27 過分な夢
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その後ちゃっかりラルスさんのみならず、レンさんも自由に出入りする権利を提案してきて、それを俺は快諾。
一人も二人も変わらん。
しかしラルスさんの覚悟はなんやったんや。
アンナの暴走の余波で恥かいただけやん。
なんとなくレンさんの手のひらで踊っていただけ、の様な気もするが。
まぁ疾風の皆様に今更信頼関係を問うほど俺は擦れていない。
「では、改めて整理しますね。疾風の皆様のこの施設は基本出入り自由。ただ利用は龍の時刻(午後)の六時まで。それ以降は申請してもらい、宿泊時には施設管理責任者のアンナの許可が必要、と」
ラルスさんとレンさんが納得したように頷く。
アンナは俺の後ろに立ち俺の頭を胸で挟み込む様に抱いている。
や、やわらかぁ……ゲフンゲフン。
ラルスさんを睨んで片時も離れようとしない。
い、いや、もはや何も言うまい。
「いいね、助かるよたろーくん」
「恩に着る……これでやっと……」
と疾風の二人から感謝されて、まぁ悪い気分でもない。
結局折れてくれたアンナには、なにか褒美を取らせないとな。
「訓練などは地下室を利用して下さい。割と広い空間で第三階位魔法の威力まで耐える部屋があります」
なんと、という疾風の二人の驚愕の表情。
そんな空間があるのであれば、その価値はさらに跳ね上がるというもの。
逆に言えば日常的に魔素を使いにくい環境も、トレーニング施設と捉えればいいストレッチがかかってもいるのか。
深層に挑戦する上位冒険者限定、にはなるが。
なんかこれだけでも事業できそうだよな。
ほんと、この家どうなってんだか。
「たろーくんやアンナさんが居ない時は宿泊は出来ないのかな?例えば、今後たろーくんがダンジョンダイブをするのであれば、数日家を空けておくことも考えられるよね」
なるほど、そこも明確にしておこうか。
「その場合は基本的に出入り自由としましょう。制度の根幹はアンナの心象にありますから、アンナと俺がいなければ摩擦はない」
「家を開ける時は声かけるので、セキュリティ面だけお願いします」と俺は付け加えて笑った。
別にガチガチにルールで縛る必要性もないだろう。
今後必要になれば後から考えるでいいと思う。
こんなものか。
ただのキングブル討伐の打ち上げが、思わぬ形に発展したものだ。
とりあえず、俺としては疾風の皆様と関係を密に取れることは利益、かな。
◇◇◇
夜。
今日は皆様には帰って頂いた。
早速ラルスさんがアンナに宿泊を申請したが、即却下を喰らってすごすご引き下がっていたのは笑った。
「アンナ、色々とありがとうな」
何に、と明言するとまた変態モードの依代となりそうなので、ぼかして伝える。
「いえ、疾風の皆様もご主人様の『城』の有用性には気づいてらっしゃるようでしたし。私もメイドの身にありながら身勝手な言動、申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げるアンナ。
多少、不機嫌を飲み込んだような⸻そんな仕草。
角を優しく撫でる。
「アンナが俺を慕ってくれてるのは……わかってる」
アンナがハッとする。
俺も男だ。
アンナの様な美人に露骨に好意を伝えられているのに、惚け続けるほど朴念仁でもない。
ただ⸻
「もう少し、もう少し待っててくれるか。冒険者としていっぱしになるまで、たぶんもうちょっとなんや」
もはや関西弁を矯正する気も失せた。
真摯な心には、真摯に応えなければ、と思う。
「ご主人様……」
「嫌な思いもさせると思うけど」
首をぶんぶんと振って眼を潤ませてくれるアンナを見て、俺も鼓動が早くなる。
「遠くない将来、アンナがまだ俺のことを慕ってくれてるなら、そん時は俺から言わせてや」
なんて、キザな言葉。
キャラじゃないとはわかっているけれど。
「それだけでアンナは……地獄の炎にだって耐えられます」
二人して、顔を見合わせて笑った。
夜の帷に吸い込まれるようにして、それは消えた。
◇◇◇
翌朝、アンナの機嫌はすこぶる良かった。
早速ラルスさんが朝から訪れ、地下室に籠ろうとしたのを快く受け取っていた。
昨夜と正反対のアンナの態度に、ラルスさんが惚けた顔をしているのが面白い。
「たろー、本当になにも無かったんだろうな!?」
あかん、この人変に察しが良すぎて明後日の方向に勘違いしとる!
「ありませんって。誓って!」
ラルスさんは顔を真っ赤にして胸の前で手を組んでいる。
その女性らしい仕草は素直に可愛いと思うが。
「アンナ、今日は休みにしよう。最近キングブル関連で張り詰めていたし、たまにはいいだろう」
俺は話題を変えるために強調してそう言った。
アンナもニコニコと頷き、グレイスは部屋を駆け回っている。
「ラルスさんも自由に使って下さい。今日一日は俺たちもゆっくりしますので」
「……そうか。ならば地下室を使わせて貰おう」
なんて、今朝の一幕。
あぁ、煙草がうめぇなぁ……。
「ご主人様はどうなされるのですか?私はどこでもお供しますわ」
アンナが意気込んでそう言う。
多少昨日のメンタルケアが効きすぎた、かな?
俺の精神値は限界すれすれだけど。
「ん、今日は別行動にしよう」
ガーン!と背後にオノマトペが聞こえて来そうな露骨な狼狽。
おもろいなこいつ。
「な、なぜ!アンナとご主人様は将来を誓い合った二人ではありませんか!」
だぁーしゃい!そこまで!
また話がややこしくなる!
「休みだからだ」
魔族はその本質として“仕える”という行動が本能レベルにまで刷り込まれているらしい。
そういう奉公を俺は望んでいない。
「アンナはアンナのやりたいことをする、のが休みの意味だ」
「……で、でしたら、私はご主人様と一緒にいるのがやりたい事ですわ!」
んー、なんと説明したものか。
ブラック環境まっしぐらのこの愛社精神はなんとかせねばならん。
「そういうことじゃなく。例えば⸻そうだな。“俺がいない”状況にしか出来ない奉公とか、そういうものはないか?」
例えば、自分を磨く、とか。
掃除や洗濯に時間を割く、とか。
……あかん、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
「ご主人様不在で……できる奉仕……」
何百年も仕えることが当たり前になっていたメイド魔人には難しいか。
しかしこれは飲んでもらわねばならない。
ただでさえ俺たちのパーティは多種多様性が高い。
俺は稀人、アンナは魔人、グレイスに至っては従魔である。
メンバーが最高のパフォーマンスを発揮するのは、なにも仲良しこよしの関係ではない。
適度なプライベートがあってこそ、それを寛容する歩み寄りが発生する、と俺は考えている。
「……わかりました。そこまでお考えであれば。アンナは本日一人でなにかできることを模索しようと思います」
五十年も魔王城で一人でいたのだ。
その葛藤も致し方あるまい。
「頼むな。お土産は買ってくるから」
「っ!でしたら!帰って来た際には熱い接吻をぉ!♡」
「却下」
……いってきます。
ほな。
◇◇◇
一人になりたかったのには別の理由もある。
ここ最近緊張感の中にあったのを解したい、というのも本音ではあるが。
なにより考えをまとめる時間が欲しかった。
財政は改善された。
居住空間も約束されている。
では今後俺は何を目指していくべきか。
今のまま細々と暮らしていくのだって、悪くはない。
朝の九時を伝えるヘイルニルのゼンマイ式の鐘の音。
蒸気機関車が絶えず傍を走り、鉄と鉄が擦れる音を咆哮している。
子供のはしゃぐ声。
誰かと誰かぶつかった拍子に、硬い何かが落ちた。
それだって、この魔装都市ヘイルニルの日常の一部だ。
俺は俺がこの世界に転生してきた意味を考える。
生きるのに必死だった転生したての頃とは違う。
生活は安定したといっていい。
しかしアンナと過分な約束をしてしまったものだ。
少なくともブロンズランク……いやもっと高いランクにならなければアンナと釣り合うべくもなさそうだ。
結局のところ、と俺は結論づける。
何がやりたいか、ではなく何を成し遂げたか、ということに集約しそうだ。
煙草を吹かして、吸って吐いた。
俺は冒険者になった。
⸻過分な望みと知りつつ、アンナを幸せにすることぐらいは夢見てもいいではないか。
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