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32 魔導弓

32



「まぁでもマナポーションを作る練習にもなるから、バンバン使ってどんどん作る、って行動が明確になりました」


『遺跡』までにいい目標ができた。


「いいね、後は練習する場所だけれど、冬じゃ無ければルニル平原がいいんだけどねぇ」


あそこは常に風の魔素に満ちている、と付け加えるレンさん。

「最初に練習するのなら単一属性で慣れてからの方がいい。動く獲物にも事欠かないしね」


五分も歩けば、何かしらの魔獣、魔物、その類に出会う。

転生したての頃はそれで死にかけたな。


「冬は……単純に寒いからねぇ。雪や霜霧で視界も悪くなる。あんまり良い環境とは言えないかなぁ」


と、そんなことを話しているとラルスさんが話しに加わってきた。

なんか、さっきのレンさんの発言で変に意識、するな。


「近いうちに『魔鉱』が解禁されるのだろう。そこではダメなのか?」


あぁ、そうだ。

ガルドさんに呼び出された時にあった依頼。

初心者向けダンジョン『魔鉱』が試金石兼練習場ならば、稼ぎもできて一石二鳥か。

アンナが獲物をバラバラにすることもないし。


「しかしダンジョンならばまた別の問題もでるな」

「そうだね」


なんて疾風のお二人が話しを進める。

なんとなく、俺はついていけない。


「たろーくんが魔導弓に集中して練習するなら、今まで場を整える役目をしていた席があくよね」


あ……まぁ確かにそうだ。

結局、パーティメンバー拡充は必須になる訳だな。

近道はない、と。


レンさんが朗らかに言う。

「まぁ比較的『魔鉱』の上層なら危険度も低い。練習しながら、パーティ運用の練度をあげつつでいいんじゃないかな?」


ラルスさんもその言葉に頷いた。

「緊急時にはアンナもいることだしな。最悪アンナが全開で戦えば、『魔鉱』の上層では敵はおらんだろう」


実際アンナ無双で俺は魔王城を脱出したわけだし、今はグレイスも成長した。

ちょくちょく今あるもので工夫しながら、今ないものも探し続ける。


方針は決まったかな。

よし、『魔鉱』でレベルアップといこうか。



◇◇◇


ぴちゃり、ぴちゃりという滴る水の音。

魔獣の咆哮が洞窟に反響する。

何層にも重なるその声は、反響音となることでどこからもたらされたのかはわからない。

声に合わせてグレイスが警戒を示した。


俺たちは『魔鉱』に来ている。

あれから程なくして正式にギルドから依頼の通達があった。


冬であることを見れば随分とマシだが、それでも寒さを感じるのは怖気からくるものか。

いちいち五感を煽る舞台装置がこれでもかというぐらい揃ってるな。

どこからか視線を感じるのは勘違いだと思いたいが。


「アンナ、問題ないか?」


「はい。魔素は濃いですが、どこか懐かしい感じです。特に異常は見当たりません」


アンナは『魔鉱』に繋がった魔王城で五十年も過ごした。

懐かしむ感覚も致し方あるまい。


「グレイス、索敵頼むな」


景気良く「ワォン」と鳴くグレイス。

相棒の存在はパーティを明るくするな。


俺はと言えば背嚢にカンテラを吊り下げ、手には魔導弓『綾』が。

今回の依頼はダンジョン内の確認。

ブロンズランクになりたての俺は俺なりの所感を集めればいい。


すっと、グレイスが姿勢を低くした。

敵を感知した時の所作だ。

自然と俺とアンナが身構えることで返答する。


クンクンと鼻を鳴らしつつ、魔物の痕跡を探すグレイスの後に続く。

カンテラの灯りで視界は悪い。

それでも今回は積極的に敵を狩っていく方針は伝えてある。


出てきたのは⸻


「ゴブリン!二体です」


アンナが警戒を示す声が響いた。

いつもならここでグレイスが釣り上げ俺が阻害。

アンナの超火力でフィニッシュ、となるわけだが。


グレイスが低く吠えて氷の魔素を展開する。

ダンジョン内に満ちる魔素が干渉しあい、氷の魔素が展開される。

生み出されたのは低いながら現れる氷壁だが『クロマ』とゴブリンを分つには充分だった。


よし。

これで時間は稼げたな。


と、俺は手に持つ『綾』に魔素を充填を始めた。

魔闘の要領で魔導弓を包むと、鈍い光を放って明滅する。


役目を終えたグレイスには辺りを警戒を。

後続の痕跡を探すが……今回はないか。


であれば目の前に集中するだけだ。

俺は弓をしならせつるを引き絞る。


魔法、魔闘、魔導の三重同時タスクに、脳負荷から鼻血が垂れる。

脳が痺れて動悸が早くなる。

外すか⸻?いや、いく。


魔素が干渉し、放電を繰り返す稲妻の矢が生成された。


ぶっつけ本番でもないが、何度見てもすごい光景だ。

耳の横で鳴るバチバチという雷撃音が、今俺の指から放たれた!


糸を引く流星の様な飛矢⸻が思い描いた射線をなぞり、吸い込まれるようにゴブリンの額へ。


脳内で描く流線形を魔素が補完する形でエイムが完結する。

なんだこれは。

すげぇ!便利過ぎないか!?


俺の初心者弓術でも一発目からヘッドショット?

チートだろこれ!


「流石ですわ!」

とアンナの声が重なり前衛へ向けて突貫していく。

グレイスが展開した氷壁はあらかた壊され、残ったゴブリンが前進を開始した所を、アンナの大斧での粉砕が重なった。


⸻飛び散る肉片に、しかし惚ける俺。

ラルスさんはとんでもないものをくれた物だ。


決して自分の力ではない、と自覚しながら高揚するのを抑えられない。

魔素の減衰は……軽微。

だが、その他の脳負荷が凄いな。


いつのまにか手には汗が握られていた。


◇◇◇


その後も幾度か戦闘を重ねたが、順調の一言に尽きる。

先制できるのがでかいな。

グレイスの索敵から、今までは有利体勢の形勢でそのリソースを使用していたが、今はそれをダイレクトな攻撃で消費できる。


戦闘開始即頭数を減らせるのはアンナの負荷削減にも一役買っていると言っていい。


もちろん、難易度の低い『魔鉱』上層に限っていえば、とそれまでだが、それでも。


戦闘時間の軽減は魔素節約以外にも精神的負荷の軽減にも繋がった。


俺はレンさん謹製の自作マナポーションを飲みながら、武器の一振りでこんなにも景色が違うものかと驚きを隠せない。


「アンナ、どれくらい潜った?」

「上層の三分の一、と言う所でしょうか」


そんなにも、と驚きが重なる。

いつもならガス欠が心配になりそうになる程には、戦闘を繰り返したものだが。

マナポーション。

最適なアイテムだ。


加えて魔草煙草を咥えて火をつける。

胃の底から湧き上がる熱が、煙によって四肢に散っていく感覚。

この相乗効果もすごいな。

レンさん、もっと早く教えて欲しかったです……


「しかし、そろそろ引き返すか。上手くいっている時こそ慎重に、だ」


カンテラを確認すると油の補充が必要な程、か。

二時間は篭ったことになる。

判断は今だな。


と、カンテラに油を補充をしようとアンナとグレイスに警戒を頼んだ時に、一瞬違和感を感じた。


⸻視線。

ダンジョンに入ってから、見られている。


「アンナ、感じるか?」


と確認するも、アンナは首を傾げた。

グレイスは……反応していない。

俺の勘違いか?

いや……でも。


念の為にグレイスに索敵を頼むが、やはり反応はなし。

匂いでは……ない?

なら魔素的な何か、なのか。


残念ながら俺のパーティには魔素探知に優れるメンバーはいない。

しかし拭いきれぬ違和感が喉元まで来ている。



「⸻気づはりましたんやなぁ」



瞬間、空気が震える様な、声。

辺りを見渡すが、魔物の気配はなし。

なんだこれは。


「あぁ、ちゃんと聞こえてはる。わかるんやねぇ……ウチが」


私が⸻わかる?

なんだ?

第六感的な存在、なのか?


「アンナ!?」

「聞こえます!が、見えません!感じません!」


グレイスを見ると警戒を示してはいるが、姿を捉えてないような、不可思議な表情。

冷や汗が垂れる。


ひた、ひた、と何かの歩く音はするのに、その方向には何者もいない、視覚と聴覚の誤差に頭がおかしくなりそうだ。


「誰だ!」


会話が可能な相手と踏んで、俺は声を荒げた。

言葉を発することができるのであれば、対話は可能、なのか。


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