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29 凝り固まった思考

29



キングブル二頭の納品を終えて、帰宅する頃にはヘトヘトだった。

ただでさえ気温が低く体力が奪われる最中の、二連戦。

出した成果とは裏腹に足取りは重く、気を抜くと眠ってしまいそうになる。


「おかえり、たろーくん。聞いたよ、国からの納品依頼をこなしたんだってね」


疾風の皆様が『たろーハウス(ラルスさん命名)』に詰めていた。

正直、ラルスさんのネーミングセンスには絶句した。


「今帰りました。まいりました、計画にない依頼なんて受けるもんじゃないですね」


報酬は普段の倍、どころか出来高で二.五倍にもなっている。

二匹目は欠損が激しい為自給用に切り分けて持ち帰ったが、それでも充分な稼ぎになった。

が⸻



「⸻ということがあったんです」



暖を取る為にアンナの淹れてくれたコーヒーを啜りつつ、俺は今回の顛末を説明した。

疾風の皆様も真剣な表情で耳を傾けてくれている。


……ゴードンさんだけはグレイスに頬を擦り付けているが、それはまぁ、いいか。

なんかゴードンさんだけウチにくる理由が私的過ぎやしないか?


「なるほど、ダンジョンを目指すたろーくんに取っては避けては通れない問題に気づけたんだね」


レンさんの眼が遠い。

なにか思い当たる節があるのかな。


「とはいえ、魔素適正だけはどうしようもあるまい。魔素の多寡など、人生を賭けて改善していくものだ」


ラルスさんの言葉ももっともである。

“混ざる黒”⸻全適性の代わりにガス欠、の俺の魔素適正。

あるものでなんとかするしかないか。


「少し、整理しようか」とレンさんの冷静な言葉に、俺は頷く。

確かに、解決や対策を講じるにしたって優先順位は必要だな。


「まずはたろーくんの魔素総量の問題、だね。対応力は眼を見張るものがあるし、火事場のアドリブも、まぁ冴えてはいる。しかし大型二匹でガス欠。これは喫緊の問題だね」


ラルスさんが続く。

「グレイスの問題も無視できん。探索のキーマンとなる索敵役が、戦闘参加によりそのリソースを確保できんとなると、二重三重の危機に瀕する」


そしてアンナ。

「私がまとめて吹き飛ばせば問題もないのですが。封印の影響で魔法関連は……特に魔素環境の劣悪なダンジョン内では見込めません。魔闘一辺倒になります。申し訳ございません」


最後はゴードンさん。

「物理一辺倒なのも頂けないな。もう少し多様な手段を用意したいものだが、その要のたろーがガス欠では、な」


ゴースト系や、スライム系など、物理に耐性があるものが『遺跡』には跋扈しているという。

そうなりゃ詰みだな。


まとめると、連戦に弱くアンナとグレイスに頼れば頼るほどドツボにハマる、とそういうことになるか?

原因の大半俺じゃねえか。

情けねぇなぁ、俺。


「そうだね、ダンジョンは魔素が満ちていて魔獣も活動が活発だ。戦いが戦いを呼ぶ、なんてことも珍しくもない」


と、材料は出揃った。

あとはどうするか。

PDCAは課題解決の常だ。



◇◇◇


「解決策は割と簡単だけどね」


としばらく一同が考え込む中、レンさんがそう言った。


「え?」


割と詰んでいる状況の気もするんだが……

もはや俺はダンジョン挑戦は時期尚早と計画を見直す覚悟すら決めかけていた最中である。


「⸻パーティメンバーを増やす」


「あ」


レンさんの声が静まったリビングに木霊した。

ハッ、とさせられる。

……そうか、そりゃそうか。


ずっと二人と一匹だけで戦う前提で思考していた。

なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ俺。


「たろーくんはかなり“今ある物だけで”なんとか工夫しようとする傾向が強いね」


……確かに。

前世の社畜経験から、俺は俺に与えられたものでどうにかしようとする癖があるのかもしれない。


「頼っていい、と僕は思うけどね。まぁパーティメンバーを増やすとなると、黙っていない人もいそうだけれど」


と、レンさんはにこやかなまま、アンナを見た。


……

…………

………………あ。

なるほど。


「私ですか?私はご主人様の利になるのであればどんな人物であろうと歓迎いたしますわ」


ラルスさんが白目を剥いた。

この前散々俺とアンナの間を脅かす不逞の輩呼ばわりされたことを思い出しているのかもしれない。


ゴードンさんがグレイスの頭を撫でながら続ける。

「ともかく、パーティメンバーに求めるレベルも高くなる。索敵補助、魔素適正の幅広さ、魔法使い寄りかもしくは万能型になるな」


あと、できれば男性。

女性ならアンナが黙っていない。

たぶん、きっと、メイビー。


「癒しの魔素適正なんかもいいね。リソース拡大ではなく保険としてなら、現状のパーティ編成も腐らない」

とは、レンさん。


パーティメンバー拡充に発想を飛ばせば、さまざまなアイデアが浮かんでくる。


しかし、野良パーティならいざ知らず。

稀人と魔人と魔獣の既存パーティに加入してくれる、物好きはいるものか。


「なにも今すぐダンジョンに挑む訳じゃないだろう?冬をかけてパーティ拡充とダンジョン挑戦を目標に据えるのも、地に足付いてていいと思うけれどね」


レンさんのその言葉を皮切りに、その日はお開きとなった。

パーティメンバー、かぁ。

必要な事とはいえ、気苦労が増えると思うと、億劫なのも正直な所だなぁ。



◇◇◇


それから何日か、俺たちはパーティメンバーを探してギルドへ詰めた。

が、芳しくない。

才能のある人はもちろん、これから伸びていくだろう人も既にパーティを組んでいた。


これは、と思う人物にも出会えてない。

解決案自体はシンプルだが、中身はとんでもない案件だった時みたいだ。


ガルドさんにも相談したが、これもあまり効果はなかった。

時期も悪い、という。

冬にかけて冒険者稼業を休む人も多い。

なにも冒険者すべてがダンジョンに詰めているわけでもないし、現状稼働しているダンジョンは『遺跡』だけ。

つまりブロンズ以上が条件に入る。


「たろーはアンナとグレイスが従魔扱いだから、お前一人がブロンズでも問題ないがな。パーティメンバーに一人でもアイアンがいれば『遺跡』の挑戦は認められねぇよ。悪いけどな」


そうなのである。

アンナとグレイスはパーティメンバーだが従魔、という特殊条件が重なっているに過ぎない。

このことが人材スカウトの難易度を上げていた。


こうなればアイアン、もしくは冒険者になりたての人まで検索範囲を広げるか。

いや、しかしそうなれば、その人のランクアップまで『遺跡』挑戦はお預け、か。


ふむぅ。なかなか上手くいかんもんだ。

レンさんがパーティメンバーを増やせばいい、と助言をくれた時にはなんとかなりそうな気もしたものだが。



その日の夜には初雪が降った。

窓を開けて外を望む。

冷えた空気の中吸う煙草は格別だ。

冷気に混じった煙の味が際立つ。


異世界の雪は初めて見た。

ほのかに、青みがかった白。

こういう色彩の違いにはファンタジーを感じるよな。


思えば空模様は随分と俺のいた地球と違う。

朝は緑、昼は青。夜は紫がかった紺色だ。


星の瞬きはもっと色彩豊かだ。

紅、白が目立つ。

他には紫、緑と黄色。


紅と白は、アンナとグレイスを思わせる。

真紅の髪と瞳の魔人と、白灰のスノーウルフ。


その他に光る星々をこれから探すパーティメンバーに準えてしまうのは、今は仕方あるまい。


ならば俺はその星を携える夜空、か。

“混ざる黒”とは、レンさんも上手く名付けてくれたものだ。


「アンナ、パーティメンバーを増やす話し、どう思う?」


アンナはかちゃかちゃと食器を片付ける手を止めて、こちらを向き直した。

その仕草一つ一つに俺たちの生活の痕跡が見受けられて、俺はもうどうしようもない気分に駆られた。


「私は、合理的だと存じます」


凛とした言葉だった。

まったく、よくできたメイドだよ、ほんと。


「アンナはどんな人が来てくれたらいいと思う?」


「人……に限るのですか?」


⸻おぉ。

そうか。

そうかそうか。


俺はまだ凝り固まった思考の内にいたようだ。

そうだ、そうだよ。

なにも人に限定しなくてもいいんだよ。


現にアンナは魔人で、グレイスは魔獣だ。

魔人であるアンナならではの着眼点であると言えるか。


「確かに、アンナの発言で眼が覚める思いだ」


「光栄です」


外の寒さで脳の中身が全て入れ替わるような閃き。

俺はなにを見ていたんだ。


魔人だろうと魔獣であろうと、パーティとして機能することは目の前の一人と一匹を見れば一目瞭然だ。


光明が刺した、というと大袈裟になるかもしれないが。

それぐらいには、俺の心持ちは軽くなった。



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