24 キングブル納品
24
ギルドはキングブルが納品されたぐらいでは騒がない。
が、それが“冒険者登録をして三ヶ月半”の新人であれば別のようで、たまたま居合わせたギルドマスターガルドさんと疾風のラルスさん以外は、空いた口が広がらない様だ。
「まじかよ……」
「あいつ稀人のやつだろ?」
「夏頃に登録したばかりじゃ無かったっけ?」
「アンナちゃんかわええ……」
なんか不穏なセリフも混じっているような気がするが、俺としてもそんな奇異な視線でいちいちメンタルをやられていては冒険者稼業は務まらない。
胸を逸らす様にギルドカウンターまで歩く。
「先日のキングブルの納品依頼に来ました。受領をお願いします」
騒ぎになっているのは、その成果の姿にもある。
ほぼ“完品”。
アンナが内部だけ破壊したので、角の一本と内蔵以外に欠損がない。
取れる皮や肉はまるまる体躯の大きさに等しい。
結構な稼ぎになるんじゃないか、と露骨に涎が垂れそうになるのを済んでのところ耐える。
「たろー、お前なぁ、なにをどうしたらキングブルがこんな姿で納品されるんだよ」
ガルドさんは腰に手を当て呆れ顔。
ラルスさんは煙草を吸いながら猛牛の身体を検品していた。
「外傷は見当たらんな。角の欠損のみ。それも片方だけ、か。やや泥に汚れてはいるが、それは湿地帯を考えれば特にか。毒殺……?いや毒の魔素は感じられん。まるで脳がいきなり壊れたような……」
流石、鋭い。
しかしそれ以上踏み込んで聞いてこないのは、例え縁のある冒険家同士であっても武器や戦略を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反と心得ているからか。
「たろー見事だ。成長したな」
煙草の煙を吐きながらの感嘆が依頼帰りの殺伐とした心に沁み渡る。
嬉しいな。
「運が良かっただけです」
「運も実力の内と言うからな。私とてキングブル相手を完品で納品できるか、と問われれば少し返答に困るな」
確か、ラルスさんは弓や魔法、近接は剣を使う万能タイプだったよな。
キングブルの様な突進偏重の魔獣相手には何か工夫が必要か。
そういう面では相手に恵まれていた、とも言えるか。
いかんいかん。
再現性の無い成果に喜んでいるようでは、と俺は俺を叱咤する。
「噛み合う相手だった、ということもあります。アンナ、グレイスがいなければ無理でした」
「……過分な成果にも驕ることなく結果を分析できる。お前はいい男だな、たろー」
急なラルスさんのデレにドキリとする。
アンナが幽鬼のようにゆらりと背後に立った。
うっ、寒気が。
◇◇◇
査定が終わりその成果が革袋の重さに変わると実感が湧いてくる。
これは⸻久方ぶりの黒字展開。
自然に顔が綻ぶと言うもの。
「ご主人様、本日はお祝いですわね」
幽鬼から立ち直ったアンナにも笑顔がある。
それもそうか。
アンナの過剰戦力で赤字続きだった側面も否定できないもんな。
ん。今日ぐらいそれもいいか。
どうせならその場に居合わせた疾風さんを誘おう。
ガルドさんは……まぁ言わなくてもくるかな。
「ラルスさん、この後ご予定は?」
「なんだ?レンとゴードンと打ち合わせが終われば特にないが……」
ちょうどいい。
三人揃うのならば、今まで後回しにしていた拠点に招くのもいいな。
「この後打ち上げに拠点に戻るんですけど、疾風の皆様もどうですか?」
「かまわんが、いいのか?」
初の大捕物での打ち上げに、他人である疾風の皆様が参加することに抵抗があるのか。
「お気を使われてるのならば杞憂です。疾風の皆様にはお世話になってますし」
「……そうか、ならばご一緒しよう」
一瞬だけ、アンナの目線が鋭くなった。
誰にライバル視してんねん、お前……。
「ではレンとゴードンにも声をかけておく」
「お願いします。龍の時刻(午後)四時ぐらいには、ギルド辺りにいてくだされば、迎えに上がります」
わかった、と深く頷きを返してくれてラルスさんは去って言った。
さて、もう一人報告が必要な人がいるな。
「アンナ、帰る前に職人街に行こうか」
随分とアンナの新武器『波濤』の作成相談には熱心に乗ってもらった。
打ち上げに誘うぐらいは良いだろう。
「もちろんですわ、ご主人様」
アンナも波濤を掲げて背負い直す。
どこに行くかは察しがついているらしい。
「親方、来ました」
親父は今日も軒先でハンマーを奮っていた。
カンカン、と鉄同士がぶつかる音に合わせて、火花が散る。
「おぅ、たろーじゃねえか。どうだった、キングブルは」
親父も来訪の理由を察したらしい。
「無事、先程ギルドに納品しました。今日はそのお礼と、打ち上げをするのでお誘いに」
ハンマーを止めてこちらに向き直る親父。
腰を手を当て伸ばす仕草が妙に職人臭い。
「あぁ?いいけどよ。あんまりいねぇぜ、武器工房の親父にまで声をかける物好きは」
かまわない、と俺は思う。
他の冒険者がどうであれ、俺はこの人との縁を大切にしたい、とそう考えている。
「俺がそうしたいんです。酒でも飲みながら、『波濤』の報告なんかができれば、とそう考えています」
「へっ、物好きな奴だ。変わってるって、言われねぇか?」
「稀人ですから」
と、そんな軽口。
「メイドですから」と何でも済ますアンナの事を言えないな。
「わぁったよ。今打ってるこいつが終わったらいくさ。ギルドに向かえばいいのか?」
「いえ、拠点で行いますので。グレイスを置いて行きます。⸻案内任せたぞ、グレイス?」
オン!と一声吠えて了解の意を示すグレイス。
感謝を込めて撫でてやる。
嬉しそうに目を細める狼。
魔獣の肉をたらふくやらないとな。
では、とその場を去り、市場に寄って食料調達し帰宅。
荷物を整理して片付ける頃には、疾風の皆様を迎えにいく時刻になっていた。
「アンナ、皆様を迎えにいく。準備は任せていいか?」
「もちろんでございます。歓待の用意は、このアンナが」
夕刻のヘイルニルを引き換えす。
職人街は未だ賑わいを見せているし、どこかで蒸気の漏れる音がする。
油と煤の匂い。
に混じって、夕餉の匂い。
技術と活気が生活に混じるこの街にも、慣れたものだった。
◇◇◇
「ブルザーグの親父!なんでここに!」
拠点に案内したギルマスガルドさんが開口一番に叫んだ。
武器工房職人ブルザーグ。
アンナの『波濤』を拵えてくれた親方だ。
なんだ?親父と知り合いか?
「んだぁ?ガルドのクソガキじゃねえか。オシメは取れたか?青二歳」
いつの話をしてんだよ、とガルドさんが呆れている。
「お知り合いだったんですか」
「おぅ、引退する前は世話になった」
既に酒を煽っている親父が舌打ちをかます。
なんてわかりやすい職人ムーブ……
「こいつぁ新米の頃にバカスカ武器を壊すもんでな、当時のギルマスから紹介されて武器作ってやってた。それがクソ生意気な小僧でよぉ。わかりもしねぇくせに注文だけは一丁前にしやがるもんだから俺も腹たってな」
なんとなく、ガルドさんの現役時代が目に浮かぶようだ。
バツの悪そうに頭をかくガルドさん、なんか新鮮だなぁ。
「昔のことをいちいちと、若かったんだから仕方ねぇだろ」
「うっせぇ、誰のおかげでギルマスまで登れたと思ってやがる」
「親父のおかげでもねぇよ!」
これ以上ない自己紹介だったな。
初めて会した疾風の皆様も笑ってくださっている。
ブルザーグさんとガルドさんに感謝だな。
「ブルザーグさん、こちらは俺が世話になってる先輩冒険者『疾風』の皆様です。奥から、ゴードンさん、ラルスさん、こちらがレンさんです」
「知ってるわ。この街でゴールドランクの“疾風”知らねぇやつなんて潜りかなんかだろ」
ご面識はない様だが。
まぁ疾風は有名人だからな。
しかし、そう思うとすごいメンツだよなぁ。
ギルドマスターに、ギルマスにタメ口を使う職人に、名が知れ渡っている上位冒険者。
加えて⸻
「ようこそおいでくださいました。ご主人様より歓待の命をお承りましたメイド、アンナです。本日は何なりとお申し付けください」
そう、このメイド。
実はこのメイドが一番クセ強。
元魔王城のオールワークスメイド統括上位魔人変態メイド。
属性盛りすぎ。
「みなさん、今日はお集まり頂いてありがとうございます。皆様のおかげで初の大捕物となりました。そのささやかなお礼をこめて本日招かせて頂いた次第です。どうかお寛ぎください」
乾杯が始まった。
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