、あの人を守る為……


「……唄え! <女神の唱歌(アーク・テスタメント)>!!」


 わたしの唄に応じて――セイラ様が大樹海を貫いて生み出した大路が、世界から隔てられます。

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