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悪逆非道な暴虐王子が追放されて、心優しい王子が即位した結果 ~これなら俺のがマシじゃねぇ?~  作者: 前森コウセイ
第6話 英雄の資質

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第6話 3

 拳骨の痛みに思わずうずくまる俺を放置して、ババアは周囲のみんなを見回した。


 その手が<制御盤(コンソール)>を撫でると、石舞台に光盤が出現する。


 そこにはフォルス大樹海を俯瞰した映像が映し出され、赤と黄の光点が表示されている。


「――良いかい? これが敵及び目標の現在地だ」


 王宮騎士達を示しているのだという赤点の中、ふたつほど大きな点がある。


 赤い点はその大点を中心に、五、六人ほどの隊を組み、やや距離を置いて移動しているようだった。


「ああ、この編成――このでかいのは兵騎なんだな?」


 俺の問いかけにババアはうなずく。


「魔獣や魔物、スクォールらの襲撃を警戒してるんだろうさ」


 森に逃げたスクォール達を捜索する為に、残った二騎の兵騎を中心に最低限の隊を編成したというところか。


 恐らく王宮騎士達は、スクォール達の行方を掴めていないのだろう。


 ふたつの兵騎を中心として移動している彼らは、うろうろと左右に迷走しつつ、ひどくゆっくりと樹海の奥地に進んでいる。


 一方、スクォール達を表す十数個の黄点は、一直線に北東――大樹海の深部を目指しているようだった。


「こいつら、なぜ奥地を目指してるんだ?」


『ああ、こいつらたぶん、俺っちの本体を目指してるんだと思うっス』


 と、俺の疑問に応えたのはウェザーだ。


 彼は俺の目の前に、スクォール達が築いていたという集落が映された光盤を開いて説明を始める。


『ほら、コレ。あいつらがここで生き延びられてたのが、これのお陰なんスけど――』


 と、ウェザーが指差したのは、集落の中心にそびえる巨大な構造物。


「これは……腕、なのか?」


 映像が集落上空からの俯瞰だから気付けたことだ。


 きっと地表にいたなら、古代の遺跡と思いはしても、それが腕だとは気づかなかっただろう。


 そう。それはまごうことなく巨大な――高さ三十メートルほどもある、肘から先を象った金属の塊だった。


「――そ。かつてフォルティナがぶった斬った、ウェザーの本体――<天体制御樹プラネット・ドミネイター>六番基の右腕さ」


 ウェザーの説明にそう付け加えるクロに、エレ姉が興奮を隠しきれない様子で訊ねる。


「――やっぱり<天体制御樹プラネット・ドミネイター>というのは、人型兵器の系統だったのね?」


「う、うん。そうだよ。

 主目的は地表開拓だったんだけど、外敵への対処も想定して人型も取れるようにしてあるんだ」


 と、クロはエレ姉の勢いに気圧されながら応え――


「……さすがに戦闘用に造られた、<巨神(ギガント・マキナ)>ほどの戦闘力はないけどね……」


 小声でそう続けたのだが、興奮して歴史がどうのとロイド兄に推察を披露しているエレ姉には届かなかったようだ。


 ……<巨神(ギガント・マキナ)>というのは、たしか昨晩ババアに観せられた記憶にあった、第一文明を滅ぼした巨大な人型兵器のことだったか。


 まあ今はそれよりも、だ。


「この腕がスクォール達が生き延びられていた理由というのは?」


 俺は逸れかけた話題を修正する為、スクォールに訊ねる。


『ええとっスね、いろいろと複雑な魔道科学理論があるんスけど、アル達にわかりやすく言うなら、俺っちの躯体――身体は、魔物が嫌がり、魔獣が味方と認識する造りになってるんスよ』


「――ホラ、グランゼス領で主が喚起した結界魔法があるだろ?

 <天体制御樹プラネット・ドミネイター>を構成する素材は、あの結界を常時張り巡らせていると思えば良いよ」


 ……ふむ。


 あの時、ババアがイゴウ達と喚起した結界は、押し寄せる魔物を押し返してその内に閉じ込め、俺達がグランゼス領から脱出する時間を稼いでくれた。


 あれが常時――しかも、魔獣にも効果があるとなれば、たしかにこの魔境の中でも集落を切り拓いて生き延びる事ができただろう。


「では、スクォール達が奥地を目指しているのは……」


 俺の呟きに、ババアは樹海の奥地――そこで他の樹木を圧倒して天高くそびえる大樹を指差した。


「あそこに眠る、<天体制御樹プラネット・ドミネイター>を目指しているんだろうね」


「……あー、異端魔道士は開拓村出身らしいからな。

 あそこに土地神の本体――御神体が眠ってるってのは知ってるだろうな」


 ロイド兄がババアの推測を肯定する。


「再び騎士に襲われる恐れのある外界に逃れるより、安寧が約束されている奥地に逃れようってわけか」


 俺はババアが開いた光盤を見上げて呻く。


 黄点群――スクォール達はかなりの速度で深奥に近づきつつあるように思える。


 叔母上の記憶からババアの<鍵>の一部を抜き取ったと思われる、スクォールの身柄を押さえる事は確かに重要だ。


 だが、いまや俺達の目的はウェザー本体を使って霊脈を探査し、エルザの転生体を探す方に移っている。


 可能ならば先に御神体に辿り着き、布陣を整えた上でスクォールや王宮騎士を迎え討ちたいというのが本音だ。


「ババア、御神体まで転移はできないのか?」


「それができるなら、最初からやってるよ」


 俺に応じるババアの返事はツレないもので。


「ウェザーが説明したように、アレを構築している素材は特殊な波動を発していて、その周辺では事象改変――魔法の喚起がしづらいのさ。

 攻性魔法みたいな単純なものならともかく、転移――しかも大人数用のものなんて精密制御は散らされて喚起できないよ」


「ほら、城の奥宮に転移阻害の結界刻印が施されてるようなものよ」


 と、ババアの説明に、エレ姉が付け加えて教えてくれる。


「ふむ……それじゃあ、アレはどうだ? 昨晩、ババアが観せてくれた記憶にあったアレ……気圏輸送――」


 と、言いかけたところで、ババアは慌てて右手を振るい、念動の魔法なのだろうか――俺の口が不意に塞がれた。


「バカかい!? おいそれとあの時代の事を口にするんじゃないよ!」


 さらにババアは、俺の肩を腕を回して鋭く耳打ちする。


「……良いかい? 人間の想像力ってのは侮れないんだ。名前や概要を知るだけで、恐ろしい速度でそれを再現しちまう。

 ――騎車が良い例だよ。あれが世に広まったなら、いずれ兵騎すらいらない車が生み出されるだろうさ」


 第一文明では、たしかに道を自動で走る車が行き交っていた。


「それでも地形に影響される車なら、まだ今の文明水準の許容範囲だ。だが、まだ飛行機は早い。

 おまえ、アグルス帝国がああいう空飛ぶ兵器を導入したとして、国を護り切れるのかい?」


 鋭い口調で叱責するババアに、俺は首を横に振るしかなかった。


「なら、今はそういう存在がかつてあった事は隠しておくんだ」


 天帝が彼の時代のアグルス議長なのだとして、帝国でそういった兵器を開発していないのも、恐らくはババアと同じ考えなのだろう。


 ババアから教えを受け、その記憶を垣間見た俺は彼の兵器の運用をいくつか思い浮かべる事ができるが、現場を任される事になる将兵はそうもいかないはずだ。


 攻めるにしても守るにしても、戦略、戦術の概念が根底から覆され、一から教育のし直しが必要となるんだ。


 それに付随する知恵や知識は膨大で、まったくの無知な子供から教育した方がよっぽど早いようにも思える。


 だからこそババアも天帝も、人類の文明水準がその域に達するのを待っているのかもしれない。


「……だが、それならどうやってあそこまで先に辿り着く?」


 ババアの腕から解放されて、俺は締められていた首を擦りながら訊ねた。


「フン、なんの為にあたしが出向いたと思ってんだい」


 皮肉げな笑みを浮かべてそう応えたババアは、光盤に表示された光点を目を細めて見据える。


「――チッ……あわよくば巻き込んでやろうと思ったが、そうそううまくは行かないか。

 ……まあいい」


 それからヤツは手にした銀杖をクルクル回しながら石舞台を歩き、北側にある祠の上に飛び上がる。


「……そもそもだ。おまえ達は隙あらば、ババアだのなんだのと、あたしへの敬いの気持ちってのを忘れてるんだよ」


 不満げに訴えるババアに、俺とロイド兄は顔を見合わせた。


「だってなぁ……」


「庵での、あの自堕落さを省みてから言えよ……」


 思わずそう反論する俺達。


「わ、わたくしはお師匠をすごいと思ってますよ?

 確かに生活態度は、とても褒められたものじゃありませんけど!」


 と、エレ姉はババアを擁護しているつもりなのだろうが、むしろヤツの自堕落さを補強しているようにも聞こえる。


「まったく、バカ弟子どもが!

 だからちょっと、あんたらにあたしの力を見せつけてやろうじゃないかと思うのさ」


 そう告げたババアの手から、銀杖がふわりと宙に浮き上がる。


「――アァ……」


 周囲に響く、ババアのよく通るアルト。


 その声に応じるように、周囲の精霊が一斉に白色に彩られて舞い踊りだした。


 すっと持ち上げられたババアの左手。


 その伸ばされた人差し指と中指に従って、精霊達はババアの周囲で旋回を始める。


 その左手に、人差し指と小指を立てた右手が下から重ねられて――


「――形成せよ(フォーメーション)、<仮想砲身(イマジナリー・バレル)>」


 その唄に応え、精霊達はババアの前方に九つに連なった大規模魔芒陣を描き出す。


 銀杖が緩やかに回転を始め、笛の音に似た風切り音を周囲に響かせた。


 その音を伴奏にするように――


「――星海に響くその唄を……」


 ババアは両手を前に突き出したまま、声高に唄う。


「ここに顕せ、<竜核(ドラゴン・ハート)>……」


 その喚起詞に応じてババアの背後にもまた魔芒陣が結ばれ――(いびつ)な球状をした……ラッパをいくつも連ねたようなのような謎の構造物が現れた。


 ふっと、ババアは吐息をひとつ。


 そのアゴから汗がひと粒したたり落ちて――ヤツが<竜核(ドラゴン・ハート)>と呼んだそれが、その見た目にふさわしい大音声を響かせ、大気を震わせた。


「これは――音楽なのか?」


 軽やかな拍子(テンポ)で紡がれるそれは、聞いたことはないが確かになにかの曲を奏でてているようで――


「あ、魔道艦長キャプテン・リディアのオープニング……」


 と、リディアは聞き覚えがあるのか、なにやらそんな事を呟いた。


 ――なんだ、キャプテン・リディアって……


 そんなリディアにババアが片目を瞑って笑みを浮かべる。


 その間にも、銀杖の回転に合わせたかのように、前方の連続魔芒陣も回転を始め――


永久(とこしえ)の眠りより目覚め……」


 ババアの唄はさらに続けられる。


「――唄い奏でよ!」


 その(うた)とともに、普段は抑えられているババアの魔動が一気に解き放たれた。


 景色が揺らぐほどの圧倒的なそれは、ババアの両手の魔道を駆け抜けて、銀杖に注がれる。


「――輝け(ひびけ)! <竜咆(ドラゴン・ブレス)>ッ!!」


 ババアの唄が結ばれて――瞬間、すべてが濃紫の輝きに塗り潰された。

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