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4 魔装都市ヘイルニル



門の向こうに広がっていたのは、黄金色に輝く「知恵の街」だった。


尖塔が並ぶ美しい街並みを、無数の銅パイプが血管のように繋いでいる。そのパイプは時折、生き物のように震えては、白い蒸気を噴水のように吹き上げていた。


見上げれば、巨大な時計塔の裏側で、建物一つ分はありそうな木の歯車が「コト、コト」と牧歌的な音を立てて噛み合っている。


石造りのテラスで優雅に茶を啜る貴婦人の横を、煤けた作業着の技師が油差しを片手に走り抜けていく。


ファンタジーとスチームパンクを内混ぜにしたような混沌。

煤とオイルの匂いに混じって、どこからか焼きたてのパンの香りが漂ってくる。


鉄臭いのに、どこか温かい。

俺の知っているファンタジー世界の全てにない、泥臭くて美しい「生きている街」がそこにあった。


「驚いたかい?」


レンさんの声は半分、俺には届かない。

どこかでシューと蒸気の漏れる音が聞こえる。

グレイスがクンクンと何かを嗅ぐ。


「正直、かなり。もっと牧歌的なイメージを勝手に持っていましたが」


突如としてガタンガタンと大きな音を立てて線路に列車が走った。

蒸気機関車。はじめて見た。

鉄の擦れる甲高い音と、木が軋む音に混じって貨物の揺れが伝わってくる。


行き交う人々には活気が溢れていた。

怒声、喝采、誰かが誰かに喧嘩を売る声。


「すげぇ」

「惚けてないで行くぞ」


ラルスさんが先導する横に小走りで近寄る。

「まずはギルドだ。お前の報告もある。身の振り方は、その後考えればいい」

「身の振り方?」


ラルスさんがふっーと煙を吐くと、蒸気の匂いに混じって消えた。

鐘の音。

チンッと甲高い音が、何かの拍子で響く。



◇◇◇


木製造りの建物に鋼のパイプで魔改造したような、歪な建物が見えた。

剥き出しになったゼンマイが縦に大きく伸びており、風車に繋がっている。


「風と魔素の両輪で回して中の昇降機を動かしている」

なんてゴードンさんの説明を受けながら惚けた顔で見上げる。

ここが、ギルド。


「おかえりなさい疾風の皆様、お久しぶりですね?」

中に入ると、そんな言葉で迎え入れられた。


煙草と酒と油の臭いが入り混じり、不可思議な活気を醸し出している。

グレイスが右方に剥き出しになっている機械に釘付けになっている。

あれは⸻扇風機、なのか?


「ただいま、ギルマスはいるかい?」

レンさんが受付嬢らしき人と話す間、俺は不安な気持ちで待っている事しか出来ない。

品定めをするような視線と、下卑た笑い声。

おおよそ冒険者ギルドらしいイメージ通りの活気。


「稀人を保護した。確か稀人を厚遇する制度があったはずだよね?ギルマスにその事で話がしたい」


稀人、という単語が出ただけで、受付嬢らしき人は緊張の度合いを一段上げたようである。

足早に奥にかけていき、やがて大柄な男を連れて戻ってきた。


「稀人だって?……んぁ、こいつがそうか」

歳の頃は30代後半か、口髭に筋肉質な体躯。

冒険者上がりのギルドマスター、なんて役職がわかりやすく相応しい風貌。


「俺ぁガルドっていう。冒険者ギルド、ヘイルニル支部のギルドマスターだ。よろしく」


差し出された手の、戦いの痕跡を見て俺はギョッとした。

細かな傷、ささくれだった指、分厚い皮膚にはマメが大量にある。


「たろー、と言います。ラルスさん、レンさん、ゴードンさんに保護されました。このスノーウルフはグレイス。従魔契約は済んでいます」


自己紹介をしようにも、この世界に来て浅い俺のことなどそれぐらいで語り尽くせてしまう。


そんな強張る俺の肩を、ガルドさんがバシバシと叩いた。


「ガッハッハ!そうしゃちこばんなって!取って食いやしねぇよ。ギルドは稀人保護には熱い組織だ。疾風の連中からも聞いてるんだろ?」


“疾風”。

ラルスさん率いる冒険者パーティの名前だ。


「身元確認に、魔素適正検査。あとは、必要なら冒険者登録もか。全部タダだ。安心しろ」


目の前にレールがあったとして、トリガーは引かれてしまったのか。

車輪は動き出している。

俺をどこに運ぶかは定かではないが。


「俺は、冒険者に、なるんですか?」

「あ?……んぁ、別に強制はしねえよ。ただ身元もねぇ稀人が稼いでいくには冒険者ぐらいが丁度いい。それとも何か?お前、たろーつったか、何か手に職でもあるのか?」


ガルドさんの言葉に霹靂を覚える。

そうだ、今まではただ助かることだけに必死だったが。

俺はこの異世界で生活をしていかなければならないのだ。

そんな当たり前の事に今気づく自分の間抜けさに笑ってしまう。


「特に手に職はないです。職能もありません。冒険者になるしかない、なら受け入れますが」

「なんだぁ、お前、めんどい考えだな」


ガルドさんが豪快に笑う姿に、レンさんが肩をすくめた。

見ていられなかったのか、助け舟を出してくれる。


「たろー君、とりあえず冒険者登録をするだけでもいい。ギルドの発行する身元保証もつく。魔素適正がわかれば他の職だって探しやすいだろう。どうかな?」


なるほど。

要は免許証の発行だけして、運転するかどうかは自分で決めろ、と。


ラルスさんも助言をくれる。

「ギルドに加入するだけで恩恵もある。仕事の斡旋も、なにも荒事ばかりでもない。そう身構えずともいい」

吸うか?と台詞と同時に煙草を差し出すラルスさん。

落ち着け、とそういうことだろうか。


冒険者。

冒険者か。

ファンタジー世界ではお決まりの職務だが、俺に務まるのかどうか。

グレイスが心配そうに足にまとわりついた。

その頭を安心させるために撫でてやる。

そうだ、俺にはこの狼を託された責務がある。


「⸻やります」


覚悟を決めた俺の一言に、一同は破顔した。


「いや、よく決断したよたろー君」

「決まりだな!こっちこいたろー!今すぐ手続きするからちょっと待ってろ」


慌ただしく、運命の歯車がゴトリと回った気がした。

街の雰囲気に後押しされたそんなイメージが、俺の中にはあった。



◇◇◇


「⸻んで、これが冒険者カードっと」

ガルドさん自らさまざまな手続きを行なってくれた。

ギルドマスター直々の対応などとは、恐れ入る。


「月の日と金の日にはビギナー向けの講習や訓練もやってる。それはあとで案内してやるとして……最後はこれか」


月の日、金の日、とまた知らない単語が出たが、これは単に週の曜日のことではあるまいか、と俺は仮説だてた。

まぁこれも後に聞けばいい瑣末なことか。


「これは?」


目の前のテーブルに置かれたハンドボール程の水晶に、それに連なる原始的な機械。

これは……何かの測定装置、のようなものだろうか。


「魔素適正検査機だな。お前の魔素適正が顕になる」


ガルドさんが手慣れた手つきで水晶に触れる。

すると水晶が赤と黄色のマーブル柄に光った。

ハンターハンターにこんなのあったな。

特質系の能力でオリジナル念能力とか考えたっけ。


「赤と黄は炎と雷の適正だな。俺ぁその二つの複合適正って事だ」


なるほど、実践して見せてくれてすぐにイメージがついた。

水晶の光る色に対応した適正がわかる、という代物らしい。


「別に適正以外が扱えないわけでもないから、気軽にやればいいよ。得意分野がわかるってぐらいさ」

レンさんが優しい声色で捕捉してくれる。

その優しさがありがたい。


息を吸う。

吐く。

適正検査、か。


思えば、前の世界で適正、なんて言葉を意識したことはなかった。

ブラック企業ではマンパワーとして使われていたし、困ったことがあれば活動量で誤魔化していた。


変われる、かもしれない。

自分が何者か。

何者になるのか。


それを知る手掛かりがあることの僥倖とは、こんなにも明るい瞬きを発するものなのだろうか。


異世界転生二日目。

俺は今日、冒険者になる。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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たろーの魔素適正は!?


よろしくお願いいたします!

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