25 祝勝会
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もちろんメインディッシュはキングブルの肉。
納品外にも少し自給ようにもらったものを今回は振る舞う。
グレイスが美味そうにがっついていた。
MVPを労うのに役不足ではしまらんからな。
「素晴らしい肉質だな。キングブルとはこんなに柔らかいものだったか」
ラルスさんが舌鼓を打ってくれる。
アンナが嬉しそうに頷いた。
「たろー、酔っ払う前に言っとくぜ。今日の依頼達成に合わせてたろーのランクアップ申請を通しておいた。合否にはしばらくかかるが、キングブルの納品が続けば問題なく通るだろう。励めよ」
伝えるべきは伝えた、とガルドさんは酒を煽った。
これ以降仕事をするつもりはないらしい。
「ありがとうございます。引き続きキングブルに対象を絞って依頼をこなしていくつもりです。今回の反省点も改善できれば、仕事も安定できそうですし」
グレイスの釣りタイミングや、俺の罠設置のスピード感が改善されれば、あとはアンナが『波濤』振るうだけになる。
収益は劇的に改善されるだろうし、一回の遠征で複数狩猟も夢ではない。
「もう仕事の発展を考えているのかい?たろーくんは流石だねぇ」
レンさんも肉を咀嚼しつつそう言ってくれた。
この人以外に食うよな。
「そもそもキングブル討伐を単発にするつもりもありませんでしたしね。その為の新武器への投資の面もありましたし」
目的はランクアップとグレイスの餌の確保である。
大きくコツコツと。
それが今回のプロジェクトのテーマでもあったしな。
「それだよそれ。『波濤』の使い心地を聞かせろ」
ブルザーグさんがアンナの酌を受け取りながらそう話を促す。
酔っているのか露骨にアンナの胸を凝視している。
くそが。
「柄の部分の硬さは申し分なかったですわ。素早く打撃部分に乗る荷重が、インパクトの瞬間に移る感触。もう少し“振り抜く”より、“打ち付ける”感じに振るとコンパクトになりそうです」
アンナの言葉にすっと目線を鋭くさせるブルザーグさん。
「重心弄ればもうすこし改善できそうだな。意匠通りの効果は得られたのか?」
「それはもう。頭部破壊……しかも中身だけ潰れる、いわば破城槌の様な効果でキングブルを一撃。はぎ取り部位の欠損はみられないのは、ご覧の通りです」
テーブルにこれでもかと敷き詰められた猛牛料理の数々。
ギルドに納品してなおこれである。
「たろーくんもえげつない事を考えるね。それも転生前の発想かい?」
これはレンさんの言葉。
別に物理に詳しいわけでもなかったが、発想は数ある漫画やアニメのコンテンツからの影響なのはあるだろうな。
「最初の発想点はアンナが強すぎる、という点だったんです。しかもそれを手加減できない」
魔族として、相手を粉砕するのは本能に近いらしい。
「であれば、それを弱くする発想⸻に付随して力点の作用を変えれば、まぁなんとなく上手くいくかな、と。ほとんどはブルザーグさんの知恵があってのものですよ」
下手にアンナに手加減を覚えさせるのは気が引けた。
ハイパフォーマスを発揮する者に手抜きをさせるなど、今後のイップス問題に発展しかねない。
「へぇ、珍しい考え方をするもんだ」
ゴードンさんがグレイスに肉を与えながら、感心したように頷いた。
この人はグレイスを猫可愛がりしてるよな。
グレイスは狼だけど。
「流石ご主人様ですわ。わ、わたくしを乗りこなすのは、ご、ご主人様だけですわぁ……♡んほぉ♡」
……
…………
………………
さて、話が途切れた所で大切な確認だ。
「レンさん、キングブルが湿地帯に蔓延るのは秋の間でしたよね?」
レンさんも勤めてアンナを無視してくれた。
うん、変態は無視に限る。
「そうだね。秋の実りを求めて魔山デルヴァンドから降りてきて冬に備える」
「加えて言えば冬のデルヴァンド大湿地帯での依頼は過酷の一言だ。体温を奪われてベストを発揮するのも叶わん」
ラルスさんが補足してくれるのに俺は頷く。
スケジュール間が決まりそうだな。
「では秋いっぱいは湿地帯でキングブル、冬からダンジョンに籠るのが現実的ですか」
冬のフィールドワークは物資の消費も増す。
稼ぎも減るというものか。
「その頃にはランクアップも話ついてると思うぜ。いよいよだなぁ、たろー」
魔装都市ヘイルニルの抱える二大ダンジョンの一つ、『遺跡』への挑戦が見えてきた。
「もう新人とは言えないね」
「がっはっは、ギルマスとしても有能な冒険者が増えるのは歓迎だ!」
「たろーならば、問題あるまい」
「グレイス可愛いなぁ」
四者四様の励まし(?)の言葉に俺は気を引き締めた。
ゴードンさんがグレイスにデレデレなのは、ツッコまずにおこうか。
◇◇◇
「しかし、順風満帆とはたろーの事だな」
ややあって、ラルスさんがそう言った。
夜もふけり用意した食事はほとんどなくなっている。
ゴードンさんはグレイスの腹に顔を埋めて眠っていた。
ブルザーグさんとガルドさんは酔いが回ったのか、机に突っ伏して寝ている。
アンナは食器を片付けるのにキッチンにいた。
「この世界に転生してきて僅か四ヶ月で家持ちでキングブル討伐。確かに目を見張る」
向かいに座るレンさんもコーヒーを啜りながらそう応えてくれる。
カップから立ち上る湯気が秋の冷え込みを表していた。
「運に恵まれたのもおおきいです。疾風の皆様にガルドさん、この物件を紹介してくださったセスタ不動産の皆様、ブルザーグさん。人の巡り合わせがなければここまでは」
右手が義手の元冒険者不動産屋セスタさんと、その妻リネンさんの顔が浮かぶ。
今度また挨拶に行かないとなぁ。
「大切にしないとね」
レンさんの言葉がしみじみと沁みる。
ほんと、巡り合わせに感謝だ。
ラルスさんが淡々と続ける。
「そのセスタ不動産も上手だな。たろーにしかこの物件は取り扱えんだろう」
話は自然と拠点に関して、に移った。
熟練の冒険者であるラルスさんとレンさんも、この特殊な仕様である家が気になるらしい。
「見た目はサイコロを無造作に置いただけの様な無骨なものですけどね。ダンジョン産の石材を使った“魔素を呼吸するような”性質を持っているらしいですよ」
そしてその魔素が混じり合わずに、単色でそのままある、という。
「確かに……不思議な感じだね」
レンさんが火の魔素を灯そうとすると、自然と水の魔素が干渉して不発に終わった。
「たろーの魔素適正“混ざる黒”に最適だな」
ラルスさんは鋭くその事に気づいた様だ。
そう、ここは複数魔素展開こそが真価を発揮する。
「魔素が満ちるので従魔も心地よいみたいですね。グレイスが短期間であんなに大きくなったのにも納得できます」
アンナがこの家に来てから妙に肌艶が良く露骨に色気を醸し出してることには……黙っていようか。
「……なるほど……な」
ラルスさんが深く思考の渦へ意識を落とし始めた。
なにやら考え込む仕草。
なんだ?
「どうしたの?ラルス?」
「……むぅ、まぁ、なんだ」
そして歯切れが悪そうな様子。
煙草を咥えたまま、何やら言い淀む姿はラルスさんには珍しいな。
ガルドさんのいびきが大きくなってきた。
「たろー……その、申し上げにくいんだが、少し頼まれてくれんか」
ややあって、ラルスさんは白状する様に言った。
外で鳥が鳴いている。
ヘイルニル名物のゼンマイの音は聞こえない。
アンナが追加の茶菓子を持って帰ってきた。
意を決した様な、ラルスさんの視線と頷き。
「……この拠点に、私を住ませてくれないか?」
……
…………
………………
「……は?」
俺の惚けた声に、アンナが茶菓子を落とす音が重なった。
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