第二章:雑草は金になる
水が通って、三日後。
畑にはまだ何も育っていない。
だが――
「……あるじゃん」
フランはしゃがみ込んだ。
地面一面に広がる、名もない草。
そして、その隅。
朽ちかけた切り株に、いくつもの小さな影。
「……こっちもか」
指でつまみ上げる。
それはキノコだった。
さらに周囲を見渡す。
林の奥、日陰に群生する葉。
見覚えがある形。
「山菜まで揃ってるのかよ」
■ 村人の認識
「それはやめとけ」
老人が顔をしかめた。
「そのキノコ、たまに人が死ぬ」
「こっちの葉も苦いだけだ。食えたもんじゃない」
「全部、捨てるもんだ」
「これ、食えるか?」
「雑草ですよ」
老人は即答した。
「誰も食いません。家畜でも嫌がる」
フランは軽く頷く。
「なるほど」
そして笑った。
「“選別されてない資源”ってことか」
■ 前世の知識
フランは記憶を辿る。
会社員時代、研修で聞いた話。
山菜。
キノコ。
薬草。
雑草扱いされていたものが、都市では高値で取引される。
“知っているやつだけが価値を得る”
「つまり――全部金になる」
「名前がないなら、名前をつければいい」
価値とは、そういうものだ。
■ 仮説と実験
フランは素材を集めた。
・苦味のある雑草
・香りの強い葉
・乾燥させたキノコ
・灰汁を抜いた山菜
煮る。
干す。
刻む。
混ぜる。
「……で、どうだ?」
老婆がまず山菜を口にする。
「……あれ?」
驚いた顔。
「苦くない。むしろ……うまい」
次にキノコ。
「……体が温まるね」
最後に薬草。
「楽になる」
フランは小さく笑う。
「全部当たりだな」
■ 名前を与える
「これは“灰葉草”」
「これは“香火草”」
そして――
「このキノコは“陽茸”」
「この山菜は“春芽菜”」
名前がついた瞬間。
それは“危険な野草”から“商品”に変わる。
■ 最初の商人
数日後。
フランは一人で山を下りた。
目指すは最寄りの小都市。
門番に止められる。
「何の用だ?」
「売りに来た」
袋を見せる。
中には乾燥させた草。
「……ゴミか?」
「違う。薬だ」
■ 都市の反応
市場。
フランは薬草だけでなく、乾燥キノコと山菜も並べた。
「……なんだこれは?」
「保存食だ。薬にもなる」
「しかも安い」
店主は半信半疑で扱う。
だが――
■ 数日後
「おい、お前!!」
市場に入った瞬間、呼び止められる。
あの店主だった。
「なんだあれは!」
「売れたか?」
「売れたどころじゃねえ!!」
店主は声を荒げた。
「効くって評判だ! 在庫全部出せ!」
「全部持ってこい!!」
「キノコが売り切れた!」
「山菜は料理屋が奪い合いだ!」
「薬草は言うまでもねえ!」
■ 爆売れ
その日、フランの持ち込んだ薬草はすべて売れた。
銀貨三枚どころではない。
一気に銀貨五十枚。
村の年間税収を、たった一日で超えた。
■ 爆発的需要
結果は単純だった。
・薬草 → 効果で売れる
・キノコ → 味と保存性で売れる
・山菜 → “珍味”として売れる
三本柱。
市場が一気に広がる。
銀貨五十枚どころではない。
百枚。
二百枚。
■ 産業化
「役割を分ける」
・採取班(山・森)
・選別班(毒・可食判定)
・加工班(乾燥・調理)
・販売班(都市)
「あと――」
フランは付け加える。
「“キノコ栽培”もやる」
「は?」
「森に頼るな。育てる」
村人がざわめく。
■ 村の変化
子供が山へ走る。
老人が選別を教える。
女たちが加工する。
男たちが運ぶ。
村が“回り始める”。
■ 次の問題
「……規模が大きすぎます」
老人の声は重い。
「薬草だけじゃない」
「食料まで握ることになる」
フランは頷いた。
「つまり――」
「完全に目をつけられる」
■ 不穏
街道の向こう。
砂煙。
騎馬。
旗。
そして――
荷車。
明らかに“奪う気で来ている数”
■ フランの一言
「いいね」
フランは笑う。
「雑草だけならまだしも――」
「食料と薬を同時に握った」
目が細くなる。
「そりゃ来るよな」
そして静かに言った。
「“戦争になる規模”だ」




