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3 冒険者と、街へ



目が覚めた時に夢を見ていたが、それがどうしても思い出せないという時がある。

先程まで輪郭までも豊かに描写できるほど鮮やかなイメージの中にいたのに、覚醒に至ってはそれが霧散してしまうような感覚。


なにか、重要なことを聞いたような。


それなのにその重要なものを思い出そうとすればするほど、記憶の端から解けて消えていく錯覚。


頬を撫でる感触。

グレイスが俺の頬に鼻を擦り付けていた。

起きた?遊んで?

と思念が飛んでくるのを、俺は頭を撫でることで応えてやる。


テントを出る時には、夢の事などすっかり忘れていた。

心の“ひだ”に何かが引っ掛かる感触だけを残しながら。


◇◇◇



「おや、たろーくん、おはよう。ラルスから聞いたよ。従魔契約したんだってね」

今朝の見張りはレンさんだったようで、既に崩れた篝火を組み直し火を焚べている所だった。

グレイスと俺とを交互に見て微笑む。


「おはようございます、レンさん。おかげさまで。魔素を使うって疲れるんですね。病み上がりみたいです」


レンから手渡されたマグカップを手に取り向かいに座る。

グレイスが膝に顔を乗せて寛いだ。

どうやらそこを定位置と定めたらしい。


「最初は誰もがそういうものだよ。それを飲むといい。魔草の根を煮詰めてある。霧散した魔素を取り込む助けになるはずだ」


飲むと、ややコーヒーっぽい苦味の効いた飲み物だった。

タンポポコーヒー、に近いかもしれない。


「苦いですね」

「ははっ、良薬口に苦し、ってね」


⸻何気ないレンさんの一言だったが、衝撃を受けた。

日本の諺、じゃないのか、それは。


「どうしたの?」


レンさんが不思議そうにこちらを伺う。

グレイスも膝の上でこちらを見上げて心配そうに眺めていた。


「いえ……なんでもありません」


不思議そうに首を傾げるレンさんは、数巡してからまた作業に戻った。

朝食の支度中らしい。


⸻稀人。

レンさんは昨晩、俺をそう言った。

すぐに言葉が出てくる程には稀有な存在なのかもしれない、なんて俺はその時思ったものだが。

こうして日本の言葉を耳にすると希望が鎌首をもたげる。

諺が伝わるくらいには存在するのだろうか。


「レンさん、先程の言葉ですが」

干し肉を切り分けていた所をわざわざ手を止めてこちらを向き直るレンさん。

優しい人だ、とそれだけでわかる所作だ。


「良薬口に苦し、でしたか。その言葉は?」

どこで?というニュアンスを含めて、俺はそこで言葉を切った。


「昔からある言葉だよ?⸻ん、そうか。君の故郷の言葉なのか」


それだけでレンさんは察した様に、俺の疑問に応えてくれた。

本当に。

優しいお方だ。


「たくさんはいないが、それなりに稀人は歴史にも存在するらしいからね。古くから言葉に影響を与えていてもおかしくない」


まるでパズルのピースが一つ、一つと解けていくような、不思議な感覚。

魔素、稀人、そして従魔。

昨日転生したばかりというのに、俺の常識がガラガラと崩れていくのを自覚する。


「今日街に帰るから、気になるのならギルドで聞いてみるといい。あそこには古い文献も所蔵されていたはずだよ」


そしてここにきて、新たに。

ギルド。


俺はいったい、どこに向かっているのだろうか。



◇◇◇


ラルスさんが起床、見回っていたゴードンさんが合流し、朝食を済ませる。

俺は昨晩の顛末で食欲が無かったから、干物を煮詰めた簡易スープだけを啜った。


それでも胃の中が温められた為か、出発するころには手足に力が戻っている。

魔草の根を煮詰めたコーヒーもどきも効いているのかも知れない。


「出発だ。準備は?」

ゴードンさんが誰にもなく問いかけたのに合わせて、ラルスさんとレンさんが音もなく立ち上がった。

それが返事の代わりということだろうか。

俺?

俺の荷物は言廊の石だけだ。ポケットにある。


「一つ、たろー君に注文、なんだけどいいかな?」


歩き出してややあった頃、レンさんがそう尋ねて来た。


「はい、なんでもします。助けて頂きましたし」


君、独特なイントネーションで話すね、と会話の前に一言漏らすレンさん。

「君の世界の訛り、みたいなものなのかな?」


「関西訛りです。お笑い文化に特化した言語です。俺はお笑い苦手ですけど」


そうか、と、とくにそれに言及するわけでもなく、レンさんは話しを続けた。

「君のグレイス君に、頼み事をお願いできないかな?狼系魔獣は鼻が効く。索敵を頼みたいんだ」


「索敵……ですか」

確かに、昨日一人で彷徨っていた時にはあちこちででかい化けもんを見た。

あんなものにいちいち見つかっているようじゃ、移動もままならんか。


「わかりました。グレイス、聞いていたな?頼めるか?」

俺は屈んで足元のグレイスの頭を撫でてやる。

了解、の意図の思念が返ってきた。

鼻がひくひくと何かを嗅ぎだした。

辺りの匂いを嗅ぎ分けているのかもしれない。


「やってくれるみたいです。グレイスが何か気づいたら、俺が伝える、みたいなことでいいですか?」


「かまわないよ。それでいこう」


役割。

それが自然に与えられる事に自然と喜びを覚えた。

俺は社畜だった。

単に金でマンパワーを買われただけの労働力として、人以下の扱いを前世で受けた。


「グレイス、頼んだ」

主人の気合いに当てられて、グレイスも心なしか張り切っているようでもあった。


◇◇◇


先頭がゴードンさん。

次列に俺とレンさん。

最後尾をラルスさんが固めて一同は歩く。


時折グレイスがすんすんと鼻を鳴らす合図で一同は足を止める。

警戒域に入った報せだ。


戦闘になる場合もあったが、グレイスの索敵範囲の広さ、正確さで素人の俺が見ても一方的だった。

今正にゴブリン二体が道を闊歩しているが。


事前に風下にてアンブッシュを選択。

背後を取るまで通り過ぎるのを待ち、虚を突く形で背面に一刀。


ゴードンさんの豪快な一太刀と、ラルスさんの正確な刃がゴブリンを貫きあっけなく戦闘は終結した。


昨日の恐怖はなんだったのか、という虚無感や恥ずかしさやら。

とはいえプロの仕事に感嘆やらなんやらで複雑な俺である。


「たろー君もグレイス君がいてくれたから、楽が出来たよ。ありがとう」


「いえ、俺はなにも」


「従魔の手柄は主人の手柄、さ。誇っていい」


足に擦り付くグレイスが褒めて褒めて!と思念を飛ばしてくるから、俺はレンさんを見た。

何も言わずに、くすくすと笑いながらバックパックから干し肉を取り出し手渡してくれる。


「グレイス、よくやった。お疲れ様。この後も頼むな」


ガツガツと肉を頬張りながらグレイスの思念が踊る様である。

喜色の帯びたそれを眺めつつも、俺はレンさんに向き直った。


「何度か戦闘になりましたが、いつもこんな頻度で行うんですか?」

レンさんは水分補給用の水筒に魔素を込めて(いるらしい)水を満たしながら応えてくれる。


「今回は多いね。索敵が優秀だから、先手を取れているのが大きい。普段はもっと慎重になる。生命と天秤にかけて利益を取らなければ、割りにあわない」


一瞬だけ、鋭い眼光になった所を俺は見逃さなかった。

プロの目線。


「それにゴブリンはできる限り討伐推奨だからね。取れる素材は皆無だが、ギルドの報酬はうまい」


もう少し協力してもらうよ、とレンさん。


「なぜ推奨されて?」


「ん?あぁ、ゴブリンね。ほっとくと群れる、増える、構える、の三段構えだからさ」


数を成し、居を構える、か?

確かに、厄介だ。

そこはゴブリンのイメージ通りとも言えた。


「単体での脅威はそこまででもないからね、今回の様に有利態勢が取れれば積極的に狩っているよ」


「つまらん仕事だがな」


ラルスさんがレンさんの言葉をぴしゃりと遮る形で、移動は再開された。

街は近い。



◇◇◇


道すがら、ラルスさんに貰った煙草を吹かしながらレンさんがこの世界のことを教えてくれた。

世界の成り立ちや、魔素のこと。


ほとんどが聞き馴染みのない知らない単語ばかりであったが、それはそれで純粋に楽しめた。

初めてファンタジー小説を読んだ時に似ている。

『アズカバンの囚人』までは読んだことを覚えている。


「⸻そしてヘイルウィル大陸南西で貿易の要となっている街……前方に見えてきた魔装都市ヘイルニルだ」


「私たちのホームでもある」


「ガッハッハ、今回は思わぬ長旅になったな。四日振りか?」


レンさんの紹介に合わせてラルスさんとゴードンさんも合いの手を入れた。

多少、プロの冒険者とて緩む所があるのだろうか。

確かに、景色に望む街の壮観さを言えば。


「すっごいな……」


語彙を失う、とはこういう時に使うものだろうか。

単純な賞賛。

時に人は、感動で言葉を失うものだと、俺ははじめて知った。


「すごいだろ?歴史も深い。魔導知識では大陸内で類を見ない発展を遂げている」


道すがらに聞いた、基礎知識の中にそれはあった。

魔導。

素人解釈で要約すると、魔素を科学すること、だと認識していたが。


「あの剥き出しになったゼンマイ?ギア?っぽいものとかがそうなんですか?」


「あぁ、そうだよ。火の魔素で空気を温め圧力を生み出しゼンマイを回している、らしいね」


思っていた以上の発展を目の当たりにして俺の異世界観がまたもや音をたてて崩れ去る。

もっと中世ヨーロッパのような牧歌的なイメージを勝手に想像していたものだが。


「すげぇ」


思わぬスチームパンクの世界観がぶち込まれて頭がごちゃつくなかで、俺は再度単純な感嘆しか言えないでいた。


街の門が、見えてきた。



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