第八章:飢えた子供たちが消える
■ 第八章:飢えた子供たちが消える
最初に気づいたのは、誰だったのか分からない。
ただ――
「最近、あの子たち見ないな」
市場の隅にいたはずの子供たち。
ゴミを漁り、余り物を奪い合っていた影。
それが、消えた。
◆ 消えた理由
「逃げた……わけじゃないな」
執事が報告書を差し出す。
「他領の記録でも、“浮浪児の数が減少”しています」
「減少?」
「はい。“消失”ではなく、“移動”です」
フランは地図を見る。
そして、静かに言った。
「……うちに来てるな」
◆ 子供たちの行き先
領地の外れ。
かつては荒れ地だった場所に、今は粗末な小屋が並んでいる。
その前で、子供たちが並んでいた。
「次、こっちだ! 並べ!」
声を張り上げているのは、少し年上の少年。
その手には、配給表。
そして渡されるのは――
干し肉。乾燥キノコ。薬草スープ。
「……食っていいのか?」
「働いた分だ。遠慮すんな」
子供は、震える手で食べる。
泣きながら。
◆ 仕組み
「孤児だけの班を作った」
報告するのは、現場を任された女職人だった。
「軽作業中心だ。キノコの間引き、薬草の選別、乾燥補助」
「効率は?」
「悪くない。むしろ丁寧だ」
フランは頷く。
「賃金は?」
「食事+寝床+少量の銅貨」
「十分だな」
それは慈善ではない。
労働として成立させた保護だった。
◆ 市場の変化
都市の市場では、異変が起きていた。
「スリが減った?」
「物乞いがいない……?」
商人たちは首をかしげる。
そして気づく。
「あいつら……“仕事してる”のか」
犯罪が減る。
治安が上がる。
結果――
さらに人と金が流れ込む。
◆ “見えない労働力”
だが、その裏で。
「子供の手で選別された薬草は質がいい」
「乾燥ムラも減ってるな」
商品の品質が上がっていた。
理由は単純だ。
大人よりも、小さな手の方が繊細な作業に向いている。
そして何より――
「……必死だからな」
誰かが呟いた。
◆ フランの視線
フランは現場に立つ。
子供たちは一瞬で静まり返る。
「……領主様だ」
恐れ。
警戒。
だが、逃げない。
逃げ場がここだからだ。
フランは一人の少年を見る。
「名前は?」
「……リク」
「働いてるか?」
「……はい」
「ならいい」
それだけだった。
◆ 消えたものの正体
執事が後に記録する。
■ 報告
・浮浪児の減少
・犯罪率の低下
・労働人口の増加
・生産効率の向上
だが、最後にこう書き加えられる。
※「消えた」のではない
※「組み込まれた」のである
◆ 外から見た異常
商業ギルドの会議室。
「……子供まで労働力に?」
「倫理的に問題がある」
「だが、結果は出ている」
沈黙。
そして一人が言う。
「だから危険なんだ」
飢えが消えた領地。
だがそれは――
完全に回り始めた経済の証明だった。
◆ フランの独白
「救ったつもりはない」
夜。
フランは一人、呟く。
「ただ、“無駄を減らした”だけだ」
捨てられていた人間。
使われていなかった労働。
流れていなかった金。
それを繋げただけ。
だが――
世界は、それを許さない。
翌日。
正式な文書が届く。
「児童労働の全面禁止、および管理権の移譲を要求する」
差出人。
商業ギルド中央評議会




