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34 妖狐

34


出口が近い。

しかしこのまま出ていいものか、考えあぐねている。

俺の右肩に、幽霊。


狐耳、狐尾のゴーストがいる。


先の戦闘で、有用性は示した。

武器に憑依する、という唯一のバフ能力。

グレイスには無い魔素探知能力。


どれもが垂涎のものであることには変わりないのだが、そのどれもが惜しい、というか。

パーティ構成が死ぬ、とでも言うべきか。


「そもそも、俺は火力担当じゃあない。魔素量は少ないし、適性もサポートや場を整える役向きだ」


ゴーストのバフの威力は素直に凄かった。

が、あのまま俺が連戦していれば、あと二回を数えずにガス欠通り越して魔素枯渇で死んでいただろう。

そういう意味合いで、惜しい。


平時に置いては普通の『綾』の方が使いやすいまである。

ならいっそ切り札と割り切ってしまうのもありだが。


「アンナの大斧に憑依はできないのか?」


それであれば、アンナの火力増と負担減の両方を担える。

死に筋はない。


⸻が。

「嫌や」

と、こうである。


「ウチは旦那様の妖狐や。あんなポンコツメイドに使われるんはごめんやな」


アンナの目が怒気に満ちていく。

怒気でドキドキ!

……すまん、忘れてくれ。


「ご主人様、私も結構ですわ。そもそも私は『クロマ』のメイドにして剣。そこの女狐のサポートなど必要としませんわ」


これも、悩みの一つ。

既存メンバーとの相性は最悪。

編成を考える身としては頭が痛い問題だな。


「憑依以外にできることはないのか?」


「基本的には壁をすり抜けたり、魔素の澱みを察知したり、おおよそアストラル系ができることはできるで」


それは⸻かなり好材料だな。

俺たちがこれから挑まんとする『遺跡』には罠や搦手が多いダンジョンだ。

事前にそれが潰せるのであれば、かなりありがたい。


「他には?」


「サービスはここまで、やな。あとは名前で呼んでくれたら、たっぷり教えてあ・げ・る♡」


ぶちん!と何かが切れる音がした。

アンナだった。


「こんの女狐ぇぇえええ!!」


鬼気迫るメイドと、呆れるグレイスの図。

阿鼻叫喚ここに極まれり、だなぁ。


あ、なるほど。

変態モードアンナの牽制には良さそうか。


「どうや?名前をくれる気になったか?くれたら夜の相手もやぶさかやないで?♡」


もとからはだけた和装をさらに乱して、ゴーストがウインクした。

お前霊体だろ、ツッコミを入れる前にアンナが突貫した。


あっかん。

火に油注ぐとはこのことだな。


「……俺としては、従魔契約もありかな、と思っている。現状は噛み合わなくても、伸び代は期待できる。どうだ?アンナ?」


「断固反対です!こんな色ボケ女狐をご主人様の側に置くなど『クロマ』の品位が疑われてしまいます!」


「……だそうだ。グレイスは?」


どっちでもいい!と半ば諦めたような思念。

気持ちはわかるぜ、相棒。


出揃ったかな。


「わかった。契約をしよう」


「ご主人様!?」


アンナがピョンピョン飛び跳ねて反対の意を表明する。

む、かわいいな。


「アンナ、お前は俺の筆頭メイドだろう。そんなお前が従魔が一人や二人増えたところで狼狽えてどうする」


わかりやすくアンナの頭上に閃き稲妻が落ちた。

見た目は子供、頭脳は大人!な子供探偵の推理みたいな、あれ。


「ひ、筆頭メイド……!」


んふ♡んほぉ♡とアンナがビクビクと痙攣しながら悶え始めた。

よし、説得完了、と。

ふっ、チョロいな。


さて、と。


俺はゴーストに向き直り問いかける。


「まだお互い事を知っていないが、従魔契約が成れば俺の命令を聞くことになるが、本当にいいんだな?」


「そんなわかりきったこと聞くやなんて、兄さんは律儀やなぁ。わかってる。大丈夫や」


なら、何も言うまい。

眼を閉じ心臓の奥で脈打つ魔素を意識する。


「今からお前の名前は……『クラマ』だ」


言葉が早いか、俺の中心から魂の導線がゴーストに伸びて繋がった。

魔素が魂の在りようを変えていく。


直感的に受け入れられた、と俺は感じた。

⸻契約完了か。


「クラマかぁ、ええ名前や。よろしゅうな、旦那様♡」



◇◇◇


ギルドに戻ると数組のパーティがカウンターに詰めていた。

混んでいるわけでは無い。

その全てが同じ依頼を受けた冒険者である。


「おぅ!帰ったかたろー!他のパーティも続々帰還しているから、早速聞かせてくれや」


ガルドさん自ら報告を聞いてくれるらしい。

ありがたいことだが、依頼以上に伝えなければいけない要件がありすぎて、すこし申し訳なさが浮かぶ。


「出来れば、疾風の皆様とご一緒に報告したいんですが。どうですか?」


あぁ?と多少の忙しさからか、苛立ちを隠せないガルドさんの返事。

だが俺の顔を見て何かを察して、すぐに奥の部屋に案内してくれた。

本当にガルドさんのこういう所には助けられるな。


「⸻で、聞こうじゃねえか。今度はどんなハプニングを持って帰って来たんだ?」


可笑しそうにニヤニヤしながらそう尋ねるガルドさん。

失敬な。人を問題児みたいに。

……とは否定できねぇな。


「まず、依頼は問題なく。先に話したいことが長くなるのであとで紙にまとめてでも提出します」


解放予定のダンジョン『魔鉱』のテストプレイ及びデバック作業。

それ自体はつつがなく終えた。


「では、ガルドさん、疾風の皆様。“見えますか?聞こえますか?”」


俺の不可思議な問いかけに、一同は示し合わせたように首を傾げた。

が、一人だけ。


レンさんだけが何かを察して魔闘で目に魔素を集めて、虚空を凝視した。


「……また、やっかいなものを持ち帰ったねぇ、たろーくん」


と、なかば諦める様な、そんな言葉。

倣うようにガルドさんやラルスさん、ゴードンさんも目に魔闘を展開し、等しく驚愕した。


「ゴースト……」


「たろー、お前はダンジョンに入れば人外を連れ帰る癖でもあるんか?」


レンさんに続き、一同の呆れる様な視線。

俺だってやりたくて連れ帰ってるわけじゃないんですよぉ!



「⸻と、いうことがありまして」


『魔鉱』で起こった一部始終を説明し終えると、再び一同の目線がクラマに集まった。


「みなさんどうもぉ。この度旦那様の従魔になりましたクラマいいます。以後よろしゅうに」


狐耳に黒髪の和装美人が会釈を返す。

何度見返しても、透けている、浮いている。

その事実がクラマの存在を人外だと示していた。


「ゴースト……アストラル系の魔物、だね。精霊に近いのかな」

とは、レンさん。

早速クラマを観察して考察するあたり流石、か。


「しかしゴーストは死後の念から従魔契約が一番難しい存在だぞ」

とはゴードンさん。

ちゃっかりグレイスを膝の上に乗せ撫でているのは、ブレないというかなんというか。


「アンナの時と同様、前例がないわけじゃあねえがなぁ。しかし、たまげたぜ」


ガルドさんが唸る様に言う。

お、これは許される流れ、なのか?


「そこはアンナの時と同様の動機で、俺の異世界転生がキーとなっているらしいです。だよな?クラマ?」


「せやで。旦那様はウチを解放してくれた運命のお人なんやぁ♡」


しなだれかかるクラマにアンナが燃え上がった。


その場にいた全員が思った。

ヤバい、と。


「ご主人様!やはりアンナは納得がいきませんわ!こんな女狐、ダンジョンに放してしまいましょう!」


その場にいた全員が思った。

あ、やっぱり、と。


「しかしパーティメンバー拡充が課題だったとは言え、ダンジョンで見つけてくるたぁなぁ」


「たろーくんらしいと言えばらしいけど」


ガルドさんとレンさんが顔を見合わせて頷き合っている。

どんどん俺が変人扱いされていくな。

主にアンナとクラマのせいや。


「なんや旦那様、えらい慕われてはるんやなぁ。ウチはええ人に名前をもろたんやねぇ」


クラマの言葉にいちいちアンナがギッタンバッコンと暴れていた。

それを羽交締めでどうどうと抑えるラルスさん。

アンナ、その手に召喚した大斧魔王城謹製のやつやろ……

ギルドごと壊れるて……


「とにかく、今回もまぁ、俺の名前で……クラマっつったか?そこの妖狐の存在を保証する布告をだしてやらぁ。貸しだぞ?たろー」


面倒見のいいガルドさんのことだ。

その貸しだって大したものを要求しないことは明白である。

その暗な気遣いに俺は感謝を示す為に頭を下げる。


「すみません、ガルドさん。恩に着ます」


いいってことよ!なんて。

鼻を擦りながら答えるギルドマスターの、なんたる頼りになることか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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