43 鉄風の嵐
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爆発の余波、耳鳴りが未だ鳴り止まないなか、孤独な籠城戦は続いている。
いつまで続くのか。
アンナとグレイスは、無事ギルドに戻れたのか。
「旦那様!くるで!」
もはやクラマの声も遠く聞こえる。
かなり厳しい。
粉塵爆発と隘路確保が奏功し、なんとか前線を維持しているが、それも時間の問題か。
魔導弓の一矢で複数体を穿つ程の密集。
しかし単発火力だけでは止まらない、引き下がらない。
相手がボーンソルジャーなのもキツい。
正確に髑髏を破壊しなければ、四肢が欠損しようと這い進む。
結果、範囲攻勢の為にクラマを頼る。
クラマの身体が透ける様に魔導弓『綾』に吸い込まれていくと、弓の魔素が増幅する。
炎の鏃がさらに火勢を強め、ダンジョン内に紅い線を引く。
「ぐぅぅ!」
放った俺の方が膝から崩れた。
憑依による強化矢は猛火と言えるほど、その威力に優れているが。
魔素を使い過ぎる……!
多量の魔素消費が強い身体の異常へと反応を示し、立っていることがやっとだ。
マナポーションを飲む。
周る視界が平行を取り戻していくが。
胃から突き上がる強烈な嘔吐感!
「げぇっ!う、うっぷ」
魔素が切れた度にマナポーションを飲んで誤魔化していたからか、既に身体が薬を受け付けないようだ。
涎を垂らし、鼻水を拭うこともせずに弓のつるを引き絞る。
骸骨共はそんなことを勘案してくれるはずもない。
「まだか!まだなんかポンコツメイドは!」
クラマの悲痛な声がする。
視界がぼやける。
再びマナポーションを煽る。
もはやほとんど飲み切れていない。
口からあふれるように溢れて首筋に流れを作る。
「旦那様、それ以上は!死んでまう!」
魔導弓『綾』にクラマが取り憑く。
弓を引き絞る、放つ。
⸻吐く。
……徐々に、骨の前線が進んでいる。
一体、二体とその数を増やして、俺の矢の攻勢をものともしない。
まさしくそれは数の暴力と言える。
一撃で粉砕できる骨の戦士も、万が集まれば。
……よく、耐えた方か……
また、吐いた。
腕が上がらん。
意識を繋いでいるのが精一杯だ。
胃のむかつきが酷い。
動悸も、経験のないほどのリズムを刻んでいる。
死にたくねぇ……
腕を伸ばせば届く程、骨との距離が消えた。
ボーンソルジャーの持つ刃が溢れた剣が、キラリと光った。
◇◇◇
引き延ばされた時間。
死の間際、世界がスローモーションになるっていうあれか。
なんて、俺は意外と冷静に胸に吸い込まれる刃を見ていた。
肉を食い破り身体に刺さる刃の感触。
⸻激痛。
「ぐぅぅうううう!!」
クラマが何かを叫んでいる。
もはや聞こえない。なにも認識できない。
身体はボロボロ、意識は混濁。
それでも意識を繋いでいるのは、胸に走る激痛という矛盾。
トドメを刺そうと再度振りかぶる骨だけが、やけにゆっくりに見えた。
死ぬ⸻
アンナを。
また孤独にしてしまう⸻
「ご主人様に触れるなぁぁあああ!」
衝撃音と、紅い髪を振り乱し大斧を振り抜く魔人の姿。
眼に見えるほどの魔闘を漲らせたメイドの激情の一撃が、骨の塊を吹き飛ばす所を白む視界が捉えた。
たったそれだけで、前が開けた。
アンナ、なのか。
「ご主人様!ご主人様!」
アンナが俺の姿を望むと、後方を振り返った。
視線を動かすと、必死の表情で駆けつけるグレイスと……ラルスさん?
「たろー!」
グレイスが駆け寄り血が溢れる傷口に氷の膜を張ってくれる。
凍結で止血、か。
加えてラルスさんの手が光る。
これは……癒しの魔素か。
胸に広がる温かみ。
急激に失っていく体温を繋ぎ止める、魔素の奇跡。
「ら、ラルス、さ……」
「たろー、話さなくていい!」
アンナがその姿をチラリと見て、眼に紅い怒気を孕ませて突貫を開始した。
大地を蹴る余波だけで、地がひび割れ砂埃が舞う。
右手に魔王城謹製大斧『椿』、左手に俺と共に作った衝撃伝播型斧『波濤』。
その二刀を両手に携える魔人の姿はまさに鬼神。
「クラマ、ご主人様を虐げる不届きものを消し飛ばします」
「メイドはん……手貸すで」
クラマが静かにそう言い、アンナが構える『波濤』に取り憑いた。
薄れる意識の中見える、アンナの戦う姿が俺を繋ぐ。
右手を振るって骨を粉砕し、左手を振るって骨が爆散させる。
一振りするごとに骨が飛び、その衝撃の余波だけで複数体が消し飛んだ。
まさしく鉄の暴風と化したアンナが、その激情を乗せて敵を薙ぎ払っていく。
悲痛な顔だ。
何かに怒り、それを発露できないことを戦闘力に還元しているような。
その勢いは衰えるどころかますます増していき、鬼気迫るものがある。
粉塵爆発の余波と俺が放った強化火矢の猛火が、アンナを囲うように巻かれているようでもある。
迸る闘気にあてられてか、火花が散る。
⸻斧が薙ぐ。
逆立つ紅い髪が揺れる。
⸻斧が薙ぐ。
その一挙手一投足の全てが破壊の意図を込めて、アンナは暴れた。
眼が真っ赤に染まっていた。
「……!ラ、ルス、さん!俺は、いい!ア、ンナを……!」
身体を起こすが自重を支えられず崩れる俺を、抑え込む様に癒しの魔素をねじ込んでくるラルスさん。
くそ、身体がいうことを聞かない!
「なにを言っている!たろー!お前、死にかけ⸻」
「奥にソーサラーが!!」
奮迅の働きをするアンナ。
が、周りの骨を薙ぎ払うも奥からスケルトンソーサラーの魔法が飛来⸻着弾。
「この……程度でぇ!!」
逆上するアンナが三度突貫を開始するも、骨の壁に阻まれてそれも叶わない。
これなんだ。
俺が最初からアンナを単騎突撃させずに撤退を選んだ理由は!
「ア、ンなは……搦手に、弱い、んです!だから!」
俺がいないと!
血だらけでメイド服を真っ赤に染めながら魔人が骨の波を乗り越えていく。
その膂力、その勢いは圧倒的。
しかし無情にも飛来する魔素弾。
⸻を、二本の斧で迎撃した瞬間、骨人がアンナの背にしがみつく。
「グレイス!た、頼む……!アンナを……!アンナを!」
助けてくれ!
全てを言い終える前に相棒が駆け出した。
ダンジョン内に大狼の咆哮が響く。
煌めく青の魔素がアンナに纏わり付く。
途端死角に氷壁が生成されて魔素弾を防いだ。
「おおぉぉぉおおおお!!」
額から流れる血をものともせず、アンナが吠えた。
許さない。
許せるはずもない。
何より主人を死地に置き去りにするしかなかった、自分が許せない!
アンナの覚悟の視線がそう語っている。
グレイスのおかげで被弾は減った。
が、限界ギリギリの駆動で身体から血が滴るほどだ。
血風の斧嵐が白骨の壁を粉砕し、骨の濁流が押し返す。
やはり。
いくらアンナの単体戦闘力が高かろうと。
「……!くそ!」
ラルスさんが癒しの手を緩めず、それでも悔しそうに叫んだ。
その時だった⸻
「⸻待たせたな」
大刀を担ぐ、偉丈夫。
ギルドマスター、ガルドさんが骨に向けて突貫を開始した。
◇◇◇
「各員!先陣を切る魔人を先頭に紡錘陣!戦況判断は任せる!『クロマ』を死なせるなよ!」
「「「「おう!」」」」
レンさんの声がその声量の割に凛と響いた。
間に合って、くれたのか。
「たろーくん、お疲れ様。あとは僕らに任せろ。アンナもグレイスもクラマも……ヘイルニルも、全部救ってみせる」
「レ、んさ……」
応えなくていい、とレンさんは骨の大群を見据えた。
その視線の力強さ、心強さ。
「おらおら!何をサボってやがるテメェら!ヘイルニルの冒険者の力を見せつけろぉ!」
ガルドさんが前線で大刀を奮いつつ飛ばす激も聞こえた。
レンさんが杖を構えた。
それだけで辺りが冷え込む程、魔素が集まっていく。
禍々しくも空間が歪むほどの大質量魔素がレンさんの指示一つで、大きな大きな火球に変わった。
「⸻紅蓮」
呟くような一言を皮切りに、レンさんが杖を骨を指し示した。
ゆっくりと。
しかし徐々に加速しながらその大火球が前進を始め、やがて骨の密集地帯に着弾⸻
すべてをひっくり返すほどの、豪炎。
反撃の狼煙が、今上がった⸻
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