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31 色彩

31



「命名」


俺の言葉に、一同は黙った。

俺は皆の期待を煽るために溜める。

溜めに溜める。

みのもんたばりに溜める。


「俺たちはこれから『クロマ』だ」


ざわつき、驚き、疑問に変わる。

そうだよな。

この世界にはない言葉、という可能性もあった。


「俺の世界でいう“色彩”の事です。彩度、はわかりますか?色の鮮やかさを表す度合いです」


誰かが「さいど……」と復唱した。

これも概念的には伝わりづらいかな?

と思っていたらレンさんが頷いてくれた。

流石、頼りになる。


「つまり色の明るさ暗さの事だね。たろーくんの魔素適正“混ざる黒”とも響きあう。察するに鮮やかな紅がアンナさん、灰がかった白がグレイス。……そういうことかな」


御名答、と俺は満足して頷く。

解説訳がいると解釈が捗っていい。


「流石ですわご主人様!『クロマ』!素晴らしい名前です!」


「ワォン!」


アンナとグレイスも寿いでくれる。

二人が気に入ったなら、一応は外してないかな。


「俺達の色は混ざり合って黒になる。それぞれのクロマが最大限に発揮できれば、俺が混ぜてみせる」


そんな、意味を込めて。

なんて、少し飾ったらしいかな。

言ってて恥ずかしくなってきた。


俺は赤面を隠す為にそっぽむいて煙草に火を付けた。


「押忍!魁!たろー塾!……」

「モッフモフは可愛いな!……」


それはもう良いって。


◇◇◇


「さて!改めて『クロマ』のリーダーたろーくん。まずはブロンズランク昇格おめでとう!」


レンさんが改めて祝ってくれて、ようやく思い出した!

命名のなんやかんやですっかり忘れてた。

俺ブロンズランクに昇格したんだった。


アンナもハッとしたように眼を見開き⸻次の瞬間、俺に抱きついた。


「わ、私としたことが!パーティネームの件ですっかり忘れておりましたわ!おめでとうございます、ご主人様!」


胸元で見上げる爆乳美人メイドの潤んだ瞳の破壊力たるや……

あかん、何言うてるんや俺。


レンさんが嬉しそうに続ける。

「君がギルドに呼び出された、と聞いてたろーハウスに詰めていたんだ。本当におめでとうたろーくん」


ラルスさんも微笑みながら言ってくれた。

「まぁ、たろーならいつかは、とは思っていたがな。それでもおめでとう。自分のことのように嬉しい」


「おめでとう、たろー。流石はグレイスの主人」

ゴードンさんだけ、主語変わってないか?


グレイスも尻尾をパタパタと震わせてゴードンさんに撫でられている。

たろー、ありがとう!と思念が飛んできて、思わず涙ぐんでしまう。


「ありがとうございます。ありがとう、アンナ、グレイス。皆様のおかげです。本当にありがとうございます」


日本人気質炸裂でお礼連発は照れ隠しである。

まいった。人から祝われる時の方が嬉しいとは。


「細やかながらお祝いの品も用意したんだ。受け取って欲しい」

と、レンさんは紙の束を手渡してくれた。

なんだ、これは?

なにかのレシピ?


「マナポーションのレシピ、だね。ダンジョンで魔素切れ改善に、と思って。たろーくんが愛飲する魔草煙草と相乗効果を発揮する調合にしたつもりだよ」


レシピには注釈がびっしり書き込まれていて、初心者の俺にもわかりやすくしてくれているのが伝わる。

っていうかゴールドランク冒険者レンさんの注釈入りレシピとか、何気に冒険者垂涎の物なんじゃ?


「後で一緒に作ろう」

と、レンさんのレクチャー込み。

何から何まで、本当ありがたい。


「私からはこれだ」

そう言ってラルスさんが手渡してくれたのは、弓。

ん。魔素を感じるな。

特殊な弓には違いないだろうが。


「火力がアンナしかない、しかも物理火力一辺倒だと話していたろう。それでな。魔古樹トレントの木を削り出して作ってもらった。ブルザーグ氏の作品だぞ」


ブルザーグさんまで噛んでいるのか!


「魔素効率がいいだけでなく、放つ魔素を増幅してくれる魔導弓だな。“混ざる黒”の魔素適正をもつたろーならば

対応の幅も広がるだろう。アストラル系にも有効だ」


魔素を打ち出す魔導弓、か。

しかも少ない魔素を増幅してくれるとは。

俺にうってつけじゃないか。


「銘もブルザーグ氏から授かっている。『綾』。つまり綾なす系の重なり、衣類の色のことだな」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


アンナの『波濤』に続き、『綾』とは。

ブルザーグさんはそこはかとなく日本名のセンスが良いな。

さりげなく俺達の課題に配慮された、心の籠った良い品だ。


ゴードンさんが一歩前に出た。

お、ゴードンさんも用意してくれたのか。

これは期待が高まるな。


「俺からは、これだ」


ん?

……櫛?


「これでグレイスの毛並みを整えてやってくれ」


……

…………

………………

いや、良い物だけれど。


なんかこう、さぁ。

俺のワクワクを返して欲しいというか、なんというか。

いただく手前なんとも言えないが。


受け取り早速グレイスの毛並みを漉いてやると、気持ちよさそうに眼を細めて喉の奥を鳴らした。

まぁ、グレイスが喜んでくれているのならいいか。


こうなればアンナにもなにかほしいな。

それは俺が用意するか。


「皆さん、改めてありがとうございます。一層励みますのでこれからも『クロマ』をよろしくお願いします!」


俺の一言で一同が拍手してくれた。

本当に人に恵まれたな。


恩返しは俺が活躍すること、だな。

『クロマ』がこれからどんな色に混ざるかは、俺次第。

⸻楽しみだ。



◇◇◇


「しかし、すぐに試せないのが惜しいよなぁ。魔導弓、使ってみたいが」


なんてレンさんにマナポーションの作成をレクチャーを受けながら独り言が漏れる。

レンさんもクスクスと笑う。


「新装備のワクワクは冒険者ならではだよね。わかるよ」


子供っぽい、と一笑で終わらすのではなく共感もしてくれるのが心地いい。


「地下室でならどうですかね?」


「んー、地下は魔素展開に集中が必要だから、まずは基礎的な使い方を学ぶ方がいいと思うよ。たろーくん魔法術はともかく、魔闘術はそれほどだろう?」


魔法は文字通り魔素を顕現させること。

魔闘術は魔素を纏って身体能力を上げたり、武器に纏わせて性能をあげる、のだったか。


「魔導弓は性質上、魔導具の側面も大きいしね」


魔導術とは、要は魔素を科学することだな。

魔素を込めると火がでる、魔導ライターで俺は煙草に火を付けた。

それらを用いたアイテム全般を魔導具と呼ぶ。


「魔法、魔導、魔闘の全てを使うってことですか?」


「そこまで難しいものでもないけど、まぁ大枠はあってる。たろーくんは後天的に魔闘を覚えたけれど、この世界の人たちは大体感覚的にできるものだから」


おぉ、こりゃあ大変かもな。

なんて、ワクワクが萎んでいくのを自覚する。


「ラルスが古代魔樹トレントの木を使っていた、と言っていたからだいぶん使いやすいとは思うけど。しかしラルスは君に甘いねぇ、惚れてるのかな?」


ぶっ!な、なにを言い出すんだこの人!


「古代魔樹トレントは年に数本しか取れない希少素材だよ?昔乱獲されて今は絶滅危惧種だ。未開拓領域とかなら別だろうけど、ヘイルニルで手に入れるの困難だ」


「そ、そんな高価なもの、なんですか……」


「高価よりも珍しい、かな。流通量が少ないから高価なだけで、性能が良い物ならもっと他にもあるし。たろーくんの魔素性質と魔導弓初心者ということも含めると最適、だとは思うけどね」


ゴリゴリと魔草をすり鉢で潰しながら、レンさんは淡々と言う。

「ね?惚れてるでしょ?」


遠くで掃除をしていたアンナが幽鬼のようにゆらりと振り返った。

ぶるりっ。

寒気が。


話題を変えよう。


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