8 模索
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ギルドに帰って討伐証明を提出。
それがどさりっという革袋の重さになって返ってきた時に、我々三人の目が見開かれた。
「こ、こんなに稼げるものとは」
「びっくりですぅ」
「確かに、今までは半日で煙草代とグレイスの食費にしかならんかったが」
三人と一匹の頭割りでも、充分な額になるであろう稼ぎに素直に驚きを隠せない。
グレイスが敵を見つけて、カインさんが狩る。
俺とセリアさんがそれをサポートする。
この最効率の結果に興奮が隠し得ないカインさんとセリアさん。
「平原でこれであれば、ダンジョンに行けばどれほどの……」
露骨な金勘定をイケメンがしている図。
その構図に少し冷静になれる自分がいた。
⸻なるほど、レンさんが二人を紹介したのも頷けるというものか。
確かに魅力ではある。
「いけますよ、たろーさん!」
「そうです!平原でも充分に戦えましたし、ダンジョンの上層であれば確実に稼ぎが増えます!」
確実に。
という言葉にピクリと反応する。
しかし、これを言ったものかどうか。
すると賑やかな雰囲気にレンさんが近寄ってくるのが見えた。
◇◇◇
「やぁ、共同は上手くいったようだね」
それぞれが思い思いに報告をしていくのをレンさんは興味深そうに聞いていた。
髪から滴る雨粒が、冒険のあとを示している。
「たろーさんはすごいんです、グレイス君の索敵でこんなに稼げるなんて!」
セリアさんの弾む様な発言にグレイスが胸を逸らせた、ようにも見えた。
グレイスが褒められて俺も素直に嬉しい。のだが⸻
「たろー君、少し二人で話そうか」
何かを察したのが、レンさんは俺に向けてそう言った。
その真剣な調子に俺はドキリと胸が高鳴る。
「なにか引っ掛かる所があるんだね?」
ギルドの端の一席に移動して開口一番に、レンさんはそう聞いた。
俺は静かに頷く。
「能力は、申し分ないと思います。ですがそれが有能である、という説明にはならない」
俺は感じていた疑問点をレンさんに説明し始めた。
「違和感は二つ。一つはスペックが高すぎること。もう一つは能力の高さと現状把握の秤のバランスが悪い、こと」
能力の高さが現状課題の解決になっている、今はいい、と俺は思う。
しかしそれが通用しない状況になった時。
「カインさんは恐らく力で突破しようとする」
それが二人のインターンで導き出した俺の解答だ。
「それ自体に問題はないでしょう。むしろ美点にもなり得る。が、俺が慎重すぎるのか、とてもじゃないが危なっかしくてみていられない。」
あとは……と、俺はそこで一つ言葉を切る。
「セリアさんの治癒ありきの特攻、あれは酷いと思いました。命をかけるにはあまりには浅慮。仲間に命を預けるとは聞こえはいいですが、リスクの事を考えると」
例えば、不意の事故でセリアさんの魔素が封じられたとする。
それだけで常勝パターンは瓦解。
パーティは一気に危険に晒される。
「なるほど」
というレンさんの言葉にも理解の色があった。
俺はほっと一息つく。
柄にもない生意気なことを言った自覚はある。
「察するに、僕がカイン君とセリアさんをたろー君に紹介する理由にも、考えが及んでいるのだろうね」
レンさんのその言葉に、俺は頷き肯定の意を返す。
きっと、そこが二人のネックになる部分なのだろう。
「君は正しい。彼らの能力はアイアンランク離れしている。多少能力にあぐらをかいているところもある……だが」
レンさんは組んでいた指を解き俺の顔を見据えた。
「パーティとは、最初から完成されたパズルじゃない。互いの欠損を埋め合い、機能として補完し合う『相互互換』の形を模索するものだ」
⸻模索、か。
「そしてチームとは、誰かが意志を持って作り上げるものだよ。カイン君たちの暴走を、君の管理というブレーキで制御し、最高の出力を引き出す。……そのリーダーシップを発揮する価値が、彼らにはあると思わないかい?」
その発想転換に、俺はハッとする。
社畜だった前世の俺は“使われる”方だった。
その事を言及されているようで、胸が痛い。
「……レンさんは俺を買い被りすぎです」
「ははっ、そうかな?君にならできる、と僕はそう思っているよ」
レンさんはそこで言葉を切って、傍のグレイスを撫でた。
グレイスがどうしたの?という不思議そうな表情で俺たちを見上げている。
「君の魔素素質は“混ざる黒”だ。こういう運用は得意とする所なのではないかな?」
優しい口調は、しかし一方で過分な期待だ、と俺は恥ずかしくなる。
いつだって、この人は俺を過大評価する。
「少し、考えてみます」
ダンジョンには、行くだろう。
しかし永劫このパーティでやっていく自信がない。
「いずれにしても話し合いの必要性は感じます。カインはんとセリアさんにはそれとなく俺から話してみます」
そんな俺の言葉にレンさんは破顔した。
紹介した手前、行く末を案じて下さっているのがわかる。
◇◇◇
ダンジョンアタックの当日、俺は荷物の点検をしている。
目的は魔石における稼ぎ。
であるならば、物資の運搬能力の多寡は直接仕事の出来を左右するというものだ。
最小限の内容量で、かつリスクを回避できる持ち物を、と考え始めると時間がいくらあっても足りない。
未知の領域に足を踏み入れるのだ。
用心しすぎるに越したことはないと判断する。
対してカインさんとセリアさんはいつも通りの装備。
これは事前の話し合いで決めていた事だ。
二人の役割はパフォーマンスを発揮すること。
物資の運搬や魔石の回収には俺があたる事で納得を得ている。
「しかし、たろーさんばかりにお願いするのも……」
と、最初カインさんからこちらを配慮する言葉が出たものだが。
それこそ人員と役割を勘案しない悪手であると懇切丁寧に説明したものだ。
コストの最小化と利益の最大化は基本である、と俺は考えている。
「現状のパーティを鑑みて、俺が一番仕事が無いのは明白です。合理的に行きましょう」
彼らとパーティを組むと判断した時点で、俺はそれに徹することを決めた。
気にいるいらないの話しはナンセンスである。
俺は冒険者だ。
そのかわり、と俺は念を押す様にカインさんに言葉を付け足す。
「約束の件はお願いします。必ず独断即決はさける、と。正直カインさんの不在は全滅を意味すると思っています。“カインさん次第”であると深く心にとめておいて下さい」
ダンジョンに向かうとして、俺はカインさんとセリアさんにいくつか約束事を課した。
一つは、カインさんが中心人物である、と明文化することである。
「指示系統は流動的でも構わない。しかし俺が傷ついてもグレイスが倒れても優先すべきはカインさんのパフォーマンス。いいですね、セリアさん?」
ここはセリアさんに口酸っぱく言っておかなければならない。
死と利益など比べることなど出来はしないが。
命をかけるにはルールも必要だ。
これが俺の冒険者としての戦い方だ、と俺は決意を込めて背嚢に詰めた荷物を背負い直した。
その重さに命が乗っていると思うと、酷く軽く感じた。
「気をつけて下さい。今回のダンジョン開きは不安定である部分も確認されています」
ギルドの受付嬢が我々に向かってそう言った。
「皆さんの様な将来有望な冒険者こそ、自力を積み重ねて欲しいのですが……」
心配そうなその言葉には本当の心配が乗っていた。
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