26 ラルスのお願い
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「断固!断固反対!反対ですわ!わ、私とご主人様の愛の巣に、如何にご主人様にとって恩人のラルス様であろうとも、同居するなんて!」
アンナが頭から湯気が出そうな程に声を荒げている。
珍しいな。
とはいえ、俺も驚いてはいるが。
その理由はアンナとは別だろう。
「……ラルスさん、別に家の部屋は余っていますし、恩義のあるラルスさんの頼みとあればやぶさかではありません。が、説明は頂いてもよろしいですか」
吠えるアンナはさておき、理由ぐらいは聞いてもいいはずだ。
別に稼ぎには困ってもいないだろうし。
会話の文脈からすると、この家関連か?
レンさんも驚いているが、やや納得した様子。
パーティメンバーには思い当たる節があるのか。
「もちろんだ。……我々疾風はダンジョンの深層を目指していることは、たろーも知っているな?」
ダンジョンの……深層。
ギルドが管理できない、中層以下のことだ。
未開拓領域の確認が済んで、そこはやっと中層に認定されるのだったか。
「ダンジョン深層の開拓は冒険者の夢さ。僕たち疾風はその為に組んだパーティ、という事だね」
レンさんの補足にラルスさんも頷く。
なるほど、確かレンさんはヘイルニルのアカデミー出身の魔法士だったな。
ゴードンさんは冒険者、ラルスさんはエルフだったはず。
産まれも出自も違う皆様が組んでいるのは、そう言った理由もあったわけか。
「しかし、それがどうして俺の家に住む、ということに繋がるんです?」
話が長くなるからか、ラルスさんは自分を落ち着ける様に丁寧に喫煙した。
俺も息を整える為に一本咥える。
「順に説明する。たろーは深層の経験はなかったな?」
ない、と言えばないが。
魔王城からアンナと脱出する際、アンナはそこを中層の底、と言っていた事を思い出す。
それだってアンナの力一本で脱出したものだが。
レンさんが続ける。
「深層は未開拓領域の為にまずその対応力が求められるんだ。魔獣、魔人等なにも敵は魔物だけじゃない。環境や自分の体調の変化だって気を配る必要がある」
「特に深層に入ってからの魔素濃度は筆舌に尽くし難い。魔素が濃すぎて互いの属性が干渉し展開するのも一苦労だ」
何かを思い出しているのか、ラルスさんには悔しそうな色が見えた。
なんとなく、話が見えてきたな。
「ご主人様、ですので私は魔法よりも魔闘中心の戦法を取っておりましたわ」
確かに、思い返せばアンナは斧ばかりを振るっていたな。
いくら封印の影響で複雑な魔素展開が難しいとはいえ、魔法で方がつく場面も多かったはずだ。
……ん?なんか違和感あるな?
「俺は、あまり苦に感じませんでしたが」
自分で言って、ハッとした。
⸻俺の魔素適正“混ざる黒”
魔素量は低いが、全適性複数展開を得意とする、その特性か。
「まさか冒険者成り立てのアイアンランクのたろーくんが深層向きとは、面白い皮肉だけどねぇ」
レンさんの皮肉る様な言葉には揶揄う調子がある。
まったくだ。
その道のプロであるラルスさんとレンさんが苦労する環境を、俺如きが役立てるとも思えんしな。
ラルスさんが確信したように言う。
「“この家”はその深層の魔素環境と酷似しているんだ。ダンジョン産の石材を使用していると言っていたな?それもあるんだろう」
そう言い終えるとラルスさんは最後に大きく煙を吐いた。
空に消えていくそれが、ラルスさんの決心にも見えた。
「なるほど……それで」
「あぁ、改めて言おう。たろー、この家に住まわして欲しい。もちろん家賃は払おう。家事も手伝う」
それにラルスさんが家にいれば詳細な相談や情報収集もスムーズか。
ちゃんと俺にもメリットがあるな。
「断固として反対でございます」
アンナがその豊満すぎる胸を張って言い切った。
レンさんがクスクスと笑う。
⸻この人楽しんでるな、絶対。
んー、従業員と取引先との摩擦、に似ているか。
どうしたものか。
◇◇◇
「アンナ、反対の理由はなんだ?」
頭ごなしに否定することはハラスメントに繋がる。
まずはヒアリング。
相手の要望や立場に寄り添った提案でなければ、良好な住環境とは言えないだろう。
従魔だからといって上下関係に甘えることは、俺には出来ない。
「それは……その」
珍しくパーフェクトメイドアンナの牙城が崩れてるな。
感情論になっていることにも察しがついてるようだな。
ラルスさんの声にも覚悟がある。
「世話になろうと言うのだ。遠慮なく言って欲しい」
精神的な衝突はないにしろ、このまま同居人として暮らしていけば摩擦になると理解しているのか。
ラルスさんらしいと言えばらしいか。
意を決したようにアンナも言った。
「わ、私はご主人様に取っては主従の関係にあり、同衾に至っても道義的問題はなく……対してラルス様とご主人様の様な伴侶を持たぬ独り身が一つ屋根の下に暮らすなど……!」
茶、吹いた。
なぁにをいっとんじゃこいつぁ!
ラルスさんも顔を真っ赤にしている!
違う!
なんかこのパターン前もあった!
「そ、そうか、確かにたろーも男、だな。それにアンナとそのように仲睦まじい関係だった、とは。そこは配慮が足らなかったな、すまない」
あっかーん!
ものすっごい角度で勘違いしとるぅ!
「違います!ラルスさん勘違いしないでください!くぅおらアンナ!誤解を招く様な発言は謹みたまえ!」
「し、しかし私がたろーとその様な事にならん可能性も否定、で、できんか。むぅ、難しいな」
この人もこの人でなにゆっとんじゃ!
否定しろ!否定!
「一旦冷静になりましょう!ね!?その方がいい!その方がいいと思いますよね!?レンさん!?」
暗に助けろ、とレンさんを見ると爆笑している。
こんちくしょうめ!
やばい、四面楚歌や。
とりあえず話題を!
話題を変えんと!
と、そんな事を考えていたらレンさんがようやく助け舟を出してくれた。
「まぁまぁ二人とも。たろーくんの言う通り冷静になりなよ。道義的な部分はともかく、メリットデメリットの話をしないとたろーくんの判断も難しいよ」
さりげなく同衾うんぬんは他所に置いておいて、話を本筋に戻してくれるのは流石だ。
置いておいただけで何の解決にもなってないのは今は忘れるとする。
レンさんは可笑しさを堪える様に続ける。
「こうするのはどうかな?パーティメンバー以外の互いのパーソナルな空間は許可なく立ち入りの禁止。その代わり共有スペースは自由」
ひとまずはそれでアンナさんの懸念はなんとかなるんじゃない?とレンさん。
「それか同居ではなく施設利用の自由化、とかかな。自由に出入りできる権利、だけど住む場所は別」
レンさんの提案は最もに聞こえた。
ラルスさんの目的は生活にあらず、拠点環境そのものと言えるから、俺たちが居ない時にも使えるのであれば、それはいい譲歩と言えるか。
アンナが「後者です!断然後者!」
と言っていることからも、アンナが懸念しているのは要は俺とアンナとグレイスのリラックスタイムを邪魔されたくない、ということだろう。
これはいいんじゃないか?
「そうですね、時間が遅くなった時は泊まっていけばいいですし、その際はレンさんのおっしゃってくれた前者を適用すればいい。どうです?ラルスさん?」
「願ってもない」
快諾。
ラルスさんとしてはこの拠点内を使えるだけでも収穫、か。
さもあらん。
話がまとまりそうになるとアンナが俺の腕を取り、その豊満過ぎる胸で挟み込む様に抱き抱えた。
おおぅふ。
恐ろしい破壊力。
……じゃなくて!
「ラルス様、ご主人様は渡しませんから」
「……善処しよう……」
なんじゃこりゃ……
なんかもう疲れたよ僕。
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