第九章:正義の名をした支配
羊皮紙には、整った文字が並んでいる。
■ 商業ギルド中央評議会 通達
一、児童労働の全面禁止
二、薬草および加工品の品質管理権の移譲
三、流通経路の統一(ギルド管理下への編入)
従わぬ場合――
取引停止および制裁措置を実施する
執事が息を呑む。
「……完全な支配、ですな」
フランは紙を折った。
「いや」
静かに言う。
「“正しい支配”だ」
◆ 正義の顔
数日後。
領地に使者が到着する。
豪奢な馬車。整った衣装。無駄のない動き。
「商業ギルド中央評議会より参りました、監査官です」
女だった。
冷たい目をしている。
「まず確認します。この領地では、児童に労働をさせていますね?」
フランは即答する。
「ああ」
「違法です」
「違法にしたのはお前らだ」
空気が凍る。
◆ 理屈 vs 現実
「子供は守られるべき存在です」
監査官は一歩も引かない。
「教育を受ける権利がある。労働は搾取です」
フランは笑わない。
「じゃあ聞くが」
一歩、前に出る。
「食わなきゃ死ぬ子供に、“権利”は何の意味がある?」
沈黙。
だが、監査官は揺れない。
「それは、あなたの責任ではない」
「違うな」
フランは言い切る。
「目の前にいる時点で、俺の問題だ」
◆ 見せつける現実
フランは監査官を連れ出す。
工房。
畑。
配給所。
そして――子供たちの作業場。
「手を止めるな」
フランの一言で、作業は続く。
子供たちは黙々と働く。
笑いながら。
食べながら。
生きながら。
「……」
監査官は初めて言葉を失う。
◆ 選択の強制
「選べ」
フランは言う。
「働かせるか、飢えさせるか」
「……二択にするな」
「現実はそうだ」
フランの声は冷たい。
「お前らは、“働かせずに食わせる仕組み”を持ってない」
それが全てだった。
◆ ギルドの本音
監査官は目を伏せ、そして言う。
「……もう一つ、理由があります」
「言え」
「このままでは、あなたの領地が市場を壊す」
静かに告げられる本音。
「安価で高品質な薬草と加工品。統制されない流通」
「既存の商人が、成立しなくなる」
フランは頷く。
「最初からそれを言え」
◆ 正義の正体
「児童労働の禁止は“正しい”」
フランは言う。
「だが同時に――」
監査官を見る。
「市場を守るための口実でもある」
監査官は否定しない。
できない。
◆ 領民の選択
その夜。
領民たちが集まる。
「子供に働かせるのは……どうなんだ」
「でも、あの子ら死ななくなったぞ」
「ギルドに従えば、安全にはなる」
ざわめき。
揺れる空気。
そして。
一人の少年――リクが前に出る。
「俺は、ここで働く」
全員が静まる。
「働かないと、死ぬからじゃない」
拳を握る。
「働けば、生きていけるからだ」
◆ フランの決断
翌朝。
監査官が問う。
「最終回答を」
フランは迷わない。
「断る」
短い一言。
だが、それは――
正義との戦争開始だった。
◆ 制裁
数日後。
都市からの連絡が途絶える。
・商人が来ない
・物資が入らない
・販路が消える
そして。
「……価格が落ちてます」
倉庫に積まれた商品。
売れない。
金が止まる。
◆ それでも
執事が問う。
「……どうされますか」
フランは、静かに言う。
「簡単だ」
窓の外を見る。
煙が上がる。
人が動く。
街が、生きている。
「外に売れないなら、中で回せばいい」
閉ざされる外。
だが、内側は拡大する。
そしてフランは気づく。
これはもう「領地」ではない。
「……経済圏を作る」




