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28 再戦

28


本日も快晴なり。

休日を挟んでからの数週間、俺たちはそれから二度のキングブルの納品を済ませた。


頻度でいうと一週に一度。

ほぼ完品に近い納品も、ギルドでは驚きはなくなりつつある。


最初から数えて次回の狩猟には、キングブル打倒は安定した。

もともと課題は分かりやすく対策も容易だった。

『沼』が完全展開を終えたのちに、グレイスが“釣る”。

これだけでキングブルの脳天を穿つアンナの『波濤』は冴えを極めた。


「たろー、順調の様だな。そうそう、おめえのランクアップの稟議は無事通ったぜ。あとでカウンターにこい」


なんて三度目のキングブルを納品を果たした際にガルドさんから呼び出しをくらう。

うし。順調だな。


次は予定通りダンジョン『遺跡』に挑戦、と意気込んでいる所を、ガルドさんが遮る。

ん?なんだ?なんかあったか?


「たろー、次にキングブルを納品するのはいつになる?」


週間での仕事はなるべくルーティン化している。

散発的に行うよりは、パーティのモチベーションの維持も容易、と考えてのことだ。

収支が安定している昨今、乱獲しなくてもいいという精神的な安定も大きい。


「そろそろ、冬に備えて『遺跡』の情報収集に舵を取ろうと考えていましたが」


「やっぱりな、打ち上げの時にも似た様なこと言っていたからな」


顎に手を当てなにかを考える素振りのガルドさん。

ふむ。なんだろうか。何が頼まれごとか。


ギルドからの正式な依頼と取ってくれていいんだが、と前置きを置いた上でガルドさんは話し始めた。


「もう一回だけ、キングブルの狩猟に行ってくれやしねえか?」


それは、まぁ話の文脈からそうなるだろうと察しはついていたが。


「国が完品のキングブルの評判を聞きつけて催促が来ている。なんでも年明けの歓待に使うメイン料理に候補に挙がってるんだとよ」


国、と来たか。


「前回の納品分までは卸先が決まっていてな、次が確約できんで話しが止まってんだ。どうだ?行けそうか?」


ここで、命令にならないところがガルドさんの良いところだが。

さて。


「来週納品したとして、年明けまでにはしばしありますが、大丈夫なんですか?」


「むしろ今が望ましいらしいな。メインが決まらん限り副菜は決められんらしいし、肉も今納品されれば熟成期間を設けられる」


なるほど、鮮度が命、というわけでもないらしい。

ヘイルニルは冒険者が支える都市。

それが獲ってきた食材、というのも豊かさのアピールになるとか。


「察しが早くて助かるぜ。毎年毎年いやんなるぜ、ったく」


ガルドさんとしては付き合い的に断りづらい、ということか。

それで俺に話しを持って来てくれるのも、光栄というものだが。


「わかりました。受領します。来週納品、でいいんですよね?」


「あぁ、かまわねぇぜ。冒険者がこの時期冬に備えるっつうことは先方にも必ず通す。そこはたろー達の都合を優先してくれてかまわねぇ」


ほんと、この人は。

こういう人柄こそが大都市ヘイルニルのギルド支部長が務まる由縁か。


では。

冬の前にもう一狩りいこうか。


◇◇◇



たった三週間、というのに自然はそれだけで姿を変える。

夏の残り香のようなまとわりつく湿気が、今や肌を刺す寒気に変わり、訪れた朝は息が白むほどだ。


浅く水が張っていた湿地帯も、霜が降り立ち踏みしめる度にパキパキと小気味の良い音をたてる。


冬の足音がそこまで迫っていた。


「アンナ、問題ないか?」


「はい。ぬかるむ泥よりは動き易いので、私としては問題ありません」


アンナに頷き返すとグレイスの方を見る。

闊達に動き回り周囲の匂いを嗅いで回る、もはや子狼と言えぬ程にその体躯を大きくした相棒。

グレイスは⸻もともとスノーウルフだ、逆に調子が良さそうか。


「であれば、俺が一番の問題か」


寒さで手は悴み、鼻の奥がひりつく。

体温を保つために魔素式カイロを携帯しているが、その為常に魔素消費をかられて倦怠感が付き纏う。


やはり最後にして良かった。

これ以上季節が進むと、死ぬ。


狩場に到着してからも一つ工程が多くなった。

『沼』を広げるにしたって、土が凍り上手くいかない。

水分とぬかるみの両方を保つ為に余分に水と火の魔素を展開する。


当然、魔素煙草の消費量も増えた。

ジリ貧だな。


「グレイス、いいぞ。キングブルを釣って来てくれ」


用意ができた事を報せると、グレイスは地面を凍らせて滑る様に駆け出した。

水と風の複合魔素、氷の魔素を発展させてスケートの要領で体躯を運んでいる。


「この秋一番成長したのはグレイスかもな」

「異論ありませんわ」


なんて、緊張感の無い会話ができるのも、多少余裕があるからか。


キングブルを釣り上げた合図として、魔樹が倒れる音。

当初は接敵が近く、『沼』の展開前にその巨大な体躯を現したものだが、今はそれも改善されている。

どころか。


「ウォン!」


滑走の勢いを殺さず急カーブし、グレイスは氷の魔素を展開。

霜がかった霧が発生し、キングブルが視界を失い巨木に追突した。


「いいぞ、完全に翻弄している」


キングブルのよろめき立つ足が我を忘れるほど地面を蹴った。

この煽りこそが『沼』へと至る誘蛾灯。

ずぶりっ、と音がしたかと思うとその巨大な体躯の半分ほどを沼にとられて沈み込んだ。


「アンナ!」


「はい!」


俺の声に呼応するように、アンナが弾丸の速度で弾けた。

瞬間的にキングブルの正面へ移動したかと思えば、ねじきれるほどの身体の捻り。

そこから解放される力が『波濤』の柄を渡り先端へ。


ゴォン!という衝突音。

振り抜くというよりは打ち付ける様な打撃が、確かにキングブルの脳天を直撃した。


泡を拭きながら沼へ沈んでいく猛牛を確認して、『沼』を解除。

⸻うし。狩猟完了だな。


タスクは全クリア。今回もアクシデント……なし、と。

うん、成長を感じられるな。


しかし確実に環境にリソースを削られているのを実感する。

魔素消費も重なっている。

潮時、と判断がつくいい依頼にもなったか。



⸻と、気を抜きかけた瞬間、グレイスが低く唸った。

気をつけろ、の合図。

俺とアンナが瞬間的に身構える。


再びの衝突音。

木々を薙ぎ倒しながら現れたのは⸻


二匹目!


「アンナ!『波濤』じゃなくていい!」


刹那の判断で俺は狩猟から迎撃に手段を変更する。

アンナも声に応えて『波濤』を投げ捨て、変わりに魔王城謹製の大斧を手元に召喚する。


番⸻越冬前でイラつく猛牛の逆鱗に触れたか、二匹目の勢いは一匹目を凌駕する。


「っ!散れ!」


と、指示を出すものの、近接での機動力は俺が一番低い。

飛び退くように猛牛から距離をとる、とすんでの所を通過していく。


勢い余ったキングブルが巨木に追突した。

グレイスが仕掛けた、先程とは違うぶつかり方はキングブルの戦意を損なうものではない。


「ちぃ!」


ここからはアドリブだ!

俺は水の魔素を集めて頭上へ。

グレイスが察したのか、氷の魔素を集めて冷風を起こした。


「アンナ、タイミングは任せる!」


正面衝突!

まるでダンプカーが激突したような激音と、衝撃。

しかしアンナも流石、魔闘術を全開にして斧で迎え打っている。


「ぐぅう!下がりなさい!」


獣と魔人の鍔迫り合い。

時が止まるようにアンナとキングブルが硬直する。

⸻が、その一瞬を待っていた!


「グレイス!」


俺は水の魔素を顕現させ、そこにグレイスが氷の魔素を送り込む。

グレイスの魔素を取り込み自前の魔素も送り込む!

辺りの冷気が渦を作る様に螺旋を描き、やがてそこには大きな氷柱が生み出された。


「っ!」


グレイスの雄叫びに合わせて、裂帛の気合いを込めて魔素を解放する。

アンナがタイミングを合わせる様に弾けて避ける。


その間を狙って氷柱がキングブルの頭上に自然落下し⸻


「ブルルゥ!」


脳天を穿つ氷の大槍が、猛牛の死体のモニュメントを象った。


◇◇◇


「うへぇ」


急な魔素消費で視界が回る。

魔素酔い。

二匹連続はキツすぎた、な。


「ご主人様!」


アンナが俺を心配するように肩を貸してくれた。

よくあの猛牛を止めてくれた。


息を整えポケットから魔装煙草を一本。

一息つくとやっと落ち着いてくる。


「……ふぅ。⸻課題は明白、だな」


冒険者稼業にはアクシデントはつきもの、とそれは計画に組み込める。

が、急展開での俺の魔素リソース管理。

及び強敵対応時のグレイスの役割重複が、索敵を疎かにしてしまう欠点。


そうだ、索敵!

三匹目は……ないか。

と安心するもダンジョンに向けて不安要素が見えてきたな。


アンナとグレイスはともかく、俺の継戦能力不足。

地形を使える今はいい。

ダンジョンでそれは通用しない。


加えて。

ダンジョンで連戦になれば。


アンナに負担が集中するのは明白、か。


大漁の成果とは裏腹に、今後の課題にどう取り組むか。

回る視界の中で、それでもはっきりとした不穏が全員の脳裏に浮かんだ⸻

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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