9 ダンジョン『魔鉱』
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暗い坑道には光源が欠かせない。
俺は最後の最後までカンテラを魔素充填式か油などを燃やす通常のものか悩んだ。
手軽さの前者と、重さや充填の手間などはかかるが魔素を節約できる後者。
俺は最終的に悩んで、後者を選んだ。
そしてダンジョンに踏み入れた今。
⸻その判断は正しかったと確信している。
「ここまで暗いとは」
カインさんの声が洞窟に反響した。
もちろん、事前に情報は仕入れてはいた。
場所によっては暗さで一寸先も見えない、と。
しかし軽々予想を超えてくるのが、ダンジョンというものか。
多少の重さを飲み込んで油式にしてよかった。
二時間に一回残量を確認する手間は増えたが。
「気を引き締めていきましょう」
油式を選んでいなければ、今頃魔素リソース管理にストレスを感じていた所だろう。
その事に気づいたのかカインさんとセリアさんも表情を引き締め直した。
グレイスが油の匂いに嫌悪感の思念を飛ばしてきている。
「グレイス、辛抱をしてくれ」
渋々、といった具合で魔鉱物の匂いを辿りだすグレイス。
さぁ、仕事といこう。
◇◇◇
「たろーさん、先程から何を撒いているんですか?」
魔鉱を目指す道すがらで、セリアさんの台詞だった。
足元に俺が何かを落とすのを目敏く発見したらしい。
「光草の種です。魔素を吸って育つのだとか」
ダンジョン内は外に比べて魔素が満ちている。
それを好んで育つ魔草、といった所だろうか。
「引き返す頃には発光を初めているはずです。帰りの道標に、と思いまして」
「へぇ」
グレイスのおかげで最短距離で魔鉱を目指せる我々には不必要なものかもしれない。
しかし帰り道にグレイスの鼻が効き続けている保証もない。
そろそろセリアさんも俺のこういう配慮に慣れてきたように、一つ一つの行動の意味を聞いてきたりした。
いい傾向にあると俺は思っている。
「他にもなにか用意してらっしゃるのですか?」
「視覚の他には、カンテラの油をたまに撒いてます。これは主にグレイスの鼻頼りになりますが」
退路の匂いが永劫である保証もない。
ならば目印は必ず役にたつ、と俺は備えている。
役に立たないなら、それでもいい。
「入念に準備をしてらっしゃるのですね」
関心するように、カインさんも会話に参加する。
「お二人と一緒にダンジョンを潜る判断をしてから、疾風の皆様に質問攻めを敢行しました。」
質問しすぎて最後の方ラルスさんが口を聞いてくれなくなったことは、黙っておこう。
稼ぎができたら煙草を買ってお返ししなければ。
「ほとんどが諸先輩方の工夫のおかげです。僕の独創はありません」
先人の知恵とはそれほどまでに価値があるのだと、俺は再認識を新たにするいい経験になった。
冒険者。
冒険者か。
「良い冒険者は備える者だ、とレンさんがよく言っているのがよくわかりますよね」
俺は日頃のレンさんの言葉を反芻する。
俺の教えではないが、俺の冒険者としての本質を支える根幹になっている。
「先程の光草は魔鉱を掘るときにも撒きます。聖水をかけると一時的に聖なる光を発光するらしい」
ダンジョンの魔物全てに有効なわけではないが、それでも多数が嫌がる魔素を撒いてくれる、所謂簡易的な結界になるわけだ。
「ちなみにラルスさんはこれを道具なしで全部自前の魔素でやるらしいですよ。凄まじいですよね」
情報を仕入れれば仕入れるほど、疾風という上位冒険者の無茶苦茶度合いの輪郭が露わになっていく。
あの人達はもはや兵器に近い。
俺はとんでもない人たちに助けて貰ったんだな。
「そういえばカインさんとセリアさんはどうやって疾風の皆様と出会ったのですか?」
純粋な疑問でもある。
ダンジョン探索に慣れ始めた証でもある。
俺だって、なにも四六時中気を張っているわけにもいかない。
そうやって気張っていざと言う時に集中力を発揮できないのも本末転倒であることは理解している。
「レンさんがアカデミーの先輩なのです」
「アカデミー?」
初出の言葉だった。
魔素に関する学校、というのは察するに容易いが。
「領都自ら運営する魔法力学及び魔導科学の研究、教育をする機関ですね。私とセリアは昨年までそこで魔素に関して学んでいました」
「魔法、魔導だけでなく魔闘術の研鑽も盛んでしたね」
魔法、魔導は聞いた事はあったが、魔闘は初めて聞いた。
魔法はイメージ通り、魔素を展開して干渉させる方法。俺が土を沼にしたのもこれだ。
魔導はつまり魔導具のこと。
チンっと開閉口をあけて魔導ライターで火を灯し魔草煙草を一口吸った。
「魔闘術とは?」
カインさんが信じられないものを見たように、俺の事を見た。
ん、なんだ?
常識だったのか?
「……本気で言ってらっしゃいますか?」
「冗談に聞こえました?」
「いえ……いや、思えばたろーさんは稀人、でしたね。ここまで用意周到でしたので、失念しておりましたが」
なんだか褒められたのか貶されたのか釈然としない言い分ではあったが。
今はまぁそれはいい。
「魔闘術は魔素戦闘において基本となる運用方法の一つです」
「魔素を身体に巡らせて爆発的な膂力に変換したり、武器に魔素を纏わせて攻撃力を強化させるような使い方ですね!私は苦手ですが」
カインさんからセリアさんが順に説明してくれる。
なるほど。
先日の雨の平原でのカインさんの異常な戦闘力は、こういうことだったのか。
「この世界に産まれたものは自然と行うものですから、てっきり存じてらっしゃるものと」
バツの悪そうな表情のカインさんに、慌てて手を振る。
かしこまるイケメンほどやりにくいものはない。
「なるほど。ちなみにやり方を伺っても?」
実戦で即、とはいかないだろうが。
それでも聞くからに有用な技術であることは確かだ。
……しかし、なぜ冒険者登録の際に教えてくれなかったのだろうか。
「幼子も自然と行うことですからね。後天的に魔素操作を覚えたたろーさんには後回しにしたのかも知れません」
なるほど、それならば。
魔素操作をスムーズに行えてはじめて有用である、とそう取れもするか。
「やり方は魔素を込めるだけですので。私は動かす部位を意識したり、武器を身体の延長と思うようにしています」
魔素を込める。
簡単に言うが、未だ俺は魔素を展開するのにも煙草と集中を手放せない若輩者である。
これは絶えず訓練が必要そうだ。
と、話している内に一つ目の魔鉱が見えてきた。
◇◇◇
魔鉱採取は魔闘術試作の授業サンプルと化した。
俺はグレイスが辺りを警戒するなか、身体とピッケルに魔素を込めて分厚い岩を叩いている。
ぼんやり輝く光草が辺りを照らしている。
「もっとこう、ですね」
ドゴっと鈍い音を立ててカインさんがピッケルを叩きつけると、硬そうな岩盤がひび割れた。
なるほど、魔素の動きがスムーズだ。
「ふふっ」
不意に警戒をしていたセリアさんが笑った。
「カイン嬉しそうですね。たろーさんには教わるばかりだったから」
教える事ができて嬉しい、とそういうことだろうか。
見るとカインさんが耳まで真っ赤にしている。
「セリア、余計な事は言わないでいい」
「はいはい。私は警戒!ですね」
照れるイケメンに揶揄う美人とは。
誰得展開なのだろうか。
ご馳走様です。
そんな事を考えて放った一撃がガキィンと大きな音を立てた。
お、こうか?
「おぉ、今のは良いですね」
「なんかコツが⸻こうか?」
再びガキィンと大きな衝突音。
確かに、力の入り具合が。
見るからに変化をみせる俺にカインさんの指導も熱を帯びる。
「もっと、こう、ですね」
素人目にもわかる迸るカインさんの魔素、が込められたピッケル。
あ。
そ、それは⸻
ドゴォン!と今までが児戯に思えるほどの、爆音。
明らかに、加減を取り違えた、大人げないと言える一撃。
「お、お、おぉ!?」
ぐらぐらと地面が揺れ、魔鉱の亀裂から魔素が溢れ出す!
「う、うせやろ!」
地が割れ天井が崩れだすなか、グレイスが駆け寄ってくるのが見えた。
身体は、奈落へ。
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たろーの行末は!?
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