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7 寄り合いパーティ

7


「ダンジョンですか?」


話には聞いていた。

魔素が満ちる特殊な空間が連なる、魔石の産出場所。

そこから取れる魔石から魔素が抽出され、さまざまなエネルギーに変えて消費される。


「そう。現在魔装都市ヘイルニルには二つのダンジョンがあり、その一つ『魔鉱』の解禁日が近い」


ダンジョンはその産出される魔石の量を適切にコントロールするためギルドによって厳しく管理されているらしい。

それが近いうち、禁猟が解かれるということか。


「そんなに儲かるんですか?」

「たぶん効率はいい。特にたろー君なら」


レンさんは努めて冷静に分析する。

「スノーウルフを従魔にしている、というアドバンテージが大きい。魔石の産出場所は主に魔獣の剥ぎ取りと、魔鉱から。意味はわかるよね?」


満月の夜、魔素が一番満ちる時に魔鉱の場所はかわる、とレンさんは続けて言う。

「エンカウント率、魔鉱の発見率が、グレイスがいるなら跳ね上がる。正直、中層以下に連れていけるのならば僕が誘いたいぐらいだ」


ギルドが管理しており冒険者にライセンスを発行している以上、中層以下への参入はランクによって選別されるらしい。

俺は新米。ランクも最下層アイアンだ。


「ただし危険度も跳ね上がる。もし検討するならパーティでのダンジョンアタックを推奨する」


パーティでの、という条件を訊いて持ち上がっていた希望が萎びていくのを俺は感じた。

パーティ。

パーティか。


「たしか寄り合いでのチーム編成に疑問がある、ような事を言っていたね?」

「疾風の皆様の様な玄人ならば、毛程も。ただアイアンランクとなると、ですね」


三週間の内に何度か野良パーティでの依頼をこなした経験がある、が。


「指揮系統が無茶苦茶でとにかくやりにくかった印象です。報酬や手柄で揉める事も多かった。正直煩わしい印象が強いですね」


なるほど、と相槌を打つレンさんにも思い当たる節があるようで、そこに否定の色がないことが救いか。


「わかるよ、特に新米に多い傾向だよね。多様な成長を残している時ほど、役割に集中できる精神性を持つことは難しい」


言い得て妙だ、と俺も思った。

魔素適正検査を受けたてで、それを使いたくて仕方がない、というような印象もある。


「まぁ、精神的に成熟しているアイアンランクの冒険者がいないわけでもない。たろー君が望むのであれば、心当たりをいくつかあたってみよう」

「なにからなにまで、いつもありがとうございます」


会話が途切れて、我々は自然に宿に戻った。

帰り道の道すがらで考えることは、ダンジョンのことだけだった。



◇◇◇


ダンジョン開きの噂が上位冒険者だけの話題では無くなってきたころに、レンさんと疾風の面々が二人の冒険者を紹介してくれた。

普段はバディで活動しているというカインさんとセリアさんだ。


「よろしくお願いします、たろーといいます」


「お噂はかねがね。三週間前には稀人が冒険者になった、とギルドの話題で持ちきりでしたよ」

「レンさんが保護された、とは訊いておりましたが、会えて嬉しいです」


長身痩躯のイケメンと、見るからに聖職の美人。

レンさんが保証する人物なのだから当然といえば当然だが、社交性のある爽やかな二人組だな、というのが俺の第一印象ではある。


二人を紹介してくれたレンさんも饒舌だった。

「カイン君とセリアさんは非常に才能溢れているけれど、とても謙虚で勤勉だ。たろー君とも相性が良いと思う」


傍に控えていたラルスさんは肩をすくめて煙草を吸う。

なにか言いたげな表情。なのは珍しいことだ。


「戦闘面においては申し分あるまい。共闘の際には目覚ましい活躍だった」

と、これはゴードンさん。


なるほど、レンさんとゴードンさんのお墨付きであれば、なんの否があろうか。

しかし。


「レンさんとゴードンさんのことは信頼しています、が、これは性分ですので。失礼ですがカインさん、セリアさん。良ければですがダンジョンの前に一緒に依頼をこなして頂けますか」


要はインターン採用、と。

逆も然りである、と俺も心得ている。

俺とグレイスがカインさんとセリアさんのお荷物になる、ことだって充分に考えられるわけで。


「それはもちろんです。寧ろ現状でそこまでの配慮、尊敬いたします」

とはカインさん。


いやはや、面映いことではある。

爽やかイケメンに褒められて、気分が悪くなりようもない。


グレイスだけは機嫌が悪そうに二人を見ていた。



◇◇◇



ルニル平原に立つ三人と一匹。

俺はカインさんとセリアさんと共同依頼に出ている。


平原には珍しく雨が降っている。

夏が近い。

猛暑の京都から転生して四週間快適な気候を過ごしたものだが。


「雨で魔物の気配を探るのが難しい。カインさん、セリアさん問題ないですか?」


雨は体力を奪うし、視界も悪くなる。

今回ダンジョンを想定して魔物の討伐依頼を幾つか受領している。

条件としてはあまり良くない。


「問題ありません」

「私もこの程度であれば」


頼もしい返答に俺は頷く。

グレイスはどうか、と俺は屈んで相棒の頭を撫でる。


気温が上がりはじめてからグレイスはやや元気が無かった。

スノーウルフは夏に弱いらしい。


今日は元気!とグレイスから思念が帰ってきてやや安心する。

雨で気温は少し落ち着いた。

氷狼にとってはいい。


「たろーさんはいつもここまで入念に確認されてから出られるのですか?」


歩き出したときにセリアさんがそう訊いてきた。


「入念ですか?」

「えぇ。我々とグレイス君の確認はもちろん、先ほど土に触れたり、風を読んだりされていました」

「あぁ」


それか、と思いつく部分がある。

特別なことでもない、と俺は思う。


「単に心配症なだけです。不安にさせましたか?」

「いいえ、感心しておりました」


風が強くなってきて、雨脚が横殴りになり始めた。

会話するのも少し億劫になる。


「カインも私もそういった事に細かく気が配れないのです。お恥ずかしい話ですが、強行突破と言いますか」


……あ、なるほど。

なんとなく、レンさんがこの二人を紹介した理由を察した。


「天候や状況はあまり勘案しない、と?」

「しないわけではないですか、ほとんど」


ゴードンさんが戦闘面“は”申し分ない、と言っていた事を思い出した。

ラルスさんが何か言いたげ、にしていた事も。


自ら告白して欠点を認められるのも、謙虚で勤勉である、というレンさんの人物相を覆すものではないが。

俺には俺の、カインさんとセリアさんにはそれぞれ課題があると。

やれやれ。

レンさんの教師癖にはため息がでるな。


グレイスがピクリと何かに反応して、明後日の方を見た。

少し、警戒を促す思念が俺に届く。

雨で索敵範囲が狭まっていることには俺だって気づいている。


「お二人とも、近い様です」


緊迫した空気に二人も短く返事を返すのみ。

すぐにゴブリン二体が茂みから飛び出した。


装備は近接、二体、距離はまだある⸻と瞬時に確認してから水と土の魔素を展開。

俺たちとゴブリンの間の地面が揺れた。

簡易沼、今はまだ雨の日だけの限定的な魔法だが、相手の機動力を奪えれば弓で勝ちだ。


と、考えていた時期が俺にもありました。


「いきます!」


裂帛の気合いを乗せてカインさんが弾丸の速度で突貫した。

あまりの瞬発力に草が弾けて土が抉れる。


距離つめるのぉ!?


数的優位と地形の有利を無視した突貫に、思わず胸中でツッコミせざるを得ない。

しかも、ぐっ!とか言って俺の作った沼に片足ハマり、力づくで脱出した勢いのまま、ゴブリン二体を切り伏せた。


なんだろう、今ものすごく暴力的な解決を見たような。


「やりました!」


と爽やかイケメンスマイルでこちらを振り返るカインさん。


「はっ、はは」


頬がピクピクと動くのを自覚する。

グレイスがため息を、ついたような気がした。



◇◇◇


その後二度の接敵も瞬きの間にカインさんの近接戦闘力でなんなく撃破。

一度カインさんが反撃を受けたが、セリアさんの癒しの魔素で全快。


驚きを隠せない。

転生したての頃、疾風の皆さんに保護された時を思い出す。

ラルスさんの癒しの魔素であっても俺の傷が癒えるのに一晩を要した。


なるほど、この回復力もあるから戸惑わず突っ込めるわけか。


「今日はたろーさんがいるからセリアを守る必要もないので、全力でいけます」


んー……。

俺がいる、という状況をそう取るわけか。

悪くはないのだが。

なんでも自分が解決する、という意図にも見えて少し引っ掛かりを覚えるのも事実だった。


「しかし反撃を受けました。無傷で討伐する術もありそうですが」


結果的に人的リソースは削がれ危険を晒した。

はずだよな?


「そうですね、次はなにもさせずに切り伏せます!」


そして、否定するでもなく、でも伝わっているかどうか定かではない物腰。

⸻これは。


カインさんとセリアさんは意気揚々と次に向けて歩き出した。

が、俺の胸中に広がる不気味な違和感はこの後も拭えないでいた。



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