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悪逆非道な暴虐王子が追放されて、心優しい王子が即位した結果 ~これなら俺のがマシじゃねぇ?~  作者: 前森コウセイ
第6話 英雄の資質

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第6話 2

「――お、おい、クロッ!?」


 クロが放った光閃に撃ち抜かれ、悲鳴をあげて倒れる老人。


「じ、じいさん、大丈夫――か?」


 俺は慌てて台を回り込んだんだが、そこに老人の姿はなく――代わりにいたのは、普段のクロと似た雰囲気の、まんまるな雄鹿だった。


「……む!?」


 驚く俺に――


『ああ、その魔動(ソーサリー・ウェーブ)……あんたがアルベルトっスね?』


 まんまる鹿はそう告げて、柔らかく笑って見せた。


 と、その姿がぐにゃりと歪み、その背が伸び上がって俺と変わらない背丈の青年の姿となる。


 地下大迷宮に籠もってた頃に俺もよく着ていた戦闘服を着崩し、真ん中分けの茶色い長髪に片目をつむって横ブイサインしている。


「……相変わらずチャラいな……」


 と、ロイド兄が苦笑しながら呟くのが聞こえた。


「――という事は、アレが土地神……<天象騎ウェザー・コントローラー>? ほ、本当に……なんというか、軽薄な感じのね……」


 エレ姉もロイド兄に応じて囁いている。


『――へ~、ほ~、これがねぇ……』


 その間も、目の前の青年は俺の周囲をくるくる回りながら、落ち着きなく俺を眺め回していた。


「……ウェ~ザ~? そろそろちゃんとしないと、もう一発ブチ込むぜ?」


 そんな青年の後頭部に銃型魔道器をあてがい、クロが低い声で警告する。


『あ、姐さん……やだなぁ。ちょっと感極まっちゃっただけじゃないっスか』


 青年は両手をあげてクロにそう応えると、踵を鳴らして居住まいを正し――敬礼なのだろうか――顔の横で右手を立てて見せた。


『――俺っち……じゃねえや、自分は第三七二天頂方面開拓移民船団、総督府付き技術顧問――青の賢者専属、情報界面戦闘護衛官、ウェザー曹長であります!』


「あ、おう。アルベルト・ローダインだ」


 よくわからない言葉が並んでいたが、恐らくはババアが昨晩話していた太古の――神々の世界特有の名乗りなのだろう。


 だから俺も王宮騎士の敬礼で応え――だが……


「む……しまったな。今の俺は庶民――バートニー村の民という肩書しか持っていない」


 その事実に気づき、俺は頭を掻いて苦笑する。


「だから気楽にアルと呼んでくれ。俺もあなたの事はウェザーと呼ばせてもらって良いだろうか?」


 途端、ウェザーは驚いたように俺を指差し、クロと視線を交わしあった。


 クロもまた肩を竦め、ウェザーに頷きを返す。


「……そういうヤツなんだよ」


 ……ふたりの謎のやり取りに、俺は不意に不安になる。


 仮にもウェザーはこの地の土地神――かつて荒神と畏怖された存在だ。


 ひょっとしていつものように、俺の不用意な発言で怒らせてしまったのだろうか?


 しかしウェザーの表情に怒りはなく――むしろ、それまでの軽薄な雰囲気が霧散して、嬉しそうな……どこか懐かしむかのような複雑な笑みを浮かべた。


『うん、良いっスよ。俺っちもアルと呼ばせてもらうっス。

 いやぁ……ホントにミハイルの子なんスねぇ……』


 今度は俺がクロを見る番だった。


「ああ、十年前、ミハイルは本祭の主宰としてこの地を訪れて、ウェザーと出会ってるんだ」


『――そうっス! ちょっとはしゃぎ過ぎたりもしたっスけど、彼も今のアルと同じように……自分の方が遥かに年下なんだから、王太子と構えずに気楽にミハイルと呼んでくれって――ぐっ……うぐっ……』


 話している間に感極まったのか、ウェザーは大粒の涙をこぼして声を詰まらせた。


『……ここに彼が居ないって事は、ホントに亡くなっちまったんスね……

 現代人類の寿命が短いのは知ってたスけど、それにしても早すぎるっしょ……』


 ……ああ、彼は――父上の死を悼んでくれているのか……


 元荒神というから、どんな気難しく、恐ろしい存在かと身構えていたが――どうやら彼はひどく優しい気質を持っているようだ。


「……あなたの――ウェザーの心遣いを、きっと父上も漆壁の向こうで喜んでくれていると思う」


 そう返せば、ウェザーは涙を拭う仕草を見せて、俺に微笑む。


『――アル自身もいろいろと大変な目にあったのは知ってるっス。

 でも……ミハイルの為にも、あんたは長生きしなきゃダメっスよ……』


「ああ。そうあれるよう、努力したいと思う」


『――ホント、そういう生真面目なトコはそっくりっスねぇ』


 と、遠い目をする彼の表情こそ、俺に言わせれば――


「……そういうあなたこそ、ババアやクロにそっくりだと思う」


 思わずそう口に出すと、クロはひどく嫌そうな表情を浮かべ、ウェザーは驚きの表情を見せた。


『ええっ? 俺っち、主や姐さんとは正反対で、軽薄過ぎるからもっと真面目にしろって言われるんスよ?』


「――いや、そう見せているんだろう?」

 

 途端、ウェザーの目が見開かれた。


 なぜそうしているのかまでは、わからんが……これでも王太子として、様々な人間を見てきたんだ。


 宮廷の影を蠢く貴族達に比べれば、むしろウェザーはわかり易いくらいだ。


 俺は<竜爪>達と共に、石舞台の外縁にたたずむボリスン達を親指で示した。


「――アイツら……俺の部下達と一緒だ」


 そう告げて笑みを浮かべれば――


『――な、なんスか!? あの(かぶ)いた格好! 宇宙海賊みてえじゃねえスか! イカすっ!』


 興奮気味に目を輝かせるウェザー。


 やはり、アイツらの同種か。


 どれほど奇矯でヤバげに見せていても、ウェザーがその内に宿した心は熱く、そして優しいものなのだと――黒狼団に通じるものがあるのだと、すぐにわかった。


「……ちなみにアイツらの装備は、主製だからね。

 デザインはアイツらに合わせて()()だけど、帝国軍強襲揚陸隊(アサルト・ダイバーズ)仕様なんだぜ」


 クロの言葉に、ウェザーはますます目を輝かせる。


『元々、強襲揚陸隊(アサルト・ダイバーズ)って、捕らえた海賊達の更生を目的としていた面もあったんでしょう?

 それが海賊の見た目そのままに、中身は帝国軍仕様なんてロマンの塊みたいな装備じゃねえっスか!』


 どうやらボリスン達の格好――装備は、俺が考えた以上にウェザーの琴線に触れたようだ。


『……なるほど。あんな傾き者を従えてるなら、俺っちみたいな半端者の()()なんて見抜いちゃうっスよね』


「ああ。あなたの本質は――」


 俺はウェザーにだけ聞こえるように顔を寄せる。


「恐らくはババアやクロと同じ――長い時を生きるからこその高みからの視点……それ故に至ってしまった……人類への諦観だろう?

 だが、あなた達は優しい心根から、完全に人類を見捨てる事も諦める事もできずにいるといったところか?

 だからこそ、あなたはその本質を隠す為に軽薄を装い――クロはそれを咎めているが……あいつだって子供ぶる事で同じものを隠してるんだ」


 そして、俺は自身の顔半分を覆う仮面を小突いて見せた。


「そういう意味では、あなたもクロもババアも、俺と一緒で見えない仮面をしていると言えるな」


『……俺っちの過去なんてなにも話してねえのに……ホント、あんたらの血は――一族はなんなんスかねぇ……叶わねえなぁ……』


 ウェザーはそう呟いて頭を掻き――それからその場に跪く。


『――俺っち、<天体制御樹プラネット・ドミネイター>六番基……<天象騎ウェザー・コントローラー>は、アルベルト・ローダインを主の末裔と認め、ここに友好の意を示すっスよ』


 周囲に聞かせる為なのか、あえて声を張り上げてウェザーははっきりとそう告げた。


「……あ、あいつ……あんな真面目な事言えたのか……

 ――いや、それより!」


 ロイド兄が再び驚きの言葉を漏らしたが、すぐに首を振って周囲の<竜爪>に語りかける。


「――我らが土地神が、アルベルト殿下を友と認めたぞ!」


「……フォルティナ王だ……」


「フォルティナ王の再来だ……」


 途端、<竜爪>は口々にそう呟き、一斉に跪く。


「……まだなにも成せてない俺が、彼の英雄王の再来だなんて言い過ぎだ」


 だから俺は苦笑して頭を掻き、それから目の前のウェザーに手を差し出す。


「俺を友だと呼んでくれるなら、そんな風に跪かないでくれ。

 互いに並び立ち、支え合うのが友なのだと俺は教わったぞ」


『――あ、そ、そうっスね』


 きっと彼もまた、俺と一緒で人付き合いが苦手なのだろう。


 なんとも親近感を感じてしまうな。


 ウェザーはおずおずと手を差し出し、俺は彼を助け起こそうとその手を取ったのだが――


「あ……」


『あ……』


 俺の手がウェザーの手をすり抜け、思わず互いに声をあげていた。


「……ウェザーのその姿は幽属(ガイストロイド)のものだからね。物理界面に生きるキミらには触れられないんだ」


『そ、そうなんスよ。せっかく手を貸してくれようとしたのに、悪いっスね……』


 と、自ら立ち上がって、それから申し訳無さそうに頭を掻くウェザーは、どこか寂しげに見えた。


「……ま、本体でなら互いに触れ合うこともできるんだろうけどねぇ」


 不意にババアがそばまでやって来て告げる。


 俺達が話している間、なにやら<制御盤(コンソール)>をいじったり、リディアとなにやら話し合っていたようだったのだが、もう良いのだろうか。


 いや、そんなことよりだ。


 俺はババアの言葉を反芻する。


 ――本体でなら互いに触れ合う事もできる。


「なら、ちょうど良いじゃねえか

 これから俺達は、樹海深奥にある御神体――ウェザーの本体を目指そうとしているんだ。

 ――だから……」


 俺はウェザーにもう一度右手を差し出し、笑みを浮かべる。


「――御神体で、俺と握手だ!」


 ――直後。


「――本題を忘れるんじゃないよ! バカ弟子が!」


 ババアの拳骨が俺の頭に振り下ろされたのだった。

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